とっっっっても助かります。
気づいている人はいるかもしれませんが、サブタイトルはキャラのセリフから取ったものになります。
今回、1万文字超えちゃいました。
最初にぺちぺちぺちという音が聞こえた。
目を開けると知らない天井……ではなく、セリーヌちゃんの顔があった。彼女は薄目の僕の額を、その小さな手で叩いている。ひたすら叩いている。
「まうっ、まうっ」
「えぇ……」
どういう状況?
雰囲気と微かな薬品の匂いからしてここは保健室なのだろう。カーテンで間仕切られたベッドの上だし。でもどうしてここに……と、ペちペち叩かれながら思い返してみる。
今朝メアさんに屋上へ誘われて襲われて僕の貞操が危うくなって、少し驚かしてやろうと押し倒した後一悶着あって、激おこヤミさん登場からの激強アッパーと激強ビンタを喰らって……と。ふむ、是非もなし。いや、最後のビンタはVBが余計な事を言ったからなわけで……まだ頬っぺた痛いや。あと背中も痛い。
セリーヌちゃんのペちペちを止めさせて起き上がる。そのタイミングでカーテンが開けられ、白衣を着た女性が入ってくる。
確か名前は……養護教諭の御門先生。漂う大人の色気がヤバいとかナンとかで男子生徒達に人気らしい。そしてその正体は宇宙人なんていうウワサがある。
「あら、もう起きて大丈夫なの?」
「ええ、まぁ、起きたというか……起こされました」
「それは悪い事をしたわね。ダメよ、セリーヌちゃん。ケガ人のベッドに潜り込んで遊んじゃ」
「まーう……」
不服と言わんばかりに唇を尖らせるセリーヌちゃん。
そして僕の肩によじ登ってきた。肩車である。なんで?
御門先生が少し驚いた表情をしてクスりと笑った。
「あらあら、随分と懐かれてるのね」
「……コレ、懐かれてるで合ってます?」
「私の目にはそう見えるわ」
現在進行形でめっちゃ頭べちべちされてるのにですか?
今何時ですかと尋ねて見たところ、どうやら四時限目の真っ最中とのこと。
途中から参加するのは気まずいので、面倒臭そうな顔したら、御門先生とお茶をする事になった。サボれるやったぜ。ちなみにセリーヌちゃんは僕の肩から膝の上に移動した。
「御影君はヤミちゃんとどういう関係? もしかして彼氏?」
「ぶふっ」
口に含んだ紅茶を吹きかけた。
世間話からいきなり何を聞いてくるのか……。
僕は軽く咳払いをして答える。
「……何でヤミさんの名前が出てくるんですか」
「貴方をここに連れて来たのヤミちゃんだもの。随分と親しそうだったし。で、結局のところどうなの?」
「……や、ヤミさんはただの友人ですよ。それ以上でもそれ以下でもありません」
「ふぅん」
「な、何ですかそのニヤニヤは」
「別になんでもないわ。気にしないでちょうだい」
「っ、そういう御門先生こそ、ヤミさんとどういう関係なんですかっ。何か知ってそうな口ぶりですけどっ」
「照れてる?」
「照れてませんっ」
《照れてんな》
(照れてねぇって! いや起きてたんかい! いつからっ?)
《お前が花の嬢ちゃんから
(最初からじゃねーか!!)
「? どうかした?」
「何でもないですっ、興奮とかしてませんっ」
「そこまで言ってないわ」
御門先生が紅茶のカップをソーサーの上に置いて、足を組み直した。際どく、見てはいけないものを見た気がして視線を逸らす。VBが色気ヤバくて教育に悪いなと囁いてくる。うん、黙れ。
「ヤミちゃんとはこっちに来る前からの知り合いなの」
「こっち……って言うと、彩南?」
「地球よ。私、こう見えて宇宙人なの。ほらこのとおり、ね」
髪をかき上げて尖った耳を見せてくれる。ウワサどおり御門先生は宇宙人だったようだ。……この学校、宇宙人多くない? 大丈夫? 侵略されてない?
