「ところで、三丁ある小銃の内の一丁がキャメロットのマルティニ小銃というのは分かっていたのだが、残りの二丁はなんだ?見覚えが無いのだが……」
「ああ、これか?一つは私が、もう一つはハーマセンと今はキャメロットに居る私の氏族の者達が開発した小銃だ。カルラの銃やマルティニ小銃と違って、
あのロザリンドを生き残った私の部下達の殆ど、私のせいで多くの同胞が死に、そして死にかけたにも関わらず、エルフィンドから出ようとした私に付いて来てしまってなあ。
揃って大挙してオルクセンに向かう訳にはいかないとどうにかキャメロットには留めて来たが、後々はあいつらもオルクセンに来たがるだろうか。
などと同胞の事を考えていたら、オーク王の顔が驚愕に固まっていた。
「オーク王、どうした?これらも元はエルフィンド軍の為に、来るべきオルクセンとの戦争に備えて開発していたのを、それが国を追われる事になったものだから残して行くくらいならと持って来たのだが」
これもラエリンドの奴には、さらに弾薬消費量を増やしてこれ以上どうするのだと呆れられたのだが、それでも私たちにとっては撃てる弾数こそがオーク族に勝つための唯一の手段だったのだ。
「あ、ああ……。フルーベル、これを、レバーの操作無しにただ引金を引く度に撃てる銃と言ったか?」
「そうだ。結局のところ単発式だろうが連発式だろうが、我々の手の操作に依存する限りは戦場の空気に呑まれて装填など覚束ないなんて珍しい事ではない。だから、こういうのを作ろうとした。名前は―――」
「
ほほう?オーク王、それは面白い事を言ったな。
半自動小銃などと。
まるで半分にはなっていない
もちろんまさかグラックストンやファフシャン・レフィエではあるまい。あれは小銃などとは言えないもっと大掛かりなシロモノだ。
となると、オーク王は未だこの世に存在しない何か、完全な自動小銃を知っているという事。
ああなるほど、そう納得してじっとオーク王の瞳を見つめれば、どうやら何か失言をしてしまった事に気付いたようだ。
「……さては。ゼーベック、私はやらかしたかな?」
「ええ、おそらくは。ええ、我が王は半自動小銃と零し、フルーベル殿はそれだけで気付かれたようです」
「参ったなあ……。よし、どの道これから話す事は極めて重大な軍事機密でもある。ビューローとディネルース、それにミュフリング達は退室してくれないか。そしてこの部屋で見聞きした事は決して他言してはならない」
「かしこまりました、我が王」
そのビューローという野盗のような顔のオークや副官達が応接室から退室して、しかしディネルースはオーク王の隣の席から立ち上がらず、何か思い詰めた顔のまま。
ああ、闇エルフにもあの伝承は伝わっているものな。
「ディネルース、どうした?」
オーク王の心配そうな問いかけすら無視して、ディネルースは私に問い掛けた。
「……ホルステナ、
古い伝承の、といっても私が幼い頃にはまだ何人か残っていたという彼女ら、あるいはもしかしたら彼であったかもしれないヴィラール。
まさか今日日、それもオーク族にいたとはな。
「オーク王、別の世界から降ってきた者よ。どうやらディネルースにも気付かれてしまったようだぞ」
エルフ族にとってその伝承は有名に過ぎて、そしてきっとオーク王はこれまでも、ディネルースの前で別の世界の言葉を何度も零してしまっていたのだろう。
例えば、民族浄化であるとか。
「……フルーベル、少しパイプを吸っても良いかな?」
「ええ、お構いなく」
しばし目を伏せ、己の吐き出した紫煙と向き合って、それでオーク王は決心が付いたらしい。
「それで、そうだな。一応聞くが、どうして気付いたんだい?」
「半自動小銃。これは半分ではない完全な自動小銃の存在があって初めて成立する語彙だが、私はそんな存在を全く知らない。そしてオーク王でさえ半自動小銃に満たないカルラの銃を脅威と認識していた以上、オルクセンにおいても存在しない。違うかな?」
「ああ、オルクセンにおいて、そして私が知る限りオルクセン国外においても、
この世界には未だ、と来たか。
「そしてだな、オーク王、別の世界から降ってきた者よ。実のところ、オーク王が初めての降ってきた者ではなく、それこそ三〇〇年か更に前までは、特にエルフィンドにおいては珍しい存在ではなかったのだ。それこそ、エルフィンドの第三代女王も降ってきた者だと記録に残っている。そのくらいにはエルフィンドでは有名な伝承として今日まで伝わっているんだ」
「それが、その別の世界から降ってきた者を示す言葉が、ヴィラールか」
「そうだ。まあ、こういう神話伝承の類はディネルースの好き好んでいる分野だ。私に聞くよりもそっちから聞いた方が面白いだろう」
あまりこういう個人的な話をオーク王としていると、私はシュヴェーリンに殺される前に嫉妬に駆られたディネルースに殺されかねんな。
「つまるところ、別の世界から知識を持ってくる存在の事を私やディネルースは知っていたんだ。だから、オーク王の言う半自動小銃という言葉で、後は民族浄化もそうだろう?それで確信したのさ」
「確かに、民族浄化も私が言った言葉だな。口は禍の元、ああ、これは私の故郷の諺なのだが、どうやら忘れていたようだ」
「ほう、なるほど。口は禍の元、実に物事の本質を捉えているな。ところで、そんなオーク王の秘密を知ってしまった私に降りかかる禍とはどんなものだろうか?せっかく亡き者にするのであればやはりシュヴェーリンの手によって死にたいのだが」
「……」
「ホルステナ、貴様本当に筋金入りじゃな。我が王はそんな事で口封じなどせんわい」
「なんだ、残念だな。ではこれから外で吹聴して回るか」
「それこそ、ヴィルトシュヴァインでぽっと出の白エルフが言いふらす事など誰も聞かんわ」
「……それもそうか」
オーク王の秘密を知ってからこの僅かな時間とはいえずっとそれが楽しみであったのに。
いったい私はどうしたらシュヴェーリンに殺してもらえるというのだ。