オルクセン王国史〜ロザリンドの牙折り〜   作:鶴岡

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バンドウ事務所④

 私の仮住まいともなっているヴィルトシュヴァイン大演習場で仮称バンドウ事務所警護班の闇エルフ達の訓練をして過ごす日々の最中、待ちに待っていた事が2つ揃って来た。

 

 まず一つ。私に付いてエルフィンドから出て来てしまい、今までキャメロットで滞留していた氏族の者達がやって来たのだ。

 

 その日、警護班を連れての早朝枕木ランニングを終えて演習場北兵站駅に辿り着いてみれば、珍しく、というよりも私が来てから初めてとなる列車がホームに入線しており、しかし客車のドアと窓は全て締め切られたまま、周囲を第一擲弾兵師団の憲兵が囲んでいた。

 

 その客車の車内の様子を見て伺う事は叶わないが、しかし魔術探知によればおよそ五〇名ばかりが乗車しているらしく、そして白銀樹の護符の気配もする。つまりはエルフ族、それもオルクセンでわざわざあのような対応をして私の元へ連れて来るとなれば、ああ来たのかと。

 

「フルーベル退役五等少将閣下。閣下と共にエルフィンドを出てキャメロットにて一時滞留していた者達四六名を連れて参りました。並びに、彼女達の亡命申請を司法省が許可した事を証明する書類がこちらになります」

 

「ありがとうございます、少佐殿。しかし、今の私はただの民間人であるからして、その敬礼は不要ですよ」

 

 駅舎に戻って来た私に第一擲弾兵師団の憲兵少佐がむず痒い対応してくれるが、しかしまあ私と会うオルクセン軍の将校は私の経歴を知らされてるらしく揃いも揃ってこうだな。

 

 そもそもオルクセンにおいて五等少将なんていう階級は存在しないだろうに。

 

「は、はあ……。しかし、これは内々の聞いた話ですが、閣下をオルクセン軍へ任官するに当たり、闇エルフ族の一部がそうだったようにエルフィンド軍での階級を引き継ぐだとか」

 

「待て、待て。誰がそんな馬鹿げた事を言ったんだ。今のオルクセン軍で白エルフ族の将軍など抱えてみろ。アンファウグリアが黙っていないぞ」

 

 そう言って憲兵少佐に私の背後で待機している警護班の闇エルフ達を指差してやる。

 

「あー。そのですね、閣下をそのように推してるのが、そのアンファウグリアの将校連でして」

 

「はぁ?……ディネルースめ!あの馬鹿、そんな事をしでかしたらエルフィンドと戦争する前にアンファウグリアの中で反乱が起きるぞ!」

 

「え、閣下?」

 

「ええいやめろ!貴様も私の事をそう呼ぶな!アンファウグリアの旅団長は私の元同僚で、その部下たる将校連の大半は私の教え子だ!しかし、その更に下の兵は違う!私の事など闇エルフ同胞の仇たる白エルフでしかないのだぞ!」

 

 ああくそ。そういえばディネルースは私と違ってロザリンドで部下の統率にしくじっていなかったが、しかし仇というのは驕りよりも根深いのだぞ。

 

「ですが、しかし閣下は違うでしょう?」

 

「ああ、違う。だがこれはエルフ種族の肌色の違いと、そして民族浄化の被害者である闇エルフ側の感情の問題でしかない。そこに私という白エルフの経歴など一切関係ないのだ」

 

 それこそ、エルフィンドや魔種族人間族に限らず怨恨を晴らすために相手と同じ氏族や親族、あるいは種族や人種、果ては性別などという余りにも大きな括りが重なっているというだけの全く無関係な他人を殺したなんて沙汰は珍しくもなんともない。

 

 だと言うのに白エルフを擁護する上官など、例え同じ闇エルフ同士であったとてどうなる事やら。

 

 ましてや白エルフを将軍として迎えるなど、オルクセンの国と軍への不信に繋がりかねない。

 

「ああ、いや、すまない。ここで少佐殿に抗議してもな。後でディネルースをどうにかしておくよ」

 

 まあ、ディネルースの顔でも一発殴っておけば素行に問題有りとして少将での任官などされんだろう。

 

「ええと、……はい。それともう一件なのですが、閣下の、いえフルーベル殿のヴァルダーベルクへの転居が内務省により許可されました。先の四六名も同様です。住居の準備は既に完了しております。後は、手配している馬車の到着しましたらヴァルダーベルクへ向かえます」

 

 ああ、あの身辺調査が終わったのか。

 

「了解した。しかし今からとなると、警護班の訓練をどうしたものか。馬車の出発時刻を夕方にするなんて無理は効かんだろう?」

 

 なにしろ馬で牽くのだ。

 

