オルクセン王国史〜ロザリンドの牙折り〜   作:鶴岡

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バンドウ事務所⑪

 我が王から降って来た者としての知識を授かって翌々日、私は氏族の皆の内から銃の開発や製造に関わっていた者達を集めてヴィルトシュヴァイン大演習場の北側兵站駅舎の一室、バンドウ事務所に戻って来ていた。

 

 半自動小銃の開発に関わったカルラ・ハーマセン少佐、ロドルース・エルミア大尉、ラエルミア・マドセン少尉、ブレロス・ラスムッセン少尉。

 

 それとティリオン王立造兵廠で工員として勤めていた者達だ。

 

 総勢二〇名程度の頭数とはいえわざわざバンドウ事務所に戻って来たのは、私がここで警護班の訓練をする仕事も抱えているというのもあるが、それに加えて我が王から、これから作ろうとする銃が余りにも時代を先取りし過ぎているため、機密に配慮して人目の少ないヴィルトシュヴァイン大演習場の中で開発して欲しいとの依頼があったためだ。

 

 それこそ、オルクセン軍の技官やヴィッセル社などの技師さえここには居ないほど。

 

「さて、ここオルクセンで皆に作ってもらいたい銃についてだが、我が王より子細を伺ってきた。端的に言えば、グラックストン機関砲が抱える問題を解決した銃だ」

 

 我が王の出自に由来する知識や先日に定義した銃の分類は機密であるから私の内に留めなくてはならないため、言える事はどうしても漠然としたものとなってしまう。

 

 しかし今日のグラックストンが抱えている欠陥が明瞭であるが故に、求める完成形を隠したとしても方向性を示すのは容易かった。

 

「一つは、グラックストンのような射撃能力を持ちつつも機動に馬匹を要さない小さく軽便な銃」

 

 つまるところ軽機関銃と呼ばれるべきもの。

 

「一つは、グラックストンのように馬匹を必要としながらも、より優れた射撃能力を持つ銃、あるいは本当に砲弾を撃つような砲」

 

 そして重機関銃や機関砲と呼ばれるべきもの。

 

 ただ、これらが以前まで私が求めていたものとは別物である事も、また明白であった。

 

 そして彼女達もそれを知っている。

 

「族長、貴女、どういう心変わり?一部の兵が持つ銃の火力を高めても、その兵が敵から狙い撃ちされてしまうから、全ての兵が持つ銃の火力を高めなくてはならない。エルフィンドに居た頃にそう言っていたのは貴女でしょう?」

 

「グラックストンを小さく軽くした銃を全ての兵に持たせるでも無いんすよね。だって、姉御は製造コストを安くとは言わなかった」

 

 それこそが、ロザリンドで私達トストルプ銃隊がその半数を失って得た戦訓だからだ。

 

 シュヴェーリンがアグラギルを殺して、それで恐慌に陥った私達。

 

 それでも冷静を保って撃ち続けられた者達は、しかし目立ってしまい集中して狙われて多くが死傷した。

 

 故に、一部の兵ではなく全ての兵が持つ銃の火力を高めなければならない。

 

 機関銃は、特に軽機関銃はこの戦訓と真っ向から相反するのだ。

 

「族長がエルフィンドでグラックストンを推していた時だって、星欧列強が調達したからエルフィンドも倣うべきだなんて消極的理由で推していましたよね」

 

 そしてラスムッセンが指摘した通り、ウィンディミアにグラックストンを推していた時も、戦術的優位よりも星欧列強と同じ兵器を調達配備する事による示威を利点としていたほどだ。

 

 グラックストンは確かに優れた火力を発揮するが、しかし小銃と同じ弾を使うが故に、基本的に敵が持つ小銃の射程内でしか火力を発揮できない。

 

 そして山砲ほどの大きさがあり、射手が伏せては発砲も出来ないため的になりやすい。

 

 兵法の常道でもあるが、敵よりも高地に陣地を据えるであるとか、そういう工夫がなければ射手すら弾薬と共に失われていくだろう。

 

