「『やめてくれ!もうやめてくれ!許してくれ!私はどうなったっていい!だからみんなを!私の部下を許してくれ!』―――まったく、サーベル構えて儂の前に躍り出てきた白エルフが泣き面晒しながらこれを叫んだ時は何事かと吃驚したわい」
なんならついでに平地でとはいえサーベルで側頭部に一撃叩き込んでいたしな。
まったく効いたようではなかったが。
「そうした私が言うのもなんだが、まあ無茶苦茶をやったものだ」
「それも、アールブ語にオルク語、さらにキャメロット語とイザベリア語までごちゃ混ぜだったからな。あの頃のまだオルク語しか分からなかった儂には何を言っていたのか殆どさっぱり、全て理解したのはロザリンドが終わって更に何年か経った後だったわ」
ああ、私でもどの言葉で叫んだのか分かってなかったのだが、そうかイザベリア語まで使っていたのか。
「悪かったよ。あの時は本当にどうかしていたんだ」
正しくは、あの時から今に至るまでずっとなんだが。
「まあ、儂の元まで切り込んできた白エルフの指揮官らしい奴が『許してくれ』と泣いてサーベル突き付けながら叫んでいるのは理解できたからな。おお自分の命を賭しての決闘で部下の助命嘆願かと、まあその性根をあの時の儂は気に入ってしまってな。決闘をするなら部下を見逃してやるなんて返してしまった」
あの時は温情が身に染みたよ。
『おまえさん、なるほどこのイカサマな銃隊を率いる指揮官か。それは儂と決闘がしたいのか?』
『ああ、そうだ!それと引き換えに私の部下を許してくれ!見逃してくれ!』
『おお、なんだ
『それは、手元がちょっと狂ったのさ』
『ふん、そこの股座抑えて呻いてる奴にやった芸当を出来る奴がか?……まあ、ここまで気を遣われたのだ。そういう事にしておいてやろう』
そしてシュヴェーリンはゆっくりと、緩慢な動作で斧を振り上げて。
『ゥォオオオオオォォォッ!!!』
またもや、あの騒がしい雄叫びが戦野に響き渡る。
何事か、何事なのかと、白エルフもオークも関係無しに双方の兵が動きを止めてシュヴェーリンと私に注目してくる。
『ところで、おまえさん、決闘を持ち掛けておいて名乗らんのか?儂はおまえさんがどこのどいつだかも知らんのだが』
ああ、それもそうだ。死んでしまった後では名乗れないものな。
『エルフィンドは都を抱くシスリン湖の畔トストルプに聳える白銀樹の生まれ、ホルステナ・フルーベルである!我が部下の助命嘆願がため決闘を請う!』
『オルクセンは北辺メルトメアの守り、アロイジウス・シュヴェーリンである!よかろう!決闘の暁には貴様の部下を見逃してやる!』
ところがまあ、この辺りまではまだ格好が付いたのだがなあ。
「それで決闘をする事にしたんだがな。儂が戦斧を、ホルステナがサーベルを構え直して、まあ互いの得物が違うのはまあ良いとして、ホルステナのサーベルがな、決闘も始まる前から中程でちと曲がっておった」
「シュヴェーリンの下へ辿り着くまでにいくらかのオーク共を切り払ったりと無茶をしたからな。それくらいは仕方ないと私は思っていたんだが」
カルラを峰で打ち上げ、更に平地でシュヴェーリンのスパイク付兜を強かに打ち付けていたのだ。あれでモリム鋼のサーベルでなかったら既に折れていただろう。
「しかし対する儂の戦斧に刃こぼれ一つないのでどうかと思ってな。ホルステナが他に持っていた短剣や短銃も使ってよいとした」
この時点で私はもう決闘で死ぬつもりであったから、自身の得物が早々に折れるのが瞭然だとしても良かったのだが、まあそれをシュヴェーリンが納得してくれなかったのだ。
ただ、そこまで聞けば外野も当然思う所が出てくる訳で。
「シュヴェーリン、聞いていて思いましたが、それは決闘ではなく一騎打ちと言うのです」
「言わんでくれツィーテン、あの頃の儂は決闘の作法など碌に知らなかったのだ。それに得物が増えた所でオークとエルフのやる決闘だぞ。オークの生命力が強過ぎてホルステナが不利過ぎると思ったのだ」
