オルクセン王国史〜ロザリンドの牙折り〜   作:鶴岡

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銀の弾丸③

 はてさて、正しく我々の元へ届いた資材を改めて見れば、やはりと言うべきか発注していない資材も存在していた。

 

 例えば物の嵩で大部分となる鋼材はエルフィンドや星欧各国で用いられるような普通鋼で良いと指定していたにも関わらずモリム鋼が届き、まあこれはシュレーゲルミルヒ少佐から安い鋼材がここに届くような事は無いとまで言われていたので覚悟はしていたのだが、困った事にそれで留まらなかったのだ。

 

 例えば砲身や銃身の類。

 

 試作でしばらくの間は弾道性能を求めないため工業試験場で内製できる程度の品質で足りるからと発注していなかったにも関わらずだ。

 

 一応ながら銃身に限れば僅かな反りや傷といった些細な瑕疵により検品から弾かれたものが全てではあったが、しかし砲身に限っては全てが正品を示す刻印に検査証まで付いた合格品が収められていた。

 

「シュレーゲルミルヒ少佐。もしです。もし仮にこれらの発注していない資材をヴィッセルへ返品したならば、どうなるでしょうか?」

 

「まあ、そうですね。今度は一ヶ月ほど気絶する事になるかと」

 

「……。まったく、あの耄碌爺には鉄と白エルフ族の見分けが付かんのか」

 

「ええ、フルーベル少佐に限っては無理でしょうね」

 

()()でさえもか?」

 

 察するに、開戦日未明のベラファラス湾海戦でエルフィンド海軍艦艇の殆どを沈める事が出来たから、海軍向けに備蓄していた物資が浮いたのだろうが。

 

 その果てが最後に残った貨車の積荷、というか貨車そのものである。

 

 ヴィッセル社で所有していた屋根無しの貨車に基部を固定されてゴム引布で覆われただけの、傍から見るだけで容易に中身が知れる有様。

 

 そのせいで居合わせたオルクセン国有鉄道社の保線工やヴィッセル社雇いの荷役などからは、()()()()()に渡すのかと視線を数多集める始末。

 

 こんな酷い押し売りが罷り通ってたまるかと腹立たしいが、しかしこの苛立ちをぶつけるあてもなく。

 

 やれの一言でトストルプ銃隊に覆いを取り払わせれば。

 

「ええと、海軍の三七mm砲と四七mm砲ですね」

 

「シュレーゲルミルヒ少佐。これも、返品はできないのか?」

 

「ええ。しかし、必要でしょう?」

 

「何に?」

 

 いや、確かに新しいモノを作ったならば古いモノとの比較評価は必要となるだろうが、それが必要なのは今でもないし、それこそ戦後に我々ではなく兵器技術局が行えば良いのだ。

 

 しかし仕方あるまいと、もう届いてしまった以上は我々で管理する他なく諦めのため息を零す。

 

 だが、砲を固定した貨車まるごと送り付けられたせいで問題を発生させている事に気付いたのはすぐのことだった。

 

 この北兵站駅を使うのが我々工業試験場だけであったならば、この貨車をプラットフォームに留置しても誰の文句も無かったのだろうし、きっとあの耄碌爺もそう考えていたのだろうが。

 

「なあ、砲を貨車に載せたままここで保管して良いものだろうか?」

 

「はい?……ああ、降ろせないのか。起重機は国鉄が持ち込んだのを借りるとしても、降ろす先の砲床が無い」

 

「いや、それよりも。これは貨車ごとの納品になっているだろう。この貨車をどうにかしないとプラットフォームを塞いだままにしてしまう」

 

 きっとレギン会長はここに砲床の準備が無い事を察した上で貨車ごと受領できるように配慮したのだろうが、それが現状にそぐわなかった。

 

 周りを見渡せば、砲を白エルフ族の持ち物とする事を危惧している者達が多く目に付くのは当然として、しかし荷役の者達の中には次便の入線に支障を来たさないか、線路の先を気にする者も増えていたのだ。

 

 だが、工業試験場では引込線を持っていないから貨車を留置する場所がない。

 

「どこか、空いている引込線はないものか?」

 

 それでこの兵站駅で駅掌を担っている第一擲弾兵師団からのコボルト族輜重兵に問い掛けたところ。

 

「ええ、あの貨車一両でありますね。引込線……そうですね、突込線であれば空いているでありますが」

 

「その、突込線とは?」

 

「はい。突込線と言いますのは、信号を見落としたりブレーキが故障した列車を分岐させた先で意図的に脱線させるための側線であります」

 

 なんとも、まあなんとも、自分がその列車の乗客とならない事を切に願う他無い代物の存在を知ってしまい顰め面を浮かべてしまう。

 