 だからこそ我々は小銃の火力を向上させようとし、いわゆる半自動小銃を作り上げたのだ。

 

「ああ、その通りだ。心変わりと思ってもらって良い。グラックストンより優れた射撃能力を、つまり小銃より優れた射程を持つ銃や砲であれば危惧したようにはならないだろうが、しかし小銃と同じ弾を使うようでは、その通りだ」

 

 だが、我が王が示した未来では、どういう訳か軽機関銃なるものが成り立っているのだ。

 

 軽機関銃の射手すらも弾薬同然に消耗するものとして許容したのか、あるいは何かしらの対策が見出されたのかは分からず、後者である事を願って模索するしかあるまい。

 

 そして、私はどうして宗旨変えしたのかを彼女達に伝える事が出来ない。

 

「……気が乗らないわね。グラックストンより優れた射撃能力を持つ銃や砲ならともかく、小銃と同じ弾を使う何かなんて作らないわよ。良いでしょう?」

 

 だから、エルミアが軽機関銃を作らないと言うのも仕方ないのだ。

 

「ああ、それで構わない。それこそこれは軍からの正式な開発依頼ではないから拒否しても良いものだ」

 

「ちょっと、そういう事は先に言いなさいよ」

 

 そして、私がエルミアと組んで銃を開発している都合、私も重機関銃や機関砲の開発に携わる事になる。

 

「じゃあ姉御、こっちはグラックストンを小さく軽くしたのを作るっす。それこそ小銃並みに小さくして、小銃と同じように伏せたり堡塁の中から撃てるようなのを作れば、とりあえずグラックストンみたいな的にはならないでしょ」

 

「そうですね。族長が心変わりするだけの何かがあったのでしょうし、私もマドセンとグラックストンを小さく軽くした銃を作ります」

 

 マドセンとラスムッセンは軽機関銃を作ってくれるようだ。

 

「ああ、頼んだ」

 

「ええと、それでは、私は拳銃でも作ろうかと」

 

 そしてハーマセンは拳銃を。

 

 ……拳銃?

 

「えっと、拳銃ですか?ハーマセン先生」

 

「だから先生は止して下さい。じゃなくて、ほら、警護班の方々は拳銃を持ちますから、我々の小銃のような機構を組み込んだ拳銃が作れないかなと思っていまして」

 

「なるほど、そういう事でしたか。分かりました。お願いします」

 

 元よりハーマセン先生は我々の中で最も古くから銃に携わってきたのだ。

 

 その経験から見出した方針も一つの正解となるだろう。

 

 ともかく、これで私達トストルプ銃隊の生き残りがティリオン王立造兵廠の片隅でやっていた銃器開発はここヴィルトシュヴァイン大演習場北側兵站駅舎の一室、バンドウ事務所で再開される運びとなった。

 

 のだが。

 

「それで、族長。私達が作る銃に何か名前はあるのですか?ほら、小銃みたくまた名前で揉めたくはないのですが」

 

 私が触れずにいた事にラスムッセンが気になってしまったらしい。

 

 まあ、確かに我々が半自動小銃を作った時は、自己装填式小銃、反復式小銃、衝撃装填式小銃などと呼称が纏まらず、結局それぞれが好き勝手に呼ぶままになってしまったのだが。

 

「……すまない。言えないんだ、それは」

 

「貴女、さっきから妙に焦れったい言い方をすると思ったら、オルクセンは銃の名前を機密にするってわけ?」

 

「そうだ、その通りだ。きっと五〇年は機密となるから言う事が出来ない。それまでは好き勝手に呼んでくれ。しかし、その名前すらも機密となるから我々以外には漏らさないように」

 

「まったく、酷いわね。まあ、それだけオルクセンが私達の作る銃の価値を重く見てくれていると思う事にするわ」

 

「まさにその通りなんだがな」

 

 まあ、別々に違う銃を開発するのだから名前で揉める事にはならないだろう。

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