オルクセン王国史〜ロザリンドの牙折り〜   作:鶴岡

26 / 46
バンドウ事務所⑫

 私の氏族の者達、あるいはトストルプ銃隊の生き残りの一部がオルクセンで機関銃の開発を始めた一方で、それ以外の者達もまた動いていた。

 

 なんと揃いも揃ってオルクセン軍に志願してしまったのだ。

 

 私が今のところ無任所とはいえオルクセン軍の少佐と成って、銃器開発に携わるハーマセン達も技官として任官されたのを見て、ならばそれ以外の我らもその下で纏まる為にという名目だそうだ。

 

 正直なところ、私がエルフィンドから捨てられてしまった今となっては他の者達が軍役に拘る必要は無いのだし、そう説得もしたのだが、ロザリンドから一二〇年、もはや兵隊しか稼業を知らぬと返されては何も言えず。

 

 だが他方、オルクセン軍としても今の時勢に白エルフ族を何十人と抱える訳には行かず、彼女達のオルクセン軍への志願は却下された。

 

 しかしながら、特別な事情があるとはいえ兵役はオルクセンにおいて国民の権利と義務であり、そして特定の種族への差別へ反対していた我が王の意向により、一つの妥協が生じた。

 

 国民義勇兵白エルフ族部隊である。

 

 総勢二八名、警護班より僅かに二名多いだけの小隊と言えなくもないという規模だが、それは発足した。

 

 本来であればオルクセン軍の退役軍人や兵役経験者からの志願者によって構成される国民義勇兵という制度を、外国軍での退役軍人や兵役経験者であってもオルクセン国民であれば国民義勇兵に志願できるように改正した上でだ。

 

 オルクセン軍で抱える訳にも行かず、しかしオルクセン軍へ奉仕していない者に退役軍人としての格を与える訳にも行かず、それでやむを得ずといった対応となって大変に迷惑を掛けてしまい、私は我が王を始めとして方々へ頭を下げる破目になったのだが。

 

 その結果として私の指揮下に国民義勇兵白エルフ族部隊が加わる事となり、ならば丁度良かったので使う事とした。

 

 警護班の訓練の仮想敵役などをやらせる事にしたのだ。

 

 これまでは指導側の私も含めて人員が限られていたために、第一擲弾兵師団から支援を受けつつ警護班を三つの分隊に分けて動かしていたのだが、これでようやく警護班総勢二六名を纏めて動かす本来の編成での訓練が出来るようになったのだ。

 

 というのも、白エルフ族を想定した仮想敵役などには最低限の条件として魔術通信と魔術探知を扱える事が要求される訳だが、オルクセン軍将兵の内でそれらを扱えるのはコボルト族とエルフ族、それと大鷲族のみ。

 

 だからといって第一擲弾兵師団からコボルト族兵ばかりを連日の訓練のために引き抜くのは憚られたし、あるいは闇エルフ族はアンファウグリア旅団として錬成の途上であるから、こちらからも引き抜くのは好ましくなかった。

 

 そして大鷲族は魔術通信と魔術探知を扱える事以外で白エルフ族との違いが大き過ぎた。

 

 何しろ白エルフ族は空を飛べないし、大鷲族は銃を扱えないのだ。

 

 こういった種族による事情や特性からして、遠慮なく勝手に動かせて白エルフ族と同じ特性を持つ集団というのは大変に都合が良かった。

 

 というより仮想敵である白エルフ族と同じ特性を持つ所ではなく、本物の白エルフ族である。

 

 斯くして、本日からの警護班の訓練は今までにない規模の実戦的なものとなるだろう。

 

 第一擲弾兵師団から借りた体格の良いオーク族を警護対象(我が王)に見立てての、ヴィルトシュヴァイン大演習場の北側兵站駅から南側兵站駅への護送訓練である。

 

 それぞれの兵站駅やバンドウ川に架かる橋といった要所は第一擲弾兵師団の部隊が守備を担当するが、それ以外の道程では警護班二六名と第一擲弾兵師団より抽出した一個歩兵中隊のみで警護対象を守らなければならない。

 

 その場合でも戦力比にして一〇対一と数字の上では圧倒的に優位だが、しかし襲撃側は何時何処で仕掛けるかを選べるため実際の所はかなり差が縮まるのに加え、更に今回はとっておきの要素があるのだが。

 

 まあ、その辺りは後々だな。

 

