転生したら魔導王の子だった   作:又三郎

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第十二話 あなたのために

 両親が旅行の準備をしている。

 長期……とはいっても一ヶ月間だが、仕事を休み、家を空けるわけだから、引き継ぎとか家の管理とか、色々あるのだろう。

 

 俺、ルーシー、クライブ、ララ、アルスもその間学校は休む。

 しかしなんといってもロキシー先生が常に一緒の旅行なのだから、試験や授業で遅れをとることはないだろう。

 仮にいなくても、真面目なルーシーとクライブはともかく、ちょっと不真面目なところのある俺まで勉強面の心配はいらない。

 

 最近、妙に物覚えが良いんだ。

 前まではわからなかったことが、スルスル頭に入ってくるというか。

 新しい単元を習い始めても、前から知っているような気がするというか。

 闘気を急に纏えるようになるのと同じくらいからだ。

 

 俺ってば天才なんだろう。今まで知らなかったが。

 隠された能力が、思春期をきっかけにパーンと開花したのだ。

 鼻高々である。ママたちにも褒められるしな。

 

 来年は生徒会に入る予定だ。

 理由は簡単、ルーシーに誘われたから。

 ご存知の通り、ラノア魔法大学の生徒会は任命制である。

 現生徒会の中にはノルン会長時代を知っている者もおり、その遠からぬ親戚ということで俺とルーシーも推薦を受けた。

 一年生の頃から認知はされていたみたいだが、節目の10歳になったからか、実力を認められたか、とにかく推薦された。

 ルーシーは張り切って頷き、当然のように俺も引っ張りこんだ。

 そういえば、昔「せーとかいになる!」って、宣言したのだっけ。

 実現したら、スペルド族の村在住のノルンお姉ちゃんもきっと喜ぶだろう。

 

 生徒会に入るモチベといえばそれくらいで、優等生になりたい欲はあんまりない俺は、こうも思った。

 パパの後を継ぎ、ラノア魔法大学の裏番長に、俺はなる!

 

 ジークが台頭してくるまでの間だけね。

 下の弟が入学し、持ち前の怪力で頭角を現し始めた頃、俺はすべてを予測していた顔で頂点の座を退くのだ。

 奴は正義のチェダーマン。裏番長なんてアウトローな立場を、倒すべき悪として認識されたらたまらない。

 

「好きです! 僕と付き合ってください!」

 

 こういう手合いも増えた。

 呼び止められた学校の廊下で、勇敢にも告白をしてきた少年は、祈るように頭を下げている。

 十歳未満の生徒は珍しいせいか、今まで恋だ愛だのの対象にされることはなかった。

 しかしこの年齢になると、後輩に同世代の少年少女が増えてくるのだ。

 気安く喋る男友達は多いほうだし、その中には、俺に恋愛的な好意を持っている者もいる。

 今回の相手は、話したのも数える程度で学課も異なるのだが、まあ、どこかで一目惚れをされたのだろう。

 

「顔、上げて」

 

 俺は少年の前に立ち、言った。

 恐る恐る顔を上げたのは、生産課の生徒だった。

 年は俺よりやや上。名前は確か、クラピカ……じゃなくて、クラピアだったはずだ。

 

「ごめん。付き合うことはできない」

 

 一考だにもせず、断った。

 少年の顔がわかりやすく曇る。

 泣き出すか、あるいは走り去るか、どっちでもいいが、彼が次の行動に移す前に続けた。

 

「でもさ、告白って、怖いよね。断られるかもしれないし、噂になるかもしれない。私だったら面倒くさくてやらない」

 

 もしも俺に家族以外の好きな子ができたとして、それが普段かかわりのない相手だった場合。

 俺はまず周囲の人から懐柔していく。で、俺の良い話をしてもらい、相手が俺を認知し好感度を上げたところでさりげなさを装って近づくだろう。

 いきなり告白すれば、そのインパクトから存在は認知してもらえるだろうが、容姿が優れているとか身分が高いとか、飛び抜けた長所がないと恋愛対象に格上げはされない。

 

 無謀さは短所だが、その行動力は気に入った。

 

「クラピア君は生産課だったよね。専攻は?」

「は、はい! 飲料・醸造学科です」

 

 ラノア魔法大学では魔術以外のことも学べる。

 酒造りもその一つだ。

 酒か……何かに使えないだろうか。

 

「私は、君のことをよく知らない。だからまずは、友達になろう」

 

 喋りながら考える。何かないかな。

 何が出るかな~っと。

 よし、閃いた。

 

「明日の昼はヒマ?」

「すごく暇です! 自分、友達いないので!」

 

 悲しいこと言うなよ。

「私が作ってあげる」と、俺は哀れみも持って言った。

 

「機構設計科と農学科と調合学科に、それぞれ友達がいるんだ。明日の昼は、みんなでお喋りしながら食べようよ」

 

 彼らに雑談の習慣ができるまで、しばらく俺の昼食のメンツは固定だ。

 ルーシーとも過ごしたかったが、俺抜きでルーシーとクライブが距離を縮める良い機会だと思うことにする。

 

 必要なものは、発酵が進んだ酒樽、ある程度密閉できる容器、蜂蜜、パクチーかそれに代わる香草、ライム……は、ラノアの気候では育たないな。酸味の強い柑橘で代用していこう。

 炭酸水を作る技術が確立し、材料が揃えば、あるものを作れる。

 そう、清涼飲料水、コーラである。

 コーラに近いものができるだろう。

 多分100点中20点くらいの。

 