「私も変な所に拘る奴だなと思ったんだが、泣いて決闘を頼み込んだ手前、シュヴェーリンの出す条件を断れるわけもなく。だがまあ実際、決闘が始まって早々にサーベルは折れた」
それこそ、サーベルが折れたついでに潔く死ねれば良かったのだがなあ。
「それもホルステナが牽制で放った突きを儂が戦斧の柄で軽く払っただけでポッキリとな」
まさか振るわれた戦斧を払いでもすれば折れると思いきや、初手のあんな軽い打ち合いで折れるとは予想外だった。
「そこからは短剣でどうにかシュヴェーリンの振るう戦斧を逸らしながら短銃を撃って躱されてを何度かやってな。あの時ほど闇エルフが持つようなモリム鋼の山刀を羨んだ事は無かったよ」
「言っておくが、儂の振るう戦斧を短剣で凌ごうとする奴はオークでもいないからな」
それはそうだろう。私だって戦斧を逸らす度にガリガリと欠けて削れていく短剣に自分の寿命を見たような気分だった。
「それで、そう。三発目だったよな。儂の牙に当たったのは」
「そうだな。まあ一発目から順に言えば、サーベルが折れてしまってとっさに撃ったのが一発目、これは躱された」
私でも想定外のタイミングでサーベルが折れてしまったから、それでどこを狙うでもなくとっさに撃ったんだが、これは狙いが甘過ぎて躱されなくても当たらなかっただろう。
「短剣を顔面に向けて投げたのを目眩しにして二発目。これは戦斧で弾かれた」
投げた短剣だって避けるのではなく戦斧で防ぐしかないようにして、それで視界が塞がれた所を狙ったにも関わらず、短銃で撃った弾までついでとばかり戦斧で弾かれたのだ。
「そこからすぐ横薙ぎに振るわれた戦斧を半歩下がって躱して三発目。これがようやくシュヴェーリンの顔面に当たったんだがなあ……」
カルラの銃というイカサマに更にイカサマを重ねて、それで牙一本にしかならなかったのだ。
それも本望としては私が負けて死ぬつもりだったのに気絶されて大変困ったのだが。
「それで出来たのがこの傷よ」
どうして負けた方が嬉しそうなのだ。
「まったく、鉛玉たった一発で気絶しやがって」
「まだ言うか!?」
それでオーク王が気付いたらしい。
シュヴェーリンがイカサマと言った仕掛けに。
「待て、待ってくれ!ホルステナ、もしやシュヴェーリンの戦斧をどうにかしながら短銃の弾込めをしたのか!?
おや、二つの戦役で従軍歴があるとはいえ歩兵としては参戦していないにも関わらず、鉄砲にだいぶ詳しいじゃないかオーク王よ。
てっきり星欧に名を馳せる農学者であるように専門は農学かと思っていたのだが。
「ああ、その事か。ロザリンドで私の氏族は揃ってこのカルラ・ハーマセンが作った火打石銃を携えていてな。あれはそれが出来るんだ。うーむ、どう説明したものか」
「なんだホルステナ、持って来ていないのか。儂と決闘しに来たくらいなんだから持って来ておるだろう」
「それがな、オルクセンに入国した時にサーベルその他諸々と一緒に没収されてるんだよ。一応、同じ列車で首都まで運んで、そのまま憲兵司令部預かりと聞いているからこの官邸の近くにはあると思うが」
まあ、その対応そのものは真っ当でありそこまで不満は無かったのだが、あれを現物も無しに説明しろとなるとな……。
「となると我が王、フルーベルの、そこのカルラ・ハーマセンが作ったという銃をここへ持って来させなければなりませんな」
「おいシュヴェーリン、怪しい白エルフがおまえの我が王と謁見してる場に銃を持ち込ませる気か?」
「おまえも自分でそう言うな。我が王、あれで撃たれた儂が保証します。見なければ分かりますまい」
なんだこいつ、やたら私の肩を持つじゃないか。
「分かった。シュヴェーリンの言う事だ。気になると言ったのも私だし、持って来させよう」
流石、これが隣にディネルースと巨狼を控えさせる余裕かオーク王。
いやしかし、オーク王を撃ち殺した所でシュヴェーリンは私を殺してはくれないのだろうなあ。
どうしたものやら。