オルクセン王国史〜ロザリンドの牙折り〜   作:鶴岡

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枝攫い⑤

「それで、君達はどうする?どうしたい?」

 

 結局のところ、重要なのはそこなのだ。

 

 代表らしい星歴八五八年生まれの彼女でさえ年齢にして僅か二〇歳。エルフ族としては若枝も良い所だが人間族であれば成人を迎える年でもある。

 

 他の面々も、最も若い者で一五の辺りだろうか。

 

 つまるところ、護り導くべきではあるが、それ以上は許されない。

 

「えっと、え?……どうしたい、というのは?」

 

「文字通りさ。オルクセンは個々の自由と意志を抑圧して何かを強いるという事はしない。という事だ」

 

 とはいえ、若枝に自由を与えたとて持て余すのは明らか故に選択肢は示そう。

 

「ひとまず我々が君達に提示できる選択肢としては三つある。まず一つは本来の目的地であったキャメロットへの渡航。これは渡航手段に加えてキャメロットでの就職先の斡旋も手配しよう。ああ、もちろんキャメロット駐箚エルフィンド公使に頼んで、エルフィンドによる就職斡旋という手もあるだろう」

 

 元々のエルフィンドによる斡旋での就労ではいったいどのような職に就かせられるか恐ろしいが、しかしキャメロットとはオルクセンの方が国交が深く、まら私とて一時は徒党を連れてキャメロットに身を寄せていた縁で紹介できる伝手は少なからずある。

 

「あるいは君達の母国であるエルフィンドへの帰国。これは生憎、オルクセンがエルフィンドとの戦争中であるため政府間の交渉次第では中々帰国できないという事も考えられるが、遅くとも戦後には保証されるだろう。もちろん、その時まではオルクセンが君達の生活を保障する」

 

 そもそもとして我が王が戦後にエルフィンドという国を残すのかという点で疑問はあるが、まあ、旧エルフィンド領への帰郷くらいは可能だろう。

 

「そして最後に、ここオルクセンを住処とする事もできる。キャメロットへ向かうのと同様に就労の支援が行われるのはもちろん、希望するのであれば国費による就学さえも可能だ」

 

 当然ながら、これが私としての、そしてオルクセンとしても本命となるのだが。

 

 元々の出荷先か、帰国か、あるいはオルクセンへの亡命。

 

 オルクセンにおいてそれらは、例え何れかの選択肢において暗い未来が予期されていようとも、決して強要によって選択されるべきではないのだ。

 

 本来であればエルフィンドでもそれは同様なはずだったのだが。

 

 ともかくとして。

 

「どれを選ぶとしても、あるいはこれら以外の選択肢を希望するとしても、オルクセンは君達の意志を尊重し、それを叶えるまでは支援を欠かさない。それは保証しよう」

 

 あるいは、叶えた後であっても必要であれば支援の手は伸ばされるだろう。

 

 なにしろ悪逆非道なるエルフィンドの民、白エルフ族だ。

 

 戦後にいったいどれだけの困難が立ちはだかっているのか、それはオルクセンを住処としても予期し難い事には変わりない。

 

「これは君達に今すぐの決断を強いるものではない。一月でも一年でも、あるいはもっと時間を掛けて考えてもらって構わない。それまでの生活も保証される」

 

 その間はひとまずヴァルターベルクで面倒を見る事になるのだろう。

 

 ともかくとして、以上で彼女達への説明を終えたのだが。

 

 彼女達の瞳に浮かぶのは困惑と不快感。

 

「あの、一つ。いえ、すみません。幾つか質問をしてもよろしいでしょうか?」

 

「もちろん。あるいは今日でなくとも、何時でも幾つでも質問は受けよう」

 

 てっきり私は提示した選択肢に関する質問が来ると思っていたのだが、しかしそれは思い違いであって、それどころか酷い失敗とさえ言えた。

 

「ではまず一つ。……フルーベル様はエルフィンドがお嫌いですか?」

 

 努めて、努めて表情には出さないようにはしていたつもりだったのだが。

 

 いや、言葉通りか。

 

「フルーベル様は、あたかもエルフィンドが ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()かのように仰っておりました。これは私の思い違いでしょうか?」

 

 そのように受け取られて然るべき物言いだったと認めざるをえないだろう。

 

 そして、刷り込みで育った若枝だと侮っていたのだ。

 

 だが、希望は見えた。

 

 彼女は聡い。

 

「……そうだな。私は、エルフィンドは好きさ。ただ、エルフィンドの今の政府がとても嫌いでね」

 

「その理由をお尋ねしても?」

 

「構わないとも。一年ばかり前の話になる。当時の私はエルフィンドの軍に奉職していて、その役職の一つとして法律を扱っていてな、裁判で反逆を疑われた政府高官の無罪を証明した。……しかし数日後、そいつは暗殺された。殺されたんだ」

 

 この時ほどエルフィンド政府、より正確には教義派の連中を恨んだ事はあるまい。

 

 とはいえ、彼女達に今のエルフィンドの異常性を認識させるなら、その要点はここではない。

 

「それは、ええと。その者はエルフィンドの政府の者に殺されたのですか?」

 

「そればかりはさっぱり。ただ、その政府高官は闇エルフ族でね」

 

「……え?」

 

 自分がオルクセンに来て初めて見た闇エルフ族という種族が、一年前にはエルフィンド政府で要職を務めていて、そして反逆を疑われた末に暗殺された。

 

 エルフィンドでの刷り込みを疑う取っ掛かりとしては十分だろう。

 

「さて、我々は決断を強いる事はしないが、ただ、ここはオルクセン海軍の基地でな、生活の場としては双方にとってやや不適切だ。そこで私としては仮住まいを移す事を提案したい。オルクセンの首都ヴィルトシュヴァイン郊外にあるヴァルダーベルクという名の、闇エルフ族と白エルフ族の街なんだが、どうかな?」

 

「……一日、考えさせて下さい」

 

「ありがとう。ただ、そこまで焦らなくて良い。ここのコックが君達の為に些か張り切っていてね。それくらいは堪能してほしいな」

 

 それから数日、彼女達からの質問に答えたり、本が読みたいと求められればキャメロット語の本を探しネーベンシュトラント軍港司令に頼んで蔵書を借り受け、()の知識を求める彼女達に応え続けた。

 

 そして。

 

「フルーベル様、その、ここまで考えさせて頂き大変申し訳ないのですが、未だ答を見つけられないのです。……なので、まだしばらく保留とさせて頂き、その間はヴァルダーベルクでお世話になってもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、もちろんだとも」

 

 ようこそ、オルクセンへ。

 

「さてもさても、白銀樹はすぐには伸びぬことかな」

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