星暦八七六年九月。
あの騒動を引き起こした結果、私はオルクセン陸軍へ少将として任官すると同日に三階級の降格処分が下って少佐となり、更に三ヶ月の減給処分の最中、ディネルース少将と共に首都ヴィルトシュヴァイン西方郊外にある、陸軍第一擲弾兵師団の駐屯地シュラッシュトロスを訪れていた。
その他にアンファウグリアの将校連や、私に付いてきた氏族の者の内、私のようにオルクセン陸軍へ仕官したカルラ・ハーマセン少佐、ロドルース・エルミア大尉、ラエルミア・マドセン少尉、ブレロス・ラスムッセン少尉を伴ってだ。
つい先日にやや不機嫌だったディネルースから伝えられたグスタフからの言伝によれば、君たちの半自動小銃も見せてほしいとの事だったので、アンファウグリア旅団から馬と共に荷馬車も借りてシュラッシュトロスの射撃場へ迎えば、お歴々は既に集まっていた。
ちょうど、我が王と騎兵監のツィーテン上級大将がちょっとした言い合いをしている所で。
それからややあって、ともかく我が王がツィーテン上級大将を着席させる事に成功するとこちらに気付いた。
「お、来たな。少将、そして少佐も」
「「はい、我が王」」
ディネルースと声を合わせて、しかし違う敬礼をする。
しかし、アンファウグリア旅団からディネルースが連れて来た将校連にはカリナリエン中佐など私よりも階級が上の者が居るにも関わらず、少佐の私が我が王に声を掛けられるのはもどかしいな。
「それで今日はいったい―――」
「まぁ、見てろ。きっと君は面白がる」
なるほど、私には半自動小銃を見せて欲しいとディネルースに言伝をさせておいて、ディネルースには何も伝えていなかったのか。
つまりこの数日の間、ディネルースが私の前でずっと不機嫌だったのは我が王のせいだったと。
そういう女の嫉妬を煽るような事は止めて頂きたいのだがな。
そうしている内に射撃場へ現れたのは、四頭曳きの軍馬に繋がれたグラックストン機関砲。
形からして七六年型かな。
「それでは、始めさせていただきます」
「うん」
それの射撃準備が済むと、我が王が頷き、それで砲員らが発砲を開始する。
転柄を手で回す。
ただそれだけの操作で、機関部の上部に突き刺された細長い箱から弾薬が薬室へと送り込まれ、そして発砲を繰り返す。
繰り返す。
繰り返す。
繰り返す。
連続した発射。ただそれだけが続いていく。
それが終わった頃には、射撃場の向こうに立てられていた標的はぼろぼろに崩れ落ちていた。
「機関砲。グラックストン環状機関砲というんだ。七六年型」
そういえば、ディネルースはこれを見た事が無かったか。
エルフィンドに居た頃には少しばかり輸入して、ウィンディミアにはこれも嫌われたのだが、どこから話を聞きつけたのか海軍のファラサール大将に気に入られて、口径を三七mmにさせた奴がリョースタ型戦艦に水雷艇迎撃砲として採用されたんだがな。
「センチュリースターが内戦をやって国が真っ二つに分かれたとき、北側の民だった医師のグラックストンが作ったものだ。なんだかんだで発明されてからはもう一〇年ばかりになる」
今では各種の口径に加えて、束のような銃身に覆いのあるもの、弾の収まる容器をドラムのような円筒形にして高さを抑えたもの、そういった色々な違いのあるものまで作られている。
結局のところ、たくさんの弾を撃てるが故にエルフィンド陸軍では採用されなかったのだが。
「ちかごろ各国に売り込みがあってね。うちでは製造権を買って、エアハルトと同じ一一mm銃弾が撃てるように構造を変えて生産させてみた。その試作砲だよ、これは」
なんとも、羨ましい事だ。
「王、我が王―――」
しかし、ツィーテン上級大将が震えながらに絞り出した言葉は違った。
「これは。これでは、騎兵は滅びますな。兵科そのものが、いなくなってしまう。きっと、そうなる」
おや、そう思ってしまうのか。
なるほど、なるほど。
「うーん。だが、騎兵がいますぐただちに無用になるほど軟なものだとは、私には思えないな」
しかし我が王の、降って来た者でさえその認識にそこまで差が無いとは。
騎兵が齎す恐怖は他のどの兵科であっても代替できないというのに。
「アンダリエル少将」
「はい、我が王」
「まず六門ばかり君のところに預ける。こいつの運用をモノにしろ」
「はい、我が王。必ず!」
つまりなるほど。
来たるエルフィンドとの戦争でオルクセンはグラックストンを使えるのか。
素晴らしいじゃないか。
「それで、グラックストンの次になんだが。フルーベル少佐、君たちが作ったのも我々に見せてくれないかな」
「はい、我が王」
