ディネルースの部下をいきなり二六名も預かり、仮称
それこそエルフィンド陸軍大学校の頃に私の講義を熱心に受講するような奴など一〇名を超える事が稀だったから、これから更に法学や銃器開発の仕事など引き受けてはどうなる事やら。
そんな私と警護班の日々のスケジュールといえば早朝の枕木ランニングから始まるのだが、これがまず大きな問題を抱えていた。
この枕木を一本担いでの大演習場北兵站駅からバンドウ川までの往復を成し遂げられたのが、警護班の内たった五名。
それも休憩を何度も挟んでペースも落としてようやく達成できたという有様なのだ。
これでオーク族の中でも巨漢である我が王の警護をしようなど、どうかしている。
先日の初対面で黒などと侮蔑語を使った私に対して彼女達が殆ど敵意を示さなかったのも、彼女達にはディネルースに選抜されたという自負があったのを、バンドウ川から枕木とカルラを担いで走ってきた私を見て早々に打ち砕かれ畏怖に変わったからというのが大きかったらしく。
こんな、敵わぬからと敵愾心を喪失する程度の軟弱な性根も叩き直さなければならない。
警護だぞ。
我が王の警護なのだぞ。
そこには妥協も諦観も、欠片も存在してはならないのだ。
「サエルミア!遅れてるぞ!脚を緩めるな!腿を上げて走れ!」
「エアルウェン!貴様、
「ファノメネル!遅い!遅すぎる!誰がお前の枕木を担いでいると思っているのだ!私だぞ!どうして私がお前のような出来損ないの黒の分まで担いだ挙句、そいつの尻を追い立てねばならぬのだ!」
しかし事実として全員が枕木の一本すら担げない以上、担げぬ者には半分に切ったものを担がせたり、あるいは途中で担げなくなった奴の枕木を代わりに私が担いで伴走しているのだが。
これで枕木を合計三本分も担いで走る羽目になった私を見て、余計に敵愾心が薄まって畏怖が大きくなるのでは逆効果ではないか。
「なあフェアグリン、私はどうすれば良いと思う?」
これを警護班の班長を務める事となったリトヴァミア・フェアグリン少尉に相談してもみたのだが。
「いえ、その……。私ですらやってみたらどうにか出来たような有様、とても教官殿が目標とする枕木を二本担いでなど私達の誰も出来ていないので……」
この始末である。
「あのなあ、白エルフに黒黒黒と煽られて、やって見返してやろうという気概は闇エルフには無いのか?」
「それは、まあ。教官殿以外にやられたら、そうなのですが……。教官殿は本当に白エルフなんですかね?班の者達は、本当は白エルフの皮を被ったオークに違いないなどと言う始末でして」
「フェアグリン、お前でさえそれを半ば疑っているだろう?まったく、お前ら闇エルフでもリンディールなどは同じ事が出来るのだぞ。お前らにも出来ないはずがない」
流石に、エルフィンド陸軍大学校で出来るようになるまで扱いたからというのは黙ってる事にした。
「リンディールって、山岳猟兵連隊長のエレンウェ・リンディール中佐ですか?本当に?あっ、えっと本当ですか?」
「ああ、そうだ。なんなら呼んでやらせてみるか?」
まったく、上官でもない白エルフに闇エルフが休憩時まで敬語を使わなくても良いだろうに。
それでリンディールと、あと私の教え子でちょうど同じく非番だったというカレナリエンを大演習場に呼び付け、出来なかったら潰すと言い含めた上でやらせてみた。
「「ふぅんんんぬおぉぉぉーーー!!!」」
「ほら、闇エルフでも二本担いで走れるだろう。お前たちでもやれば出来るのだ」
「ほ、本当だ……」
「凄い……」
「カレナリエン中佐もリンディール中佐もオークだったのかあ……」
こんな有様のランニングの後に朝食を食わせて、残りの時間は三つの分隊に分かれて射撃、格闘、座学をやらせた。
射撃は当てる腕に関してはディネルースが選抜しただけあって立派なものだったが、しかし銃に問題があった。