 出発を待たせている間ずっと飼葉を絶やしてしまう事になる。

 

「はい、そうですね。なので、今日は私共第一擲弾兵師団の憲兵隊が教導を代行しようかと。あの列車の警護はそのついででして。いかがです?」

 

「それは、とても助かるのだが。良いのか?」

 

「ええ、お任せを」

 

 そうであるなら、丁度いい。

 

 今日の内にさっさとディネルースの顔を一発殴りに行こう。

 

 ()()()()()()()()()()()()を仕留めて以来、国王官邸に入り浸っている奴も昼の内はヴァルダーベルクで旅団の勤務をしているとの事だから、毎日のように朝帰りを決め込んでいる奴をそれはもう盛大に出迎えてやらなければ。

 

「それではフルーベル殿、馬車の到着まで列車でお待ち下さい。同胞の方々がお待ちですよ」

 

「ありがとう。警護班の連中、私がいないからと気を抜かせるなよ?」

 

「ええ。第一擲弾兵師団が首都のお飾りではないという事、しっかりと見せつけてやりますとも」

 

 さて、明日にはどっちが良かったかでも聞いてやるか。

 

 

 

「ホルステナ!」

 

「姉御!」

 

「フルーベル族長!」

 

 列車の内、機関車に一番近い客車のドアを開けてもらって車内に入ってみれば、僅かに数ヶ月ぶりとはいえ懐かしい面々との再会だ。

 

「やあやあやあ、久しぶりだな皆!ラスムッセンに、マドセンに、まるでここはトストルプか!」

 

「何を言うんです族長。ここにあの長老連中はいませんよ」

 

「そうですとも。我らトストルプの白銀樹に生まれ、なれど白銀樹が姉御を見捨てたあの日に我らも白銀樹を見限っております」

 

「またお前らはそんな事を言って。それで本当に護符まで捨てるなよ?私だって捨てていないのだから」

 

 正しくはロザリンドの後に、私が氏族から追放されるくらいなら共に護符を捨ててやると揃いも揃ってこいつらが吠えたせいで、私は護符を奪われずに済んだのだが。

 

「ええ、ええ。護符を焼き払うのは族長と共に。それまでは大事に首から吊るしておきますとも」

 

 全く、なんて物騒な奴らなんだ。

 

「でも、そうですね。ロザリンドはトストルプ銃隊の生き残り、マドセン以下四六名。ただいま参上しました。族長、また我々を導いて下さい」

 

「ああ、導くなんて器では無いが、まあ努力はするよ」

 

 なにせロザリンドで一度は失敗したんだ。次を上手くやれる自信なんてこれっぽっちもありはしない。

 

「ともかく、ようこそオルクセン王国へ。少しばかり早くに亡命が受理された先達として案内するよ。といっても、私も入国してから今までずっと軟禁されていた身で、これから行くヴァルダーベルクという闇エルフ達の居住地も初めて行くんだが」

 

「なんですか、それ。締まらないですねえ」

 

「言ってくれるなよ。ともかくとして、我々個々は違うとて白エルフという存在は知っての通り闇エルフにとっての仇そのものだ。不用意な行動は慎むように」

 

「ええ、身に染みていますとも。我らが隊長」

 

 まあ、驕りで一度は死地に飛び込んだ連中だ。それで同じ轍は踏まんだろう。

 

「ところで族長。族長はエルフィンド軍で大佐、退役する時に五等少将まで上がりましたけど、オルクセンではどうなるんです?先程は外で二〇名か三〇名の集団を率いていたようですが、何かの部隊を教導していたので?」

 

「ああ、軍への任官はまだだが、闇エルフで編成される国王警護班をディネルースの依頼で扱いていたんだ」

 

「……族長、貴女、オルクセンに来て一体何をしでかしたんです?ディネルースと言えば貴女の元同僚にしても、それにしたって闇エルフによる国王警護班の教導なんて、肌の色が分かっていないのですか?」

 

「全く、それだよ。それに私もついさっき聞いたばかりなんだが、ディネルースを始めとしてアンファウグリアの、闇エルフ旅団の将校連が私の事をオルクセン軍に任官するに当たって少将の階級をと推しているらしくてな」

 

「……闇エルフ達はエルフィンドと戦争をする前に内乱でもするつもりですか。まるでエルフィンドで起きた事と同じじゃないですか」

 

 ああ本当に、どうしてディネルースはこんな少し考えるだけで分かる事をしでかそうとしているのだ。

 

「まあ、それは私がディネルースの顔を一発ばかり殴って素行の悪さでも周囲に見せつけておけばどうとでもなるさ」

 

「それ、本当にどうにかなるんですか?」

 

「なるさ。少なくとも少将にはならずには済む。それで良しじゃないか」

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