「それにしても驚いたわ」
「何がです」
「ヤミちゃんに男の子の友達がいた事よ。ほら、あの子って寡黙なところが多から」
確かにヤミさんは物静かな女の子だ。でも割と寂しがり屋だったりする。俗に言うクーデレってやつなのかもしれない。デレられた事はないけど。
「ねぇ、もし良かったらだけど、ヤミちゃんと友達になったきっかけを教えてくれないかしら?」
「きっかけ……ですか……」
僕がヤミさんと出会ったのはこの学校の図書室だ。
入学して間もない頃の僕は、『友達』という関係を嫌い、恐れ、拒絶していた。
そんな僕に、彼女は手を差し伸ばしてくれて——今に至る。
あの時のヤミさんの言葉は、今でも僕の脳裏に焼き付き、生涯忘れる事のないであろう大切な思い出となっている。
なので、僕は人差し指を唇に当て苦笑して言う。
「すみません。恥ずかしい話なので……内緒、です」
「——そう。それならしょうがないわね」
断った筈なのに、御門先生の表情はどこか嬉しそうだった。
◆ ◇ ◆
「体の方はもう大丈夫?」
「はい、お陰様で」
「顔色は悪く見えるけど……?」
「ああ、これは僕の
「そうなの? まあ、暇な時は何時でもいらっしゃい。お茶でも飲みながら、またお喋りでもしましょう。歓迎するわ」
四時限目の終了間際。
ありがとうございました、と軽いお辞儀をして御影君は自分の教室へと戻っていった。
私は保健室の扉の前で彼を見送った後、椅子に背中を預ける。
有意義な時間だったわね。セリーヌちゃんも御影君に絵本を読んでもらってご満悦みたいだし。子ども好きなのかしら?
そう言えば、以前セリーヌちゃんが学校内で迷子になった時、一年の男子生徒が面倒見てくれてたって、結城君言ってたわね。セリーヌちゃんのあの懐きようからして、御影君が例の男子生徒なのだろう。
私は空になったカップを片付けながら、今朝のヤミちゃとのやり取りを思い出す——————
いつものように結城君達からセリーヌちゃんを預かり、しばらくして保健室の扉がノックされた。
どこかぎこちないノックだなと思いつつ、どうぞと言うと、ヤミちゃんが扉を開けて入って来た。長く伸ばした金髪でナニかをぐるぐる巻きにして。かろうじてズボンの裾が見え、ズボンの柄からしてナニかの正体が生徒である事は分かった。
『おはようございます、ドクター・ミカド』
『お、おはよう、ヤミちゃん。……その、ぐるぐる巻きは一体どうしたの?』
『この人は私に間接的にえっちぃ事をしてきたので、少々おしおきをしたら気を失ってしまいました。休ませてあげてもよろしいですか?』
ヤミちゃんの説明に、私は思わずギョッとしてしまった。
失礼だと思うが驚くのも無理もない。
ヤミちゃんは性的な行為や言動を酷く嫌う。特に異性相手だと、セクハラに逢えば容赦無く暴力を振るい、蔑むように放置する。セクハラ常習犯で変態の校長は擁護皆無だけれど、それなりに関わりのある結城君でさえも不可抗力であろうが、お構い無しに相応の制裁を与えている。
そんなヤミちゃんがえっちな事をしたという男の子を連れて来るなんて……二人はいったいどういう関係?
