オルクセン王国史〜ロザリンドの牙折り〜   作:鶴岡

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銀の弾丸⑥

 一二月に入り、キャメロットの新聞で知っている名前を見つけた。

 

 セレスディス・カランウェン。

 

 階級は二等少将。

 

 ディネルースが陸軍大学校でその素質を見出し、その勧めで私の講義にも来ていたから大いに鍛えてやった奴だ。

 

 エルフィンドの新聞が報じた内容をキャメロット語に翻訳して伝えるその内容によれば、アルトリア包囲戦の前哨戦で支隊を一つ率いてオルクセン軍を二度も撃退したらしい。

 

 これをオルクセン側で伝えられた内容と突き合わせれば、その相手は第八軍団の第二一擲弾兵師団だろう。

 

 六三〇名余りを殺傷していた。

 

 オルクセン紙の報道ではエルフィンド軍へそれ以上の損害を与えてアルトリア要塞への前進を達成したとしているが。

 

 そのアルトリア要塞でアルカトレ軍を率いているのはあのダリエンド・マルリアン大将。

 

 ロザリンドでは私の上官だった奴だ。

 

 あれから一二〇年を経てもなお幼子に見えるほどちんちくりんな見た目だが、策を巡らせたら右に出る者はいまいと、次こそはあれに嗾けられて私はシュヴェーリンへと突っ込むのだと思っていた。

 

「まあ、シュヴェーリンなら負けんだろうが」

 

 それでまた、教え子が白銀樹へ還ってしまうのかもしれない。

 

「どうして、私はこんな所にいるのだろうな」

 

 ヴィルトシュヴァイン大演習場の、あの弾薬保管庫にほど近い場所を区切って設けている射場をなんとなしに眺めて、一〇〇mほど先に突き立てられた枕木に視線を止めて。

 

 よく晴れた冬の青空の下、その枕木が墓標に見えた。

 

「姉御!射撃準備完了っす!」

 

 呼びかけに振り向いてマドセンの方を見れば、その隣には軽機関銃。

 

 その試作第一号があった。

 

 半自動小銃では銃身の下に設けた管を弾倉として五発の弾薬を収めていたのを、機関部の上へと伸ばした箱型の弾倉に改めたもの。

 

 その弾倉はグラックストンのものと似ていて、まあ実際にヴィッセル社から取り寄せたグラックストン用弾倉の図面に倣って製作したものだ。

 

 しかし携行し易さを鑑みて長さを短縮したため装弾数は最大で二〇発に留まっている。

 

 その軽機関銃が枕木を組んだ台座に固縛されて、引金に結わえられた紐を拉縄としてもう一端がラスムッセンの手に握られている。

 

 私が他の仕事にかまけて機関砲開発を疎かにしていた間に、あの二人は軽機関銃を完成させていたのだ。

 

 そのせいで私の相方のエルミアは酷く御立腹である。

 

「……よろしい。目標、前方一〇〇m、模擬標的。()()()()、一発、……撃て!」

 

 その号令でラスムッセンが紐を引いた。

 

 パン

 

 ただ穏当に一発が銃口から飛び出て、枕木を掠めて飛んでいった。

 

 こんなたった一発だけを撃つのに自動も何も無いのだが、機能の確認とはそういうもの。

 

 なにしろ半自動小銃を元にしたとはいえそれなりに変更箇所のある試作の銃であり、どこに欠陥があるのかも不確かなのだ。

 

 それこそ、たった一発で部品が破損したなんて今まで幾度もあった。

 

 ただ、今回はそうではなかったらしい。

 

「姉御!破損無し!次、行けます!」

 

「よろしい。目標変わらず。自動射撃、二発、……撃て!」

 

 パパン

 

 そしておそらくはこれが、記録に残る中では初の自動射撃になるのだろうか。

 

 とはいえ実際には半自動小銃を開発している時にも、このような射撃は稀ながら発生してはいた。

 

 それこそ部品の摩耗や破損による、いわゆる暴発としてだったが。

 

 だから、どうやったらこのような連続した射撃を意図的に為せるのかは既に知っていたから、我々にとっては特に感慨を抱くような光景ではなかった。

 

