どたどたと、あの
懐かしい、一二〇年も待ち焦がれた、ロザリンドで聞かされたあの忌々しくも恋焦がれたシュヴェーリンの足音だ。
「あの悪党、官邸の中は走るなといつもいつも言っているのに。それもこの前の演習で会ったばかりだろう」
「今回に限っては、会って帰ったばかりなのを急にまた呼び出したからでは?」
お歴々の話から察するに、どうやら毎度の如くこうらしい。
そしてなんとオーク王自ら席を立って応接室のドアの前に立ち、なんとなんとオーク王自らにドアを開けて出迎えときた!
ドアを開けてしまえば官邸の廊下に響く足音はまるで砲兵隊の斉射のように騒々しく、しかもそれはこの応接室の前に来てさえ僅かも勢いを弱める事なく、そのままの勢いにオーク王と抱擁を果たした。
「シュヴェーリン!よく来たなこの悪党、我が牙!」
「ふふふふ!そんなまた自ら出迎えて、そんな事をしているとまた転びますぞ!我が王、このシュヴェーリン、ただいま到着致しました!」
まさに
しかし、王に敬意を払われる将という関係を怪訝に思ったところでふと気付く。
そういえば、今のオーク王であるところのグスタフ・ファルケンハインはロザリンドの頃はまだ一兵卒。しかしシュヴェーリンは当時からして一軍を率いていた将であったか。
なるほど、エルフィンドにおいて女王は黄金樹の生まれによる、国籍に例えた言い方をすれば出生
そしてこのオーク王程の比類なき魔術力の高さがあれば、それこそ当人の経歴や魔術力以外の如何なる資質も関係無しに周囲は国王へと担ぎ上げようとし、それに反感を覚える派閥の一つや二つでも存在すれば、たちまちに国は荒れ果てただろう。
まこと、オルクセンは王にも将にも恵まれたらしい。
エルフィンドなど奸臣が女王を囲って好き放題、もはやオルクセンが攻め込まずとも半世紀もしない内に滅ぶのが目に見えているというのに。
しかしまあ、うん。オルクセンでは珍しいはずの白エルフが同じ部屋に居て、それも座っているとはいえ自身と並ぶほどの長躯で、それは一二〇年前に牙を折った張本人だというのに……。
「この悪党め!あんなに面白い話を、この私に隠し事をしていたなんて!」
「はて、私が、我が王に隠し事?そんなまさか、一体何の事です?」
どうやら
事に気付いたディネルースなど大層愉快そうに笑いを堪えているが、ああ愉快だろうさ。
「まだとぼけるか。今日は伝説のもう一人だっているんだぞ。なあ」
オーク王に促され、まあこれはおいたをする許しを得たと解釈して良いのだろう。席を立ってシュヴェーリンへと歩みを進める。
「あっ」
ようやく気付いたのか驚愕に目を見開き、呆れるほどに大きなオーク族の口を更に大きく広げて硬直しているシュヴェーリンの目の前で立ち止まる。
「やあやあやあ、シュヴェーリン上級大将閣下、久しぶりだな。……どうした?そんなにずっと口を大きく広げていては頬の傷が開いてしまうぞ?」
ああ、私は笑えているだろうか。
それとも、一二〇年前のような見るに堪えない泣き面を晒しているのだろうか。
「なあ、我が仇讐の牙よ。一二〇年前の、ロザリンドの約束を果たしに来てやったぞ」
旅装の胸元から、常日頃から肌身離さず白銀樹の護符と共に吊るしているあの牙を取り出して見せつけてやる。
「ほら、どうだ?一二〇年前に圧し折ってやった貴様の牙と感動の再会だ。ちょっとは喜んでくれると嬉しいんだが」
「ァお……」
お?どうやら復活したようだな?と思ったら腰を抜かしたのかどさっっと床に座り込んでしまい、震えながらに右腕を持ち上げ、これまた震えているその太い指で私を指して。
「ホルステナ!?ホルステナ・フルーベルか!?おお、おまえ!どうしてここに!?」
「ああ、ちょっとばかしエルフィンドでやらかして、国を追われてしまってね。これでは来たる戦争で貴様との約束を果たせそうにないから、その前に直接会いに来てやったのさ」
「お、おまえ……。今のエルフィンドで国を追われるほどのやらかしって言ったら……。いや約束?……あっ」
どうやらあれだけの説明で全て思い出して、ついでに理解もしてくれたらしい。
やはり良い将にして良い牡だ。殺すには惜しいから、やはり死ぬなら私であるべきだろう。
「まあ、細かい話などお互い死んで生まれ変わった後でも良いだろう。ロザリンドで交わした約束の通り、やり直しの決闘をしようじゃないか。ああそれとオーク王、頼みがあるんだが、この近場で決闘場はあるか?窓から見えるあの広場でも、それこそこの官邸の前庭でも貸してくれれば良いんだが」
「え?えっと、闘技場ならこの官邸のあるヴィルトシュヴァイン中央区にもある、……いや待ってくれ!決闘だと!?それは駄目だ!絶対に駄目だ!」
「おや?どうして?」
ディネルースから伝説を聞いていたんじゃなかったのか?
……ああ、そういえば入国理由は観光にしていたんだった。
決闘では物騒だと入国拒否されては叶わないと思って虚偽申告していたのを忘れていた。