『ドクター・ミカド? よろしいですか?』
『! え、ええ、構わないわ』
間仕切りカーテンを開け、ベッドに案内する。
ベッドの上で、件の男子生徒がヤミちゃんの金髪からそっと解放され、謎だった素顔が顕になった。
白髪の混じった黒髪。剥いた白目の下の隈。青白い肌。そして、口元の小さな傷。…………生きてる? あ、ちゃんと呼吸してるし、生きてるわね。……それにしてもこの顔の特徴、もしかして…………。
『さて、彼の名前とクラスを教えてくれる?』
『名前は御影琲爾。私と同じ、1-Bです』
『御影琲爾君、ね』
私は確認した名前を来室記録の紙に記していく。その間、ヤミちゃんは彼に毛布を掛けてあげていた。
——男子生徒の名前には聞き覚えがあった。
彼は教師達の間で度々話題になるほど有名な生徒だ。良い意味ではなく、悪い意味で。
風紀は守らない、授業はサボる、他校の生徒と喧嘩……なんて話も聞く。つまるところ彼は不良に属する生徒とされている。
『——随分と仲が良さそうね』
宇宙一の殺し屋の少女と不良少年。
好奇心から何とも不思議と思ってしまう二人の関係が気になり、ヤミちゃんの様子を伺いながら聞いてみた。すると、彼女は御影君から私へと視線を移した。
『……そう、見えますか?』
『ええ。彼はヤミちゃんのお友達かしら』
『————はい……』
小さく、それでいて少し恥ずかしそうにヤミちゃんは答え、彼の髪に触れ——撫でる。
『……御影君とどこで知り合ったの?』
もう一つ気になった事があったので聞いてみた。
しかしヤミちゃんは、『……内緒です』とだけ言って帰ってしまった——————
「ヤミちゃんに美柑ちゃん以外の友達が出来ていたなんて、何だか感慨深いわね……」
ヤミちゃんが今まで友達と呼んで認めた相手は、結城君の妹である結城美柑ちゃんだけ。それは即ち心を許していると言っても過言では無い。心做しか雰囲気がイチャついていた気がするし。
もしこの事を、
「……本当何処にいったのかしら、ティア」
呟いて、学生時代からの友人の顔を思い浮かべる。
宇宙の何処かでひっそりと暮らしているであろう彼女が、今のヤミちゃんを知れば、私以上に驚くだろうし喜ぶに違いない。
だってティアは、心の底からヤミちゃんの幸福を願っているのだから。
◆ ◇ ◆
四時限目の終わりと昼休みを報せるチャイムが鳴った。
メアさんを警戒しつつ、自分のクラスに向けて歩いていると、教室から生徒達が出てくる。その中で、浮かない様子のナナさんを見つけた。どうしたんだろう?
「あ」
ナナさんがこっちに気づいた。
とりあえず近づいて挨拶をする。
「やっほー」
「ハイジ……」
「元気無いね。何かあった?」
「う、うん、ちょっとな……」
何やらソワソワしていらっしゃる。
あ!
「トイレ?」
「ちげーよ!」
「ぐふっ」
腹パンされた。ごめんなさい。
「ご、ゴメンっ、病み上がりなのに殴って!」
「いや、僕は全然平気だよ。めちゃくちゃ休んで回復したし」
手をヒラヒラと振って1-Bの教室に足を入れる。
と、何かに引っ張られた。
振り返ると、ナナさんが僕のカーディガンの裾を掴んでいた。僕を上目遣いで見てくる。
「な、なぁ、ちょっとだけいいか……?」
「? いいっすよ?」
そんなワケでやって来たのは外のベンチ。
途中、自販機で買ったカフェオレで喉を潤す。甘くて美味しい。家から持ってきた昼飯用のカロリーメート(新フレーバー)を齧る。ゲボまず。
そよそよした風に当たっていると、僕の隣に座っているナナさんが首を傾げた。
「…………なんで、外?」
「外の方が廊下でより話しやすいかなって」
「…………ジュースも」
「甘い物飲みながらの方がリラックス出来るかなって。あ、もしかしてソレ苦手だった?」
「そういうワケじゃ……後でお金返すよ」
「いいよ別に、僕が勝手に買っただけだし。こういう時は厚意に甘えなよ」
「…………う、うん」
ナナさんは頷いてジュースを一口飲んだ。
しばらくして悩みを吐露し始めた。
内容はメアさんの事らしい。なんでもプールの授業中に落ち込んでようで、どうしたのかと聞くと、お姉ちゃんとケンカをしたと教えてくれたそうだ。恐らく、今朝のヤミさんとのやり取りの事を言ってるのだろう。
ここで初めてナナさんはメアさん姉がいる事を知った。だから、自分もよく第三王女とケンカしてるからすぐに仲直り出来ると励ました……が。
「それでメアさんを更に落ち込ませてしまった、と」
「……あたしそんなつもり無くてさ。でも、それであいつは傷ついた…………あたしが、傷つけちゃった……」
「なるほどねぇ」
「……あたし、どうしたらいいのかな……?」
いつも明るいのに、大分ネガティブになってる。
僕はナナさんがどんな女の子なのか、まだよく知らない。だけどあの日——結城家にお邪魔した時、ララ先輩に黒咲芽亜という友達が出来た事を嬉しく話していたナナさんの笑顔は、とても印象深かった。
「んー……自分の好きな物を共有してみる、とか?」
俯いていたナナさんが僕を見て目を瞬かせる。
「共有……?」
「うん、まぁ、今パッと思いついたヤツだから」
「共有…………あたしが好きな物…………あ!!」
何か閃いたのか、ナナさんは勢い良く立ち上がった。
暗く曇っていた彼女の表情は一変し、花が咲いたような笑顔でとても眩しい。立ち直った……のかな?