いつの間にやら射撃場の向こうには新しい的が用意されていたから、残る準備は馬車から銃と弾の詰まった木箱を降ろして中身を取り出すだけだった。
なにやら我が王やあの闇エルフと親しげにしている白エルフが持って来た銃らしいという事で、オルクセン軍で兵器研究を担う兵器技術局の技官や、オルクセンで兵器の開発と製造を担っているヴィッセル社から来たという技師達から注目を集める中、箱から取り出したのは三種類の小銃。
一つはハーマセン少佐が設計したもの。
一つは私がエルミア大尉と設計したもの。
一つはマドセン少尉とラスムッセン少尉が設計したもの。
どれも見た目からして異なるが、全て私が言うところの自己装填式小銃である。
それらをそれぞれの開発者であるハーマセン少佐、エルミア大尉、マドセン少尉が手に持ち、銃身の魔術刻印に魔力を込め、エルフィンド制式小銃弾である一一・四mm弾を装填していく。
これで目聡い奴はもう気付いたようだ。
小銃に五発も弾を装填した事に。
「少佐、準備完了です」
「よし。それでは我が王」
「うむ」
それでは、御覧差し上げようじゃないか。
「目標、前方一〇〇m、模擬標的。全隊、任意射撃、一〇発、……撃て!」
私の号令と共に三人が、まずは引金を引いて発砲。
その反動で跳ね上がった狙いを戻して、そしてまた引金を引いて発砲。
発砲。
発砲。
発砲。
これで銃に装填していた弾を全て撃ち切ったので、すぐに再装填。
それもそこまで時間を要する訳でもなく、また五発を続けざまに撃つ。
僅かに二〇秒。
兵の持つ小銃で一〇発を撃つのに要した時間が、僅かに二〇秒だ。
あるいは僅か三人の兵が、馬で曳いて運ぶほど大掛かりなカラクリも無くグラックストンに比類する射撃を成し遂げたとも。
振り返って観客の方へ向き直れば、我が王を除いては揃って悪夢を見たような顔。
まったく、我が王は彼らにも伝えていなかったのか。
それでは無理もない。
オルクセンにおいて最新の小銃である、僅か二年前に採用されたばかりのエアハルトGew七四では一発を撃つ毎に槓桿を引いて弾を装填しなければならないから、それと比較すれば悪夢そのものだろう。
「フルーベル少佐、説明もお願いして良いかな?」
「はい、我が王。……ではまず初めに、これらの小銃はエルフィンドで我々が開発し、製造したものです。しかし、その現物と図面は全て我々がエルフィンドから逃れる際に、ええ、全てを持ち去っております。そして同じような銃を作っていた者は他に居ませんでした」
それを聞いてとりあえず皆が安堵する。
「そもそもとして昔からエルフィンド軍は弾薬消費量の増大を嫌っていましたから、このような沢山の弾が撃てる銃は歴代の陸軍大臣から嫌われていました。このため、当分の間はメイフィールド・マルティニ小銃がエルフィンド軍制式小銃であり続けるでしょう」
それこそ、ウィンディミアに新しい銃を採用するよう度々押しかけていた私が居なくなってしまったのだから、余程の事が無ければ更新などされぬだろう。
「ともかくこの小銃は、私は自己装填式小銃と、あるいは部下達は反復式小銃や衝撃装填式小銃だとか、色々な呼び方をしている。つまるところ、発砲した時の衝撃を利用して、銃の内部にあらかじめ装填しておいた弾薬を一発ずつ薬室へ移して、それでまた次の発砲を可能とする小銃です」
この説明を聞いて軍の技官やヴィッセル社の技師はドワーフ族であるにも関わらず我々に一目置いたようだった。
もっとも、その裏にはまだ恨みも見えるのだが。
「質問、いいか?」
それでもヴィッセル社の技師が手を挙げた。
「ええ、もちろん」
「最初に、その小銃の銃身に彫り込まれた魔術刻印に魔力を込めていたな?何の魔術刻印だ?」
無愛想な声音での問い掛けであったが、しかしよく見ていたと分かる質問だった。
「はい、風系の、銃身の中で銃口に向けての風を起こす魔術刻印です。硝煙が視界を塞ぐのを防ぐ事を目的として施していましたが、これが結果的に機関部に火薬滓が付着する事も防いでいます」
「……なるほど。その銃のカラクリにとって重要だったのは火薬滓を防ぐ方だな?」
「はい、恐らくその通りかと」
それから幾つか技官と技師からの質問に答えて、最後に我が王から声が掛かった。
「フルーベル少佐」
「はい、我が王」
「少佐と、それと君の部下達にやってもらいたいのは、その自己装填式小銃のような新しい技術を用いた色々な兵器を作る事だ。なにかしら必要な物は多いだろうから、兵器技術局やヴィッセル、それとエアハルトとアムベルトには協力するよう話を通しておく」
「はい、我が王。承りました!」