 しかし、彼にとってはそうではなく。

 

「……おお、本当に、こんな銃が」

 

 慄くばかりの彼、オルクセン軍の兵器技術局で小銃開発に携わってきたシュレーゲルミルヒ少佐からすれば、銃とは一発を撃つ毎に手指の操作を要するというのが常識だったのだ。

 

 それが目の前で崩された。

 

 彼とて工業試験場の場長として図面や製作過程には目を通していたし、我々としても信用を損ねないよう全て開示してはいたのだが、現物に勝るモノは無いというのが世の常か。

 

 もっとも、我々の側に感慨が乏しいのは先が見えていたからというのもあるのだが。

 

「それでは。目標変わらず。自動射撃、三発、……撃て!」

 

 パパン

 

 やはり、同じか。

 

「マドセン!ラスムッセン!……何発だった?」

 

「はい!撃てたのは二発だけです!」

 

 なにしろ半自動小銃でこのような現象が起きた時も、弾倉の中にどれだけ弾が残っていようが暴発は二発目で止まっていたのだ。

 

「それで、どっちだ?銃か、弾薬か」

 

 不発となってしまった原因を求めて、ラスムッセンがまず弾薬が収まっていた弾倉を取外してみれば。

 

「あった。やっぱりです」

 

 その弾倉に弾薬が一発残っていた。

 

 弾薬の不発ではなく、ただ銃の給弾機構が弾倉から弾薬を取り出せなかったのだ。

 

 念の為にマドセンとラスムッセンの二人が軽機関銃や弾倉を分解して調べていくが、しかしどこにも破損などは無く。

 

 それで再度の射撃をやらせてみても結果は同じで、三発目は弾倉に残ったまま。

 

「やはり、弾倉の弾薬の繰り出しが遅く、銃の給弾動作に間に合っていないのだな」

 

「半自動小銃ではそれで暴発を止めてくれたから都合が良かったですが、しかし意図的に暴発させているようなこの銃では不都合になって」

 

「ま、対策としては弾倉の中にバネを仕込めば良い訳ですから、次からはコレで試射していきます」

 

 原因まで分かりきっている問題が予期されているならば、その対策も既にあるという事だ。

 

 マドセンが懐から取り出したもう一つの弾倉がそれだ。

 

 とはいえ、バネを仕込んだ為に容積を減らしてしまい、装弾数はさらに減って一五発となってしまったし、更に別の問題も予期されていた。

 

「では、試射再開といこう。目標変わらず。自動射撃、三発、……撃て!」

 

 パパパン

 

 

 

 そうやって試射を繰り返した結果として、今度は弾倉の中に一〇発以上を込めると一発目から撃てないという問題が発生した。

 

「やっぱり、実弾でも駄目かあ……」

 

 というのも、これは前日に模擬弾を使っての動作確認をした時に発覚していた問題だった。

 

 どうやら弾倉の中に仕込んだバネの縮めた分だけ強くなった反発力が、あろう事か銃の給弾機構の動作力より上回っているようなのだ。

 

「まあ、一つ目の試作としては上出来だろうさ。それに、もうそろそろだろう」

 

「……そうですね。ずいぶんと鉛が銃身にこびり付いてます」

 

 なにしろ既に一〇〇発以上を撃っていたからな。

 

 こればかりは火薬の燃え滓と違って風系刻印式魔術で防ぐ事の叶わない問題だった。

 

 もっとも、灯油とブラシを用いて削ぎ落せば解消できる問題ではあるし、あらゆる銃に共通する問題でもあるから、軽機関銃だけに限った問題でなないのだが。

 

 ある程度の弾数を撃ったら必然に生じる問題というのは、短時間に多くの弾数を撃てる銃にとっては酷く面倒だ。

 

 なにしろ結局は一度の戦闘で撃てる弾数が普通の銃と変わらないとなってしまう。

 

 グラックストンならば複数の銃身で代わる代わるの射撃をするため、銃身の数だけ撃てる弾数も増えるのだが。

 

 しかし求めたのは軽い機関銃である。

 

「まったく、鉛はどうしても我々を苦しめるらしいな」

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