「いいな! ソレ!」
「大丈夫そ?」
「ああ、やってみるよ! サンキュー、ハイジ!!」
「……やっぱりナナさんは明るい方がいいよ。好ましく思う」
「なっ、な何言ってんだよ急に! おちょくってんのかっ?」
「めっちゃ本音。困ったりしんどい時は何時でも頼ってね」
「………………わかった」
ナナさんは顔を赤くして走り去って行った。
一人になった僕は、踵で影をノックしVBを呼んだ。小さな声で語り掛ける。
(……力になれたかな?)
《どうだろうな。だがまぁ、あの感じは良かったと思うぜ? お前も前進してる証拠だ》
(ん、それなら良かった)
《……ところで、最後の好ましく思うってヤツ、言う必要あったか? 金色の嬢ちゃんに知られたら何て思うか》
(え? 言いたかったから言っただけだけど……ってか、何でヤミさんがそこで出てくるのさ)
《ハァ〜〜〜〜》
(クソデカため息)
たまにするその反応……ホント意味不明だ。
と、後ろで人の気配を感じた。
見やるとそこに居たのは、二人組の男女。結城先輩とララ先輩だった。ララ先輩が手を振ってきたので、こちらも返事をして苦笑。うーん、これは……。
「もしかしなくても聞いてました?」
「ご、ごめん、盗み聞きするつもりは無かったんだけど……」
「ありがとうハイジくん! ナナの相談に乗ってくれて♪」
僕は両手で自分の顔を覆った。
ララ先輩の笑顔もナナさんに似て眩しい! 直射日光でも浴びてんのかよってぐらい!
「別に大した事なんて何も……」
「ううん、そんな事ないよ。ナナはああ見えて甘えん坊さんなところがあるの。慣れないクラスの中で最初に友達になったメアちゃんは、ナナにとって特別な存在なんだと思うの」
「二人とも、上手くいくといいな」
「そう……ですね」
ふと、昔読んだ本を思い出した。
それは俗に言う啓発本で、『人の心は絶えず変化し、その変化を止める事は不可能である』と書かれてあった。自分の趣味には合わない筈なのに、何故かその一文だけは今も頭に残っている。
ヤミさんは
ナナさんのようなメアさんの心を思う人がいれば、彼女もいつかはきっと、ゆっくりであっても変われる。
自然とそう思えた。
◆ ◇ ◆
放課後、ナナさんに誘われてメアさんと僕は河川敷にやって来た。何やら見せたい物があるらしい。ちなみに今日はヤミさんと話せなかった。やっぱり朝の件で避けられているようで、シンプルに凹む。
「あ! いたいた。おーーーい!!」
ナナさんが大きく手を振る。
小さい何かがこちらに走って来て、メアさんに飛びついた。犬だ。
「ひゃ〜〜〜っ。何このコ!?」
「春菜のペットの西蓮寺マロンだ!!」
「西蓮寺?」
「あっちでモモ達と話してる人だよ。ほらっ、マロンは面白い顔してるだろ!」
「ホントだ! オカシなカオ〜♪」
「バゥワウ! ワゥ!!」
……めっちゃ怒ってない?
