コミカルな電子音と子供の声、そして忙しない
ゲームソフトのパッケージやタコの足の様な配線、そして空っぽになったお菓子の袋が、部屋の床に嫌な彩りを与えている。
ここはミレニアムサイエンススクールの部室棟の一角、ゲーム開発部が占拠している部屋だ。
[ゲーム開発部 コユキ]
「えいっ! うりゃ!」
ガチャン! ガチャン! という、小気味良い効果音が、まるで子供の声に合わせる様にモニターから発せられる。
子供が
[ゲーム開発部 コユキ]
「おりゃ! おりゃ! おりゃおりゃおりゃ!」
子供の苛烈な猛攻により、対戦相手は既に虫の息といったところ。
実は、子供がこれ程に攻撃を重ねて仕掛け続けられるのには、とある理由があるの。
子供は、盤面と次に降ってくるパズルのピースを一目見ただけで、どのようにピースを配置するのが最適か即座に分かってしまう。そんな才能を持っていたんだ。
子供はゲームであれば何でも好きなんだけど、やっぱり自分の才能と相性の良いこういった対戦型のパズルゲームを特に好んで遊んでいるみたい。
そして、そんな才能を武器に勝ち星を荒稼ぎする子供は、界隈ではちょっとした有名人だったりもするみたいだ。
[ゲーム開発部 コユキ]
「にっはっはっ! ムダですよムダぁ~! これでトドメです!」
声が届くはずもない画面の向こうの対戦相手に向けて煽りの言葉を吐く子供。
このゲームを少しでも触った人間が今の勝負の状況を見ると、大半はこのまま子供の勝利に終わると予想するだろうけど……
……勝負の結果というものは、実際に終わるまで分からないものなんだ。
[ゲーム開発部 コユキ]
「あ」
ほら、せわしなく動いていた子供の手元が少し狂ったせいで、子供が本来想定していた場所から少しズレた所にピースが置かれてしまったでしょう?
[ゲーム開発部 コユキ]
「あああああああ!!!??!?」
子供が絶叫するのも無理はない。先程子供がしてしまったミスはたった1マスのズレだけれど、それでも、子供に超有利だった状況を五分五分に戻してしまうくらいにはそのミスは致命的なものだったから。
そしてそれを見逃す程、今回の対戦相手は甘くなかったみたい。
[ゲーム開発部 コユキ]
「リ、リカバー! 早くリカバリーしないと……は!? え、ちょ、ちょっと連鎖が繋がり過ぎじゃないですか!? ちょ、まだ繋がるんですか!? 流石に運良すぎじゃないです!? ちょ、ホント、ヤバ……」
優勢超えて勝勢だったのが一転、たちまち子供は窮地に追い込まれてしまったの。
焦りは更なるミスを生み、先程のまでの有利がまるで嘘のような苦しい状況に立たされた子供は、そのまま不利を挽回することができずに負けてしまった。
[ゲーム開発部 コユキ]
「うあぁああああーーなんでーー!」
悔しさで泣き喚く子供。試合後のチャットでご丁寧に煽りの言葉が飛んできたことも余計に子供の神経を逆撫でするんだ。
[ゲーム開発部 コユキ]
「キー! ムカつく! 途中までボコボコにされていたクセに! ちょ~っと私のミスに救われた身で、よくもここまで煽れますね!
