「小銃の弾の威力について認識を擦り合わせた所で、更にもう一つ。先日に言っていた我々に作って欲しい色々な兵器について、あるいは更に前に聞いた完全な自動小銃や機関銃なるものについて聞きたいのだが」
例えば、自己装填式小銃を半自動小銃とした時に、どういった要素を備えた時に半分ではない自動小銃となるのかであったり。
あるいは機関砲と機関銃の違いであったりだ。
「そうだな。作って欲しいと頼み込んだのは私だからな。しかし、私は前の世界で兵隊をやっていたり、銃に関わる仕事をしていた訳でも無くて、だから本当にうろ覚えの、半端に聞き齧ったような知識しか無いんだ」
「それは仕方ないだろう。私だって門外漢な知識などそう持ち合わせていない」
それで、我が王から色々と知識を授かったのだが。
「つまりは、引き金を引いている間は発砲が繰り返される射撃が可能なのが自動小銃。その繰り返しの射撃に更に最適化したのが機関銃。機関銃の中でも軽いものが軽機関銃、重いものが重機関銃。銃弾ではなく砲弾を用いるものが機関砲。……おおまかにこのような分類か?」
「そうだな。そのような感じだったと思う」
まあ苦労した。
これだけの、たった六種類の分類をおおまかに定義するだけの事が、昼食すら挟んでの大仕事だったのだ。
そして机に並べられたのは我が王が書いたかの世界の銃を描いたスケッチと、積み上がったのは低地オルク語とキャメロット語、そして道洋語の辞書の数々である。
その中には補助機関銃やら強襲小銃とやらの、定義付けを諦めたものさえ残っているのだが、まあ仕方あるまい。
なんと我が王、降って来る前は道洋に似た国の民で、その為に知識の多くを道洋語で記憶しているのだ。
それも事情から仕方ないとはいえ、厳密には道洋語に近いと言える程度でしかない言語でだ。
そのような言語で記憶されているうろ覚えの知識を元にして定義を定めるなど、まるで古典アールブ語を最初から学び直すようなものだった。
また一部はキャメロット語の語彙で覚えていたようだが、それとて厳密にはこの世界のキャメロット語との差異があるのではと疑って、気付いた。
グラックストン機関砲を先ほどの定義で分類すると、エルフィンド海軍が採用したような三七mm口径のものならば機関砲となるにせよ、それらを除けば小銃弾を使うので機関銃となるはず。
そしておそらくはその内の重機関銃だろう。まさか馬四頭曳きで軽機関銃とはなるまい。
しかし我が王は先日に機関砲と低地オルク語で呼称していて、つまり。
「我が王。グラックストンを機関砲と呼称しているのは、この分類すら今この時においては重大な機密なんだな?」
「そうなる。だからグラックストンは北センチュリースターでそう言われている通りに機関砲と呼称するほかない」
「なるほど、納得した」
ともかく、これで物の定義を共有できたからようやく本題に入れる。
我々の仕事についてだ。
「それで、我々はどれを作れば良いのだ?」
「それなんだが、どれを作るかも君たちに任せたいんだ」
「なんだと?……いや、我が王ですら分からないのか」
仕事を頼んでおいてそれは無責任ではないかと思わず口から出かけたが、我が王とて手探りなのだと思い至る。
「そもそもとして、そのような銃はあと五〇年を経て無煙火薬が実用化されてようやく世に出てくるような代物だ。だから、あくまでも先行しての技術蓄積が目的として大きいと思ってもらって良い。無煙火薬が実用化されるまで銃身へ魔術刻印を施せば使えるとしても、それを実際に軍が数を揃えて調達するには無理があるし、なによりオルクセンは魔術を扱えない者の方が多い」
少しばかり、私や私と共に来た者達を侮っているのではないかと思ってしまうが、しかし調達できないのだから逸る必要が無いというのも、また理解できた。
なにせその理由の一つは彼女から常々言われていたのだから。
「なるほどな。つまりエルフィンドの陸軍大臣と同じような事を言うと」
しかし、それでも光明は得た。
「う。……そうだな、確かにそうだ。すまない」
「いいとも。なにしろ、これは私の推測だが、機関銃や機関砲くらいになら魔術刻印は許容されるだろう?」
グラックストンのような数多くの銃身を備える大掛かりな機関銃を調達できるのであれば、我が王がスケッチしたような銃身が一つだけの機関銃へ魔術刻印を施す事に問題など何ら無いはずだ。
それこそ機関砲ともなれば、例えば海軍の艦艇に搭載する水雷艇迎撃砲など本当に限られた数しか調達されないのだから、多少の凝った設計とて許容されるだろう。
それこそエルフィンド海軍のファラサール大将は本当にそういう理屈で教義派を黙らせてグラックストンを調達したのだ。
そしてオルクセンならば僅かながらエルフィンドから亡命したエルフ族のみならず、コボルト族にも魔術を扱える者が多い。
「……そうか!ああ、そうだ。機関銃や機関砲なら小銃ほどの調達数にも配備数にもならないから、それこそ今であっても問題無い。なにせ魔術刻印は君達がやってくれるのだろう?」
「もちろんだ。付いて来てしまった奴らの仕事を見つけられて良かったよ。それでは、まずは作ってみせようじゃないか。機関銃と機関砲とやら」
しかし、私にとってはこれでさえ思う所はあるのだが。
……まあ、一二〇年前の戦訓が今日、あるいは機関銃のある未来でも通用するとは限らない訳であるから、作る前から懸念すべき事ではないか。
これで仕事の方向性は定まったと思ったのだが、しかしどうやら追加があったらしい。
「それと少佐、私からも弾薬について一つ相談があるのだが」
はて、我が王が私に弾薬について相談を?