まぁまぁと宥めるナナさんに聞いてみた。
「ナナさんって動物の言葉が分かるんだよね? 今マロンさんは何て言ってたの?」
「えーっと、『失礼だぞっ、小娘! 噛み切ってやる!』って言ってたぞ!」
「バチギレじゃん」
ずんぐりむっくりの見た目に反して物騒だな。
ナナさんとマロンさんが何やらアイコンタクト。マロンさんはしっぽを振ってメアさんに擦り寄る。とても微笑ましい。
「良かったね。メアさんに喜んでもらえて」
「ああ。ハイジのアイデアのおかげだよ、サンキューな!」
「どーいたしまして。ところで、さ」
僕は離れた場所にいる
「何で結城先輩達もいるの?」
「春菜はマロンを連れて来てもらうために呼んだけど、リトとモモは知らん。暇だから来たんじゃね?」
「ふーん……」
多分、ナナさんが心配で様子を見に来たんだろう。
あの二人はメアさんの正体を知ってる訳だし。昨日の今日で警戒してるんだろう。
……一応、僕が保健室で休んでる間、何も無かったか聞いてみるか。昼休みの時、ララ先輩がいて結城先輩には聞けなかったし。
ナナさんに断りを入れてその場を離れ、結城先輩達の所へ向かう。
「どーも」
「おう、御影。あっちはいいのか?」
「はい。一先ずは……えっと…………」
「はじめまして……じゃないもんね。この前ちょっと話したし」
「ええ、まぁ、確か……白昼堂々と結城先輩の顔面に跨ってた人ですよね?」
「「どういう覚え方!?」」
「学校の廊下でアレは流石にどうかと……」
「「違うから!!」」
結城先輩と西蓮寺先輩が顔を真っ赤にして叫ぶ。
いや、ホント、ギャルの籾岡先輩とツインテの沢田先輩による強制自己紹介の時の衝撃が強すぎてですね?
「わ、私は二年の西蓮寺春菜。よろしくね」
「一年の御影です。御影琲爾って言います」
互いに握手する。
ふと、気になった事を聞いてみた。
「あの……今更ですけど、僕を見て引かないんですね? 自分で言うのもアレですが、こんな不気味な見た目だし……」
「……確かに、最初はびっくりしちゃったけど。御影くんの事は、結城くんや古手川さんから色々聞いてたから、全然引いてないよ」
「そう……ですか……」
嬉しいような……恥ずかしいような、思わず西蓮寺先輩から目を逸らしてしまった。第三王女がニヤニヤしている。腹立つ顔である。
「あらあら、もしかして照れてるんですか〜?」
「…………………………チッ!」
「舌打ち!?」
「いやさぁ……人の機微を笑うとかどーいう神経してんの? 君って王族なんでしょ? お姫様なんでしょ? プリンセスの名が聞いて呆れるよ」
「な!?」
「あっ、結城先輩知ってます? この人、クラスの男子達にチヤホヤされまくってて、そりゃもう女王さもががッ」
第三王女に口を押さえられた。
結城先輩と西蓮寺先輩が首を傾げる。
「ど、どうした?」
「い、いえっ、何でもありませんよっ? おほほほ……御影さん、ちょぉ〜〜っとこちらでお話しましょう?」
そう言いながら笑顔で僕の腕を引っ張る第三王女。……うわぁ目が笑ってない。ドス黒いオーラも見える気がする。こわっ。
「さっきのはっ、どういうつもりですか!!??」
「? 僕は事実を述べたまでだけど?」
「ふざけないでくださいっ、あんなデタラメな事を! それもリトさんの前で言うだなんて……ッ」
「嫌われちゃうから?」
「——ッ!?」
ボッ、という擬音が聞こえるぐらい彼女の顔が赤くなった。
その反応……なるほど。
「図星か」
「違っ……くは……別に……。ちょっ、ニヤニヤしないでください!」
「ごめんねぇ」
「な、何ですか、そのねっとりした言い方は! とても不愉快なんですけど!?」
「乙女チックで可愛いとこあるじゃないか、第三王女」
「〜〜〜ッ、くっ、このッ」
「おっと」
第三王女の手刀を軽く躱す。舌打ちされた。
煽ってるとはいえ、大分本性が見えてきたな。
VBの呆れた気配を感じる。……分かったよ、やめるよ。
遠くの方ではナナさんが携帯電話のような物を掲げていた。アレって……第三王女が使ってたのと同じかな。
その携帯電話の画面が発光し、多種多様な生き物達が出現した。ドラゴンっぽいヤツがいる! 小っちゃいけど感動!