お? 再戦ですかぁ? 良いですよぉ!? 次こそは身の程を思い知らせて──」
そうやって子供が再戦に応じようとしたとたん……
……突如、画面が暗転した。
[ゲーム開発部 コユキ]
「えっ!?」
[ゲーム開発部 ユウカ]
「はい、そこまでよ。コユキ」
ゲームで遊んでいた子供の後ろには、いつの間にか少し暗い青髪を携えた子供が立っていたの。
子供の手の中にあるリモコンから、ゲーム画面の電源を切ったのは彼女だということが分かるね。
[ゲーム開発部 コユキ]
「なにするんですか! ユウカ
[ゲーム開発部 ユウカ]
「なにするんですか! じゃないわよ……朝からず~っとゲームの画面に張り付いて……
……あのね、私達はゲーム
確かに資料や参考のためにゲームを遊ぶこともあるけれど、それは遊んだ経験を開発の参考にするため。本業はゲームの開発なの。分かってるの?」
[ゲーム開発部 コユキ]
「そ、そうですよ!? さっきまでのゲームだって、ちゃんとそういう意図をもってやってたんですよ! 分かったら早く電源を……」
[ゲーム開発部 ユウカ]
「あら、そうなの? じゃあ、さっきの
[ゲーム開発部 コユキ]
「む、むぅ…………」
そう言われて、ゲームをしていた子供は口をモゴモゴと閉じるしかなかったの。
あぁは言ったものの、本当は先程までのゲームプレイにそういう崇高な意図は一切なく、ただ単に仕事を放り出して遊んでいただけだったからね。
青髪の子供もそれを分かってあんな言葉を吐いたんだろう。
[ゲーム開発部 ユウカ]
「今日の分の進捗は送っておいたから、デバッグ作業、お願いね」
[ゲーム開発部 コユキ]
「うぅうぅぅ~~……」
子供は怨嗟のこもった呻き声を上げながら渋々と自分の席に座ると、すごく嫌そうな顔をしながら製作中のゲームを起動したの。
そして、開発者権限で特定のイベントを始めると……
……突然、キーボードを乱雑に叩き始めた。
[ゲーム開発部 コユキ]
「はぁ~めんどくさ。何が面白いんですかねコレ」
子供が心底つまらなさそうにため息を吐きながら、暫くの間その行為を続けていると……
突如画面が静止して、スピーカーからは耳障りな機械音が鳴り響き始めたの。
そう、実は子供はパズルだけでなく、ゲームのバグを発見することに対しても飛び抜けた才能を持っていたんだ。
先の一見乱雑に見えたキーボードの操作も、実はしっかりと意味のある行為だったんだね。
……まぁ、ゲームと違って完全に単純作業なこの行為を、子供は酷く嫌っているみたいだけど。
[ゲーム開発部 コユキ]
「ユウカちゃ~ん! 前に言った致命的なバグが治ってないんですけど、本当に仕事したんですかこれ~!?」
[ゲーム開発部 ユウカ]
「……………………」
[ゲーム開発部 コユキ]
「……ユウカちゃん?」
返事が返ってこないことに疑問を覚えた子供が後ろを振り返ると……
……先程まで自分が寝転がっていた場所に座って、ゲームを楽しんでいる青髪の子供が居たんだ。
ご丁寧にヘッドホンまで着けて、音が漏れないようにしながらね。
[ゲーム開発部 ユウカ]
「…………♪︎」
[ゲーム開発部 コユキ]
「……………………」
子供は床に落ちていたリモコンを拾い上げると、そのまま無言で電源を切るボタンを押した。
[ゲーム開発部 ユウカ]
「……あ!? な、なにするよのよコユキ!」
[ゲーム開発部 コユキ]
「なにするのよ! じゃないですよ!?
なんですか!? 私にはゲームを止めるよう言っておきながら、自分はゲームで遊ぶんですか!? そんなのってないですよ!」
[ゲーム開発部 ユウカ]
「わ、私は今日の分の仕事を終わらせたから良いのよ!」
[ゲーム開発部 コユキ]
「全ッ然終わってませんでしたけど!? 前回と全く同じところで、全く同じ動きで、全く同じバグが起きたんですけど!?」
[ゲーム開発部 ユウカ]
「そんな筈ないでしょ! 今度こそ不具合がないか何回も何回も確認したのよ!?