 俺が主導となってはいけないのが肝だ。

 転生者バレは避けねばならない。

 まず醸造学科のクラピアが発酵の進んだ酒から出る泡(二酸化炭素)を水に溶かしたいと思いつき、設計科が密閉した酒樽の気体が水を入れて回転し続ける容器に移動する装置を思いつき、農学科と調合学科が味や風味を模索する。

 俺は各人の思考をその方向に誘導する。主導するのはクラピアだ。

 無謀な行動力が他のメンバーと衝突しないように調整する必要があるが、やり方はわかるし大丈夫だろう。

 

 完成したコーラに近い飲料を、俺は家に持ち帰り、友人が作ったものだと言って家族に振舞う。

 ルーデウスは100点中20点の、だがコーラに近いものを飲み、間違いなく「これは」と衝撃を受ける。

 そしてさらに前世の味に近づけようと、ラノア魔法大学に乗り込む……か、どうかはその時の仕事の忙しさ次第だが、とにかく関わりをもつ。ことによってはアイシャも投入する。

 

 後ろ盾と財源を得ることで、ラノア学生による新飲料開発プロジェクトはやりやすくなるだろう。

 俺はルーデウスが関わってきたタイミングで離れる。

 出資者かつ協力者はルーデウスパパ。

 この世界にまたひとつパパの手柄が増え、コーラは流通し、俺はハッピーになる。

 いや、サイレントセブンスターの手柄になるかな?

 何にせよ、この知識を授けてくれた漫画に感謝だ。

 三千年後の石の世界に一から文明を築く話だったかな。

 

 

「じゃあ、また明日な」

 

 俺は手を振り、タタッと走り去った。

 手持ちのカードで作れそうなのがコーラだったからそうするつもりだが、実際作るものはなんでもいい。

 同じ目的のために動けば、人は自然と仲良くなる。

 俺の狙いはそこにあるからだ。

 

 せっかく告白されたのに、このまま気まずい間柄になるのは惜しい。

 恋愛対象としては見れないが、友達にはなりたい。

 俺はフレンドリーだからな。誰とも仲良くやっていきたいのだ。

 

「お」

 

 曲がった角の先に、待ち構えていたかのようにララがいた。

 ララはレオにぐてっと寄りかかり、「よっ」とでも言いたげに片手をあげた。

 8歳のくせに、貫禄がある。

 

「告白」

 

 とララは呟き、答えを促すように首をかしげた。

「されたよ」と俺は言った。男友達のように付き合えるペトラちゃんの男子人気は高いのだ。

 

「付き合う?」

「まっさかー!」

 

 ララのやつ、また必要最低限の語彙で会話しようとしてるな。

 彼女の面倒くさがりは、会話にも発揮されるのだ。

 

「よかった。ペトラ姉にカレシができたら、困る」

「なんでさ」

「ルーシー姉がクライブと結婚するのは確定。ペトラ姉まで結婚したら」

 

 そしてララは言葉を切った。結婚したら何なのか。

 寂しいな、とでも続けてくれたら可愛いんだが。

 

「私が掃除も洗濯も料理も全部やってくれる男と結婚するまで、私を世話する人がいなくなる」

「さっさと救世してこい救世主」

 

 子供たちの成人後を記したスピンオフ、ジョブレス・オブリージュではララは実家暮らし。

 だがルーシーのように遠くにお嫁に行かず、シャリーア暮らしを続ける姉がいる場合、彼女の寄生先はそちらに移るというのか。

 非道な奴だ。

 姉ちゃんが魔力をオルステッドに売って稼いだ金でぐーたらするつもりか!

 

「あと、さみしい」

 

 可愛い子だ。

 将来は好きなだけ自分の研究に専念するといいさ。

 研究室に掃除に入る頻度は週2でいい?

 

「訓練服かーしーてー」

 

 ララはウネウネと動き、手足で俺に絡みついた。

 アスラ王立学校を卒業後、ラノア魔法大学で研究者になる未来がまるで想像できないな。

 魔術の模擬授業で使うジャージっぽい服は、忘れたんじゃなくて、自分で持ち運ぶのがめんどくさいだけだろう。

 

「はいはい、後でロッカーまで来なね」

「ん。ありがと」

 

 俺が想像できるララの未来はこんなだ。

 怠惰を極めた14歳くらいに見える少女が、ポテチ片手に、下着姿でゴロゴロしている。

 そこにコーラがあったら完璧だ。

 油っこいものと炭酸。二つが揃えば、ララは救世主業を拒み、もう外には出てこない。

 最後の巣立ちが年単位で遅れてしまう。

 

 冗談はさておき、俺は思う。

 コーラの再現飲料が完成して喜ぶのは、パパとナナホシだけじゃないはずだ。

 

「ララ、姉ちゃんな、ポテチに超合う飲み物作るよ」

「そ、手長に待ってる」

 

 ララはいつも通りの冷めた反応だ。

 ……ん?

 

「それを言うなら、気長に、じゃない?」

「……」

 

 ララはふいとそっぽを向いた。

 顔を覗き込もうとすると、レオの背中にモフっと埋めてしまった。

 

「知ってる」

「でも手長ってさっき」

「ペトラ姉を試した。正解。おめでとう」

 

 言葉を間違えて覚えてたのに気づいたもんで照れてるな。

 早口で投げやりな口調のララにそれ以上追及するのはやめ、俺は「あとでね」と声をかけて先を行った。

 ちゃんとジャージ取りに来いよ。

 

 

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