「——って、私の話聞いてるんですかっ?」
「えっ、何?」
「本当にっ、貴方って人は……!」
第三王女が脱力する。
「…………昨日は大変助かりました。感謝しています。御影さんが来てくれなかったら、私達は殺されていました」
でも、と第三王女は僕をキッと睨んだ。
「それはそれとして、私は貴方が嫌いです。大嫌いですっ」
「あ、うん」
「リアクションが薄い!」
……忙しいお姫様だな。
さて、本題に入ろう。
「君はメアさんの事どう考える?」
「……私はあくまで彼女を危険人物と見なしています。ヤミさんの気持ちを理解したつもりですが、私達は襲われたので」
「そりゃそっか」
「御影さんは?」
「……僕は————」
その時、メアさんとナナさんの悲鳴に似た声が聞こえた。
僕達は会話を中断し、何事かと駆けつけみれば、トンデモナイ光景が広がっていた。
「あっ♡ ひゃっ♡ しゅごいッ♡ 何コレ……イッ♡」
マロンさんに制服の中からスカートの中まで、全身隈なく舐められているメアさんと——
「お前らっ、あ……ッ、そこ……やだっ……らめ……んぅッ、やっ……ひぁっ、しっぽ…………ッ」
こっちもこっちで動物達に全身を舐められているナナさん。制服は捲られメアさんよりヒドい有様だった。僕は咄嗟に両手で目を覆う。
「御影さん! 見ちゃ駄目です!!」
「大丈夫! 見てない!!」
「指の隙間から確り見てるじゃないですか!!」
「ごあッ!?」
目潰しを喰らった。容赦無い。
「な、ナナちゃん!? 黒咲さん!?」
「わわッ、どーなってんだ、この状況!?」
「端的に説明すると、週刊誌から月刊誌に移籍したって感じの状況です」
「何ワケ分かんねぇ事言ってんの御影!?」
僕もちょっと分かんないです。
と、ナナさんの手からあの携帯電話が落ちる。
地面との衝突で電子音が鳴って、現れたのは巨大なタコとイカ。次から次へと……!
『チュミミーーーン!!!』
『オロロローーーン!!!』
二体は謎の雄叫びと共に、伸ばした触手で西蓮寺先輩と結城先輩を絡めて持ち上げ————触手プレイが始まった。しっちゃかめっちゃかである。
「第三王女……これ収拾つくの?」
「………………ごくり……」
「第三王女……???」
「はっ!」
「まさか……」
コイツ見とれてたのか?
生粋の変態かよ。
「オイ、変態王女」
「!? だ、誰が変態王女ですか!!」
「否定したいならヨダレ拭けよ」
「ヨダレなんて出してません! 貴方の方向こそ、鼻の下を伸ばしてるじゃないですか!」
「は? 伸ばしてないが??」
「伸ばしてます!!」
「伸ばしてない!!」
「「ッッ!!」」
キッと互いに睨み合う。
VBの《不毛だな》と言う声が聞こえた。
「……くだらない事でいがみ合ってる場合じゃない、今をどうにかしようよ。ほら、先輩達がセンシティブになってる」
あれもうR18に片足突っ込んでるでしょ。
第三王女が閃いた顔をする。
「そうだ、あの黒い腕——VBさんだったら……!」
「悪いけど無理」
「ど、どうしてですか……っ?」
「説明したじゃないか。VBの存在は秘密にしたいって」
確かにVBならこの現状を打破出来るのかもしれない。
昨日はヤミさんの身が危険だったから、やむを得ずVBには暴れて貰ったけど、可能な限りVBの存在を公にしたくない。
「だーーーッ!! もうっ、お前らいい加減にしろーー!!」
「おっ、脱出した」
「ナナ!」
僕と第三王女は、べちゃべちゃで息も絶え絶えのナナさんの元へ。メアさんはぼっーとしている。
「リトさん達がステキな……じゃなくって、大変な事になってるの! 早く貴方のデダイヤルで動物達を!」
「わ、分かってる——あれっ、デダイヤルがない!?」
「ええ!?」
デダイヤル……あの携帯電話の事か————ん?