ていうかあそこって本当にバグあるの? 私、どうしても再現できなかったんだけ、ど……
──あんたまさか、自分がゲームしたいがために適当言って私のゲームする時間を削ってるんじゃないでしょうね!?」
[ゲーム開発部 コユキ]
「はぁ~なんですかぁ~? 困ったら逆ギレですかぁ~? 前から思ってたんですけど、自分が無能であることの責任を私に押し付けるのは止めた方が良いですよぉ~?」
[ゲーム開発部 ユウカ]
「むの……っ!
い、言わせておけば……!」
[ゲーム開発部 コユキ]
「あいてっ! ぶ、ぶちましたね!? 良いですよ、そっちがその気ならとことんやってやりますよ!」
売り言葉に買い言葉。こうしてヒートアップした子供達は、とうとう取っ組み合いの喧嘩を始めてしまったんだ。
普段なら、こういうことになった時には彼女達の部長がなんとかしてくれるんだけど……
……残念なことに、今日は不在みたいだね。
でも大丈夫。ミレニアムサイエンススクールでこういうことが起きると、大抵は偶然にも近くを通りかかった
[セミナー 会計 モモイ]
「やぁ開発部の皆!今日も元気して……
……げ、元気ありすぎ! ちょっと待って! 落ち着いて二人とも!」
ゲーム開発部の扉をノックも無しに開いた桃目の子供は、慌てた様子で二人の間に割って入ったんだ。
その手つきは正に熟練者のソレで、あっという間に二人を引き離すと、そのまま宥めて落ち着かせてしまったの。
[セミナー 会計 モモイ]
「どぅどぅ、ど~うどう……ステイステイステイ……
……落ち着いた?」
[ゲーム開発部 コユキ]
「む~……」
[ゲーム開発部 ユウカ]
「す、すいませんモモイ
[セミナー 会計 モモイ]
「ん? 大丈夫大丈夫! このくらい問題ないよ? 可愛い後輩の面倒をみるのも、先輩の役目だしね!」
[ゲーム開発部 ユウカ]
「モモイ先輩……」
青髪の子供が、憧憬の籠った眼差して桃目の子供を見つめる。
突然教室に現れた桃目の子供は、ここミレニアムの生徒会に相当する組織の幹部で、問題児を中心として幅広い生徒たちから姉のように慕われている、人気の高い先輩なんだ。
……反面、血の繋がった本当の妹からは、あまりよく思われてないみたいだけれど。
[ゲーム開発部 ユウカ]
「えっと……仲裁してくださったのはありがたいのですが……その……
……先輩は、どうしてここに?」
そう、少し気まずそうに、青髪の子供は桃目の子供に対して質問した。
桃目の子供は少し考える素振りをした後……やがて元気にこう答えたんだ。
[セミナー 会計 モモイ]
「ん~……ゲーム開発部の様子を見に来たのもあるけど……
……やっぱりゲームで遊びに来たのが一番かな!」
青髪の子供は、「ですよね……」と言うように、乾いた笑いで返したの。
でもこういう、生徒会の役員でありながら俗世的な価値観を全開にしているのも、桃目の子供が人気な理由の一つなんじゃないかな?
[ゲーム開発部 コユキ]
「ゲーム? ゲームですか!? じゃ、じゃあモモイ先輩! また一緒にこのゲームで遊びましょう!」
ついさっきまでしていた喧嘩をすっかり忘却した子供が取り出したのは、キヴォトス指折りの巨大なゲーム企業が販売しているパーティーゲームだった。
[セミナー 会計 モモイ]
「良いね~遊ぼう遊ぼう! 前に遊んだ時はボロッボロに負けちゃったからな~……今回は負けないよ?」
[ゲーム開発部 コユキ]
「にはははっ!いいえ、今回もボッコボコにしてあげます!」
[ゲーム開発部 ユウカ]
「…………」
楽しそうな二人を眺めながら、だけど青髪の子供は背を向けて自分の机に向かったの。
今日行った作業が、実は全く効果のないものだったと判明したから、その遅れを取り戻すためにね。
だけど……
[セミナー 会計 モモイ]
「……どこ行くの? ユウカも一緒に遊ぼうよ!」
[ゲーム開発部 ユウカ]
「…………っ」
桃目の子供が、それを見逃す筈もないんだ。
[ゲーム開発部 ユウカ]
「今日終わらせておくべきだった作業が、粗だらけだったみたいなので……ええと……
……その分を、取り戻しておかないと、と思って」
[セミナー 会計 モモイ]
「ん~…………? でもそれは、結果としてそうなっちゃっただけで、ユウカはちゃんと真面目に今日の分の仕事を終わらせたんだよね?」
[ゲーム開発部 ユウカ]
「そ、それは過程の話です! でも事実、私は結果としてノルマを達成できていなくて……」
[セミナー 会計 モモイ]
「いーじゃんいーじゃん! そんな風に根を詰めなくたって!