彼女らの得物はオルクセン制式でもある一〇・六mm口径の将校用拳銃M/七四だったのだが、これがやや古い方式の回転式拳銃だったのだ。
信頼性や耐久性に関しては問題無かったものの、引金や撃鉄の重さなど酷いもので、これでしっかりと当てるのだから彼女達の射撃の腕は手放しで称賛すべきものだった。
もっとも、引金や撃鉄の重さなど私やカルラで調整してしまえばどうとでもなるもので、既に何丁かはそうしたのだが、それでも別の問題は残った。
撃ち切った後の再装填がとにかく遅過ぎるのだ。
これはこのオルクセン制式の、将兵らは
まあこれも、メイフィールド・マルティニ小銃と同様に私がラエリンド・ウィンディミア陸軍大臣に陳情して採用調達させたのだが。
その新式拳銃は中折かつ自動排莢の回転式で、名は
この新しい拳銃は銃を握る手の親指でレバーを押し込んで、そうしたら銃身を掴んで銃まるごとを折るようにすると、それだけでシリンダーに収まっていた全ての薬莢が排出される。
後は中折れしている事で後面全てが見えているシリンダーの穴に新しい弾を差し込んで、折れた銃身を戻せば再装填が完了するのだ。
ケーニライヒスリボルバーの、フレームにある一発分だけの切り欠きから薬莢を一つずつ棒で突き出して新しい弾を差し込んでいく、いわゆる固定式ではどうやっても再装填の速度で敵いようがなかった。
このように銃の性能で大きな差があるようでは、どれだけ訓練を重ねようとも発揮できる火力の差は覆しようがなく、このため私はエルフィンドに居た頃と同様に各所へ陳情をする事となった。
なにせこの問題の解決手段は極めて明快。警護班だけでもエルフィンドと同様にイリーリボルバーを調達すれば良いだけなのだから。
まずは警護班やアンファウグリア旅団の将兵が持っていた私物。これはエルフィンドから脱出する時にエルフィンド陸軍や国境警備隊の将校から鹵獲したもので、四丁あったのを借りた。
こういうのは鹵獲を成した将兵のトロフィーであるから貸し渋られるかと思ったのだが、国王警護に使うとならばと全てを借りれたので大変に助かった。
次にここオルクセン王国首都ヴィルトシュヴァインに店舗を置くキャメロット商人が在庫にしていた物。これも四丁あったのを全て、さらに弾もあるだけ買い上げた上で追加購入の契約もした。
これはイリーリボルバーがケーニライヒスリボルバーとは異なる一一・五mm弾を使用するためにオルクセン軍の補給には頼れないから必須であった。
これで合計八丁となったが、警護班の二六名に対しては全く足りない。
さらに付け加えるなら運用に際しては予備も含めて三〇丁以上は確保したかったのだが、無い物には頼れない以上どうしようもなかった。
あるいはセンチュリースター製の別の種類の拳銃も調達すればもう少しは数を揃えられたのだが、種類ばかり増えては使う弾の種類まで増えて混乱の元になるため避けるしかなく。
仕方ないので、警護班の中で特に射撃の優れた者を選抜して、その彼女らに与える事とした。
まあ、エルフィンドとの戦争が始まれば幾らでも鹵獲できるだろうから、それでイリーリボルバーも一一・五mm弾も充足するだろう。
これはディネルースを通じて戦時には鹵獲兵器の管理も担うオルクセン軍参謀本部兵站局長のギリム・カイト少将へ嘆願した。
「まったく、これではエルフィンドに居た頃とまったく変わらんな。兵達の為に良い銃をとあちこちへ、あちこちへだ」
元ネタ解説(ネタバレ無し)
○
原作にもM/七四として登場している。
ただし以下の元ネタと異なりダブルアクションに改変されている。
元ネタはM1879 Reichsrevolverとして知られるドイツ帝国のリボルバー拳銃。
○
コミカライズで白エルフが持っている。
元ネタはWebley Revolverとして知られるイギリス帝国のリボルバー拳銃。
イリーの名は使用弾薬である.455 Webleyの別名に因む。