「ナナさんが探してるのって、アレ?」
指差した先、一匹の子ザルが、デダイヤルとやらを抱えて土手を登っていた。そして、反射で上がったナナさんの「あ!」と言う声に驚いてか、子ザルは逃げるように駆け出す。
「こらっ、返せ! それはオモチャじゃないんだぞ!!」
ナナさんが子ザルを追い掛ける。速っ。
子ザルは土手を登り切った所で無事確保。だがしかし、確保した場所が悪かった。
「ナナちゃん!!」「ナナ!!」「危ない!!」
僕達の悲鳴が重なる。
子ザルを捕まえた場所は車道のど真ん中。そこを一台のトラックが走っており、ナナさんと衝突する寸前だった。
助ける……いや、間に合わな————と、視界の端を赤毛が掠める。瞬きの間に、メアさんはナナさんを守るよう抱きしめていた。
赤のおさげが揺らめき、形を変え始める。まさか、運転手諸共トラックを壊す気か!?
河川敷に響き渡る急ブレーキの音。
トラックは、二人にぶつかる事なく止まって……否、
何処からともなく現れた、ヤミさんとララ先輩の手によって。
——その後、運転手の人には飛び出して驚かせてしまった事を謝罪し、事なきを得た。
結城先輩と西蓮寺先輩も触手プレイから解放された。
「危ないトコだったね〜」
「みんなゴメンな……何か大騒ぎになっちゃって……」
「い、いいのよナナちゃんっ、私達は全然っ……」
「さ、西蓮寺の言う通り、全然気にしてないから……」
しゅんとなるナナさん。
今度はメアさんの方へ体を向ける。
「メアも……その、色々ゴメン……」
「え? どうしてナナちゃんが謝るの?」
「だって……あたしのせいで……」
「そんな事ないよ! ナナちゃんの動物達も素敵で、すっごく楽しかった! ——それに……ペロペロされるのも、思ったより素敵かも……♡」
「め、メア!?」
「ねーハイジくん♪」
おいコラやめろッ、最悪なタイミングで僕に話を振るんじゃないッ。ほらっ、ヤミさんと第三王女がゴミを見るかのような目で僕を見てるじゃないか! 特にヤミさん! 怖い!!
そんな怯える僕なんてお構いなしに、妖しい笑みを浮かべたメアさんが迫って来る。
「今度わたしをペロペロしてくれる?」
「何とち狂ってるんだよ、やるワケないだろ。君のお陰で僕は今危機的状況に陥ってるから、お口チャックしてちょっと黙ろっか」
「それとも一緒にペロペロしちゃう?」
「聞いて???」
君は僕を社会的に抹殺するつもりか?
本当にお陰様でみんなの視線が痛い。しれっとヤミさんに踏まれてる足も痛い。何で? 最近ヤミさんからの謎攻撃が増えた気がする……。
「は、ハイジ……お前もリトと同じケダモノなのか……!?」
「ケダモノって何さ、誤解だよ。メアさんもいい加減離れて……」
「興奮しちゃうから?」
「しないし、うるさい」
「きゃんっ」
またとち狂った発言をした彼女の額を、僕は人差し指で強めに弾いてやった。
動物みたく人を舐めるなんて変態志向は持ち合わせてない。僕は至って普通だ。
手を叩く音が聞こえた。音のした方を見ると、ララ先輩が両手を合わせて嬉しそうな表情をしていた。
「そてにしても良かったね、ナナ。メアちゃんが元気になってくれて♪」
「あ、姉上!? なんで知って……っ」
「……えっ、どういう事?」
「ナナはね、メアちゃんが元気に笑ってるところを見たかったんだよ☆」
全部言ったよこの先輩。悪気皆無の善意100%で。
足の痛みが無くなった。どこか嬉しそうなヤミさんにコソッと話しかける。
「……杞憂だったかな?」
「そんな事はないと思いますよ。例え小さくても、きっかけは大切ですから」
「……そうだね。ところで、さっき何で僕の足踏んでt」
「踏んでません」
「……明らかに踏んd」
「踏んでません」
「でも」
「踏んでません」
「……」
「踏みますよ?」
「何も言ってない……」
どうやら僕の勘違いだったらしいです、はい。
日も暮れてきたので解散となった。
家に帰ろうとしたらヤミさんに捕まった。何故?
どうしたのかと聞くと、たい焼きをまだ奢って貰ってないと言う。
……忘れてた。朝言ってましたね。今日一日中避けられてたから、有耶無耶になったかと……。
そんなワケでたい焼き屋へ強制連行され、僕の財布は空になったとさ。
「これで今朝の件はチャラにしてあげまふ」
……………………あざっす。
いつかオリジナル書きたいですね・・・。