それに、このゲームは大人数でやればやる程面白くなるって、ユウカも知ってるでしょう?」
[ゲーム開発部 ユウカ]
「で、ですが…………」
[セミナー 会計 モモイ]
「……それとも、ユウカは私とゲームするの、嫌?」
[ゲーム開発部 ユウカ]
「…………っ」
混じり気のない澄んだ桃色の瞳が、青髪の子供を真っ直ぐに貫く。
だけど10秒、20秒が経っても、青髪の子供はまだ迷ってるみたいだ。
[ゲーム開発部 コユキ]
「ちょっと早くしてくださいよユウカちゃん! 人を待たせるのは、良くないことなんですよ?」
[ゲーム開発部 ユウカ]
「………………なんか、アンタを見てたら何もかもがどうでも良く思えてくるわね」
[ゲーム開発部 コユキ]
「どういう意味ですかそれ!?」
[ゲーム開発部 ユウカ]
「考えるのがアホらしくなってきたってことよ」
観念したかのように一つ、大きな溜め息を吐いた青髪の子供は、やがてそのまま桃目の子供の隣に座ったの。
[ゲーム開発部 ユウカ]
「……今回だけですからね?」
[セミナー 会計 モモイ]
「エヘヘ……ありがとね! ユウカ!」
[ゲーム開発部 ユウカ]
「全く、もう……///」
[ゲーム開発部 コユキ]
「よっし! それじゃあ、ゲームスタートですね!」
こうして、3人の子供達は一緒にゲームに興じ始めたんだ。
まぁ実際、ゲームの開発が遅々として進んでいなくて、色々とまずい状況なのは確かなんだけど……
そんなこと、ゲームを楽しむにあたっては気分を害する、邪魔な情報でしかないね。
人格紹介
ゲーム開発部 黒崎 コユキ
所属校:ミレニアムサイエンススクール
学年 :1年生
年齢 :15才
部活 :ゲーム開発部
ゲーム開発部に入部した可能性のコユキ。
楽しいことが大好きなので、つまらないゲーム開発を投げ出しては毎日ゲームで遊んでばかりいる。ところを毎回、ユウカに咎められている。
ゲーム開発に重きを置き、スケジュール等で色々仕切りがちなユウカとは度々意見が衝突し、よく喧嘩になる。しかし意外なことに、ユウカのことはそれほど嫌っているわけではない。
二人で喧嘩をした翌日、まるで何事も無かったかのようにユウカをゲームに誘っているのがゲーム開発部の日常である。なんなら今回は喧嘩した直後にゲームしてる。
それはそうと毎回楽しい時に水を差してくるのはムカつくので、容赦なくボコボコにはする。ユウカはキレる。
パズルゲームやデバッグが異様に得意なのは、彼女が有する特異能力と呼ぶべきものが影響しているのか、はたまたそんなの関係無しに純粋に直感と思考力のフィジカルがド級の天才なのか……
余談だが、入部の動機はゲーム開発部をゲーム部と勘違いし、好きな時に好きなだけゲームが遊べると思ったからである。まぁ、結果として大差はなかった。