オルクセン王国史〜ロザリンドの牙折り〜   作:鶴岡

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バンドウ事務所⑯

「なあ、ホルステナ。この戦術は、元々はお前をシュヴェーリンの下へ送り込むためのものだな?」

 

「流石、ご明察だな」

 

 あの乱戦の終結からしばらくして夜が完全に明けて、南兵站駅からの増援が到着した今は死傷者判定となった者の収容と朝食の準備が並行して行われている。

 

 警護班は損耗の小さい第一分隊と第三分隊で我が王役の警護を継続しているが、第二分隊は乱戦の前からして三名の戦死判定を出していたのを、乱戦により全員が死傷者判定となってしまった。

 

 幸いにして警護班班長のフェアグリン少尉は軽傷で済んだため指揮を継続して、そして我が王役への朝食を準備しているのだが。

 

 なにせ我が王と同じく警護対象も大飯喰らいのオーク族である。

 

 鍛えさせているとはいえ徹夜での戦闘を抜けた後に抱えきれない量を運ぶのは難しく、それを見かねて一名のエルフ族が手伝いを申し出た。

 

 そのエルフ族は確かに警護班の被服で身を包み、警護班の所属である事を示す徽章も正しく着装され、そして肌色も闇エルフ族の特徴である暗色だった。

 

 だが、その化粧は被服の襟で擦れたらしい首周りで少しばかり落ちてしまったのか、僅かに元の白色が見えていた。

 

 それか、あるいは単純に知らない顔と声に気付けば良かったのだが。

 

 ずいぶん大胆なものだなと、ディネルースが唖然として私を見る。

 

「随分な()()だな。これは……」

 

 今もなお演習の最中であり、そしてフェアグリン少尉や他の警護班員が気付いていない為に手元の飯盒の中身に準えるが、まあ私も前にエルフィンドでやった演習で同じような光景を見ていなければ驚いていただろう。

 

 唖然としたままのディネルースの顔をつまみにしながら、それと同じ粥を匙で飯盒から口へと運ぶ。

 

 その粥というのも、オルクセン軍で先王の頃に考案されたという麦と豆を煮込んで塩と酢で味付けされたものに、今では改善された食糧事情からバターとヴルストが足されたものだ。

 

 さらに付け合わせとしてジャガイモとベーコンとキャベツのスープ、そして茹で卵にコーヒーとミルクまでもが付く。

 

 それらがどれもこれもオーク族の胃袋にしっかり足るよう大量にだ。

 

 これが砲声を聞いて急遽派遣された南兵站駅からの増援部隊による配食で、更に驚くべきは我が王役に留まらず、将校どころか下も下の二等兵にまで行き渡らせるというのだから、やはりオルクセン軍の食糧事情は大変に優れていると評する他ない。

 

 そして量だけでなく味も美味いとなれば、もう文句など兵からは出るまい。

 

「空腹は最高のスパイスとは良く言うだろう」

 

「……全くだ。二六名編成では不足だったろうか?」

 

「いや、それはただ周りに頼る事を覚えれば良い。夜間の半分でも擲弾兵中隊の中隊長に指揮を譲っていれば良かったのだろうが」

 

「どれだけ鍛えたところで疲労には勝てんか」

 

「後は、オルクセン軍の将校教育というものを信用して良かったな。元エルフィンド軍の少尉とオルクセン軍の大尉では能力に大きな差があった」

 

 フーチェル大尉は言われずとも優良な予備隊として一個小隊を手元に残し、壕を掘らせた後は大胆にも騎兵突撃までしっかりと寝させていたのだ。

 

 そうした彼らが居なければあの肉弾戦で蹂躙されていただろう。

 

「それにしてもこの茹で卵の大きいこと。オルクセンは鶏に与える餌すら優れているらしい」

 

 そのエルフィンドのものより大きな茹で卵の向こうに見えるのは、あの警護班員に化けた白エルフ族にして元エルフィンド秘密警察のウルナ・レーヴェンショルドが腰に釣るしているホルスターだ。

 

「……なるほど、よくよく見れば目立つ差異もあるのだな」

 

 そのホルスターはオルクセン軍制式のM/七四や、あるいは警護班で調達を進めているエルフィンド軍制式のイリーリボルバーのものよりも遥かに巨大だった。

 

 そして当然ながらホルスターに収まる拳銃も巨大なもので、口径にして実に一四・七mm。

 

 エルフィンド軍やキャメロット軍が一つ前に制式として使っていたスナイダー小銃と同じ口径の弾を使うのだ。

 

 その由来といえば、キャメロットがその植民地を治めるのに、麻薬で痛覚を麻痺させた現地の反乱勢力を鎮圧させる為に大威力を求めて製作されたもので、名はプライド(Pryde)リボルバー。中折式で五連発。

 

 あいつはその威力ならオーク族でも一発で倒せるからと私費で買っていたのだ。

 

 それ以来、腰に吊るされた大口径リボルバーはあいつのトレードマークで、以前に私は秘密警察に所属する者がそんな目立つ代物を身に付けていてどうするのだと問い掛けた事があった。

 

 それに対するあいつの返答と言ったら。

 

『例えこれが目に入ったとしても、不審に思われなければ問題なんて何も無いんですよ』

 

 今、正にその通りとなっているのだから舌を巻くしかあるまい。

 

 そしてフェアグリン少尉とレーヴェンショルドが我が王役のオーク族へ朝食を手渡す、両者がお互いの手先に気を向ける事となるタイミングだった。

 

 大胆にも警護責任者に同伴して警護対象の目の前に立ったあいつは、まずはレーヴェンショルドがあの粥の収まった飯盒を我が王役へ手渡して、次にフェアグリン少尉がスープの収まった小鍋のようなスープカップを我が王役へ手渡そうとしたタイミングで、そこでホルスターから銃を抜いた。

 

 まだレーヴェンショルドの左手は茹で卵がたっぷりと入った籠を持っていて、それがちょうど目隠しにもなっていた。

 

 あの大口径リボルバーがゆっくりと空へ向けられて。

 

 どかん。

 

 あの、やたらと煩い特徴的な銃声が鳴り響いた。

 

 辺りが静まり、全ての視線があいつに集まる。

 

「警護対象の死亡判定により、状況終了!」

 

 まあ、初めての大規模警護演習なのだからこんなものだろう。

 

 この時の私は呑気にもそう思っていたのだが、まあ、なんだ。

 

 これがあの戦争の前に警護班が実施出来た唯一の大規模警護演習となってしまい、私は随分と歯噛みしたものだ。




元ネタ解説(ネタバレ無し)

プライド(Pryde)リボルバー
 元ネタはイギリスで製作されたBland-Pryse Stopping Revolver。
 .577インチ(≒14.7mm)という大口径を誇るリボルバー拳銃。
 作中での綴りをPrydeとしたのはForgotten Weaponsが本銃を紹介するページでこのタイプミスをしているため。
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