「それはまた、なんでそんな物騒なものがここに?」

 

「なにしろ、ここは演習場の駅でありますから。弾薬を載せて来た列車がプラットフォームへ冒進して衝突事故を起こしてしまえば、積荷の弾薬を巻き込んで爆発するといった大惨事さえ考えられます。よって、その手前の突込線へ分岐させて脱線させて被害を極限するのであります。とまれ、そうでなくとも大抵の駅や、勾配やカーブの大きな区間でも設置される事の多い設備ではあります」

 

「なるほど。では、その突込線にあの貨車を留置した場合にはどのような問題が?」

 

「それは当然ながら、安全側線が本来の機能を果たした時に、あの貨車へ衝突して巻き添えとなる事になります」

 

 ただ、事情を聞いてみれば納得の仕組みではあったし、リスクに関しても許容できるものだった。

 

「シュレーゲルミルヒ少佐、砲床を設えるまでは、良いのではないでしょうか?」

 

「そうですね。その突込線にあの貨車を入れてくれ」

 

 これでどうにか発注した資材の、あるいは発注していないにも関わらず届いた資材の受領を終えられたのだが。

 

 その資材と共にまたしても新しい仕事が舞い込んでいたらしい。

 

「姉御!試射用の弾薬の中に変なのが混ざってました!」

 

 もちろん、その試射用の弾薬に至っては発注した五倍もの数量が届いていて閉口していたのだが、マドセンからの呼び掛けにまだ問題があったのかとこめかみを擦りつつ見に行けば、それは確かに変な弾薬だった。

 

 試験用とスタンプの捺された弾薬箱に収まっていたのはオルクセン軍制式の一一mm小銃弾。

 

 弾頭に空気抵抗を抑えた先鋭形状を持つ特徴的なそれだったが、しかし見た目からして大きく異なる特徴があった。

 

 鈍い金属光沢のある灰色、あるいは濡れた鼠のような。

 

 弾頭と薬莢の両方、あるいはどちらか片方がその色の弾薬だったのだ。

 

「これは、鉄ですか?」

 

 ラスムッセンが気付いた通りだろう。

 

 つまり、以前に我が王から聞いた鉛や銅を使わない弾だ。

 

 なるほど、量が多いのは対照実験を我々にやらせる為かと納得して、しかし事情を知らない皆は違う事を思ったらしい。

 

「鉄の薬莢はともかく、鉄の弾頭なんか撃ったらライフリングを酷く痛めてしまいますよね?」

 

「ええ、オルクセンの銅備蓄はそんなに逼迫しているのかしら?」

 

 ただ我が王が鉛や銅を嫌っていると言う前提を知らなければ、かつての私と同じその感想を抱くのも仕方あるまい。

 

 同封の手紙によれば、首都近郊ながらも広大なヴィルトシュヴァイン大演習場で弾道試験をやって欲しいとの事。

 

 その理由もヴィッセル社が有する射場は戦時増産している兵器の検査試射でスケジュールが埋まっているか、資材置き場として物理的に埋まっており、この新しい弾の試験を行う余裕が無いかららしい。

 

 それだけであれば次に回すべきは軍の兵器技術部であるはずの仕事であったが、しかし戦時で多忙だろうからと我々の工業試験場に依頼する事にしたようだ。

 

「そうではない。私が言えるのはその程度だが、ライフリングへの懸念は大して心配せずとも良い。なにせヴィッセル社製だぞ?」

 

 それも、弾薬箱に捺された検査済のスタンプに記された署名は手紙の送り主と同じくヴィーリ・レギンのものである。

 

 会長のする仕事では無いだろうと思いつつ一発を手に取り、ペンチで弾頭を噛ませ薬莢から捥ぎ取ってみれば、形状が先鋭船尾なのは通常の一一mm弾と変わらず。

 

 しかし、ペンチの噛んだ痕が弾頭にしっかりと深く残っていた。

 

「驚いた。軟らかい鉄を作るとは聞いていたが、こんなに軟らかいのか」

 

 手紙によれば精錬により炭素など不純物を減らした低炭素鋼という柔らかい鉄を、さらに重ねて精錬して得られる純鉄と言うべきもの。その無垢材を弾頭の形状に加工したとある。

 

「これならライフリングへの負荷は抑えられるだろう」

 

「さすがドワーフ族ですね」

 

 ともあれ、これは四肢いずれかに支障のある工員ばかりな工業試験場の仕事というよりは、トストルプ銃隊に割り当てる仕事だろう。

 

 まったく、一度訪れただけの場所についてそこまで目星を付けて見繕えるのに、あの耄碌爺はどうして鉄と私の見分けが付かないのやら。

 

 この手紙だってそうだ。

 

「どう耄碌したら宛名に()()なんて書くようになるのやら……」

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