 一応、警護班は魔術通信などで各所から救援を呼ぶ事は可能であるが、しかしながらオルクセン軍が他国軍のような機動的な騎兵をアンファウグリア旅団以外に持たない為、その望みは大変に薄いものとなる。

 

「ところで、教官。質問があるのですが」

 

「なんだ、どうした?」

 

 その訓練が始まったばかりの途上、まだ北兵站駅が後ろに見えるような道程で警護班班長のリトヴァミア・フェアグリン少尉からの質問が来た。

 

 ちなみに私は警護班に同行する演習裁定官で、フェアグリン少尉と共に前は警護班の班員、後ろは警護対象や弾薬と糧食を乗せた馬車の列に挟まれての徒歩である。

 

「今回の訓練から仮想敵役をやる教官の氏族の方達って、元はエルフィンド軍にいたんですよね。それでロザリンドにも参戦していたって事は、階級だとどの位に?」

 

「おお、良い質問だな。上は私と同じ少佐、下は君と同じ少尉だ」

 

「……ロザリンド世代という時点で覚悟していましたが、将校だけで編成された仮想敵というのは」

 

「まるで黄金樹(マルローリエン)旅団とでも?……実際、敵国の国家元首を暗殺しようという部隊を想定するなら的面だろう」

 

 それこそ言いふらすような事ではないが、秘密警察に所属していた者も居るほどだ。

 

 警護班の訓練相手としては申し分ないだろう。

 

 だから初めてとなる今回はかなりズルに近いヒントを与えたのだが、頭の片隅にでも引っ掛かってくれただろうか?

 

 

 

 「しかしバンドウ川の橋まで到達しても接触は無し。あったのは魔術探知の気配が遠く西から数度のみとは」

 

「なんだ、ぼやいても何も教えないぞ」

 

 昼をやや過ぎて警護班の隊列はバンドウ川の橋まで到達し、橋を守備する第一擲弾兵師団の二個小隊も含めて昼食のため大休止となった。

 

 私もフェアグリン少尉と共に、第一擲弾兵師団の歩兵中隊が保有する炊事馬車からの給食に預かっての昼食となる。

 

「それは、まあそうでしょうが。……前にこの大演習場でやった演習では大鷲族による空中偵察が赤軍の防御陣地を文字通り丸見えにしたそうですが、そういうのを知っていると欲しくなってたまりませんね」

 

「ほう、大鷲族の目か。そんな事があったのか。だが、大鷲族は種族として纏めて大鷲軍団となっている。どれだけ第一擲弾兵師団に要望したとしても叶わんさ」

 

 逆に言えば、第一擲弾兵師団が保有してさえいれば借りる事は出来たのだ。

 

 そしてそれは警護班にも仮想敵役にも等しい条件だった。

 

 まあ、とりあえず大休止の間に不意を突かれる事はないだろうと、日陰にしていた馬車の上を見上げる。

 

 ここまで糧食を運んできたこの馬車は大休止により積荷が空となり、それで出来た空箱を荷台に積み上げて即席の物見櫓としているのだ。

 

 巨躯なオーク族がその上へ登るにはやや不安があるが、しかし身軽なエルフ族でなら十分な強度がある。

 

 それで警護班の内から遠目の効く奴や魔術探知の得意な奴を登らせて周辺監視をしているのだ。

 

 オルクセン軍でも小柄なコボルト族を高さのある梯子の上に登らせたりとで同じ事をやるが、これは目視にせよ魔術探知にせよ、身長だけの高さではおよそ五kmまで、つまり地平線までしか見通せない事による。

 

 つまり、より高所からであればより遠くまで観測できるのだ。

 

 今回の即席物見櫓であれば遠目の効く奴、あるいは双眼鏡でも使わせれば八kmは見通せるだろうし、あるいは魔術探知でも感の良い奴なら同じだけ遠くを察知できるだろう。

 

 しかし、その感の良いフィンドゥリル曹長でさえ何も察知できなかったようで、フェアグリン少尉に向かって首を横に振るばかり。

 

 フィンドゥリル曹長の手にはディネルースが我が王から下賜されたものと同型の、大変に高性能な双眼鏡さえ握られているにも関わらずだ。

 

 やはりこの演習、長丁場になるか。




魔術探知の距離に関しては原作において「おおむね5km」と記述がありましたが、これが人の身長から水平線までの見通し距離に近しい距離であるため、この観点からより高所からならば更に遠くまで探知できるのではと勝手に捏造しています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。