「あの、今より弱い威力の、軽く小さい小銃の弾についてか?」
「いや、違う。ああ、きっとそれにも関わると思うが、弾薬に使われる鉛と銅を無くしたいと思っているんだ。何かアイデアはないかな?」
「鉛と銅を?それは、ああ。戦時にエルフィンド海軍が輸入を妨害する事を想定しているのか」
どちらも弾薬の主な材料であるから、戦時にその輸入が妨げられてしまえば悪夢でしかないだろう。
しかし、半島国家であるエルフィンドとは異なりオルクセンならば鉄道による輸入も可能ではないかとも思ったのだが、それに対する答えは農学者でもある我が王らしいものだった。
「いや、まあそれも確かにそうなんだが。鉛も銅も、毒性があって土壌を汚染してしまうんだ」
「なるほど。それは問題だな。戦った末に土地が穢れてしまえば本末転倒だ。しかし、それこそ我が王の知識に解決法があるのでは?」
「それが、まったくなんだ。鉛や銅が数々の環境破壊を齎したという事は覚えているのだが、それに対して弾薬ではどのような解決法を見出したのかはさっぱり。あるいは解決していたのかすら分からない始末だ」
……環境破壊とな?
単純に土壌汚染とは言わなかった辺り、土壌以外にも様々な影響があるのだろうか。
まあその辺りは本題ではなかろう。
「まあ、やれる事となれば鉛と銅を何かしらの手法で無毒化するか、あるいは毒性の無い別の材料に置き換えるくらいしかないのではないか?」
「やはり、それしかないか」
とりあえず直ぐに思い浮かんだ案を出してみるが、私程度がすぐに思い付く手法など既に出ていたらしい。
「やはりという事は、既に検証していたのか」
「ああ、だがどれも難しい。そもそもとして、鉛や銅にどのような毒性があるのかもまだ完全に解明されていないし、あるいは鉛や銅の代わりとなるような性質の材料も、これもまだ見つかっていない」
「冶金で並ぶものの居ないドワーフ族を擁するオルクセンで代わりの材料が見つかっていないとなると、これは本当に難題だな」
「ああ、ドワーフと言えばヴィッセルのヴァーリ・レギン会長は柔らかい鉄を作ってやると意気込んでくれたが、今までモリム鋼のような頑丈な鉄を作ってもらっていた所に真逆な性質の鉄を作るとなってだいぶ迷惑をかけてしまってな」
柔らかい鉄とはまた珍妙な。
「しかし、ドワーフに打てない鉄などあるまい」
それに、鉄で代替できるなら調達の容易性からしても優れている。
「そうは言っても冶金は魔術ではなく化学だ。どこかに限界はある」
「だが、他にめぼしい材料に心当たりがないとなれば、残るは鉛や銅の毒性を取り除くくらいだろう?」
そう自分で言ってみて、一つ思い出した。
「そういえば、銅の毒といえばヒ素が、質の悪い銅製品ではかなり混ざっていると聞く。エルフィンドではそういう銅で作られた酒器などが何度か謀略に使われたんだが」
「……精霊の国などまるでまやかしだな。しかし、銅に含まれるヒ素か。なるほど、参考になったよ」
これでこの日はお開きとなったのだが、どうやら後で我が王は誰かに銅に含まれるヒ素について聞いたらしい。
よりにもよって白エルフと殆ど丸一日の会談をした後にだ。
その翌日。
私はヴィルトシュヴァイン警察から、国家憲兵隊から、そして最後には所属さえ明かそうとしないロクでも無さそうな奴から立て続けに聴取を受ける破目になった。
「まったく。いや、参ったな。ヒ素の話などあのような密会でするべきではなかったな」