オルクセン王国史〜ロザリンドの牙折り〜   作:鶴岡

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ロザリンドの牙折り⑦

「どうしても何も、このタイミングにオルクセン国内で白エルフがオークに害されたなど、エルフィンドにどれだけ付け込まれる事か!絶対にだめだ!」

 

 なんだそんな事、白エルフが一人死んだ事くらい隠蔽すれば良い話だろうに。いやそれとも。

 

「ならば私が勝てば良いのだな?任せてほしい。前回は私が勝っている」

 

 負けようが勝とうが、どちらにせよ決闘の傷なりが元で私が死ねば一二〇年前に果たせなかった願いは叶うのだ。

 

「なに、二度目は無いぞ。おまえのあれ、まあ何というんだ。オスタリッチの時計職人が作ったような奴だろう。もはや知らなかったあの時の儂ではないぞ」

 

 ああ、ジラルドーニか。デュートネ戦争の頃にオスタリッチが一〇〇〇丁だか二〇〇〇丁だか作った連発式空気銃。エルフィンドには無い工業力を羨んだものだ。

 

「シュヴェーリンも煽るのを止さんか!どっちが勝っても良くないのだ!」

 

「なんだ、オーク王は我がままな王だな」

 

「そうですぞ我が王。どうかそれは命じてくれないで欲しい。次に会った時に決闘をやり直そうというのは、ロザリンドで儂がホルステナとの決闘の末に決めた契約ゆえ、それを反故にする事は許されぬのです」

 

 こればかりはオルクセンが未だ決闘を重視する価値観を残す国で良かった。

 

 というよりも、オルクセンのみならず星欧諸国において決闘とはそれほどまでに、時には王の意向よりも重いのだ。

 

「だからといって、そもそもとして今のオルクセンはオルクセン軍人がオルクセン軍人以外と行う決闘を法で禁じている。先王の頃とは時代が違うのだ!」

 

 おお、確かその法はロザリンドから間もなく、グスタフ・ファルケンハインがオルクセン国王になって数年後に制定された法であったな。

 

 その切欠は酒場でオーク王を侮辱した市民を、そこに居合わせたオルクセン軍将校が王の名誉の為に決闘を要求し、市民の謝罪や決闘の拒絶に関わらず決闘を強行して将校が市民を殺害したというシャーデ決闘事件だったか。

 

 たしかこの罪を犯した場合、その刑は確か、そう。―――相手側の承諾の有無など一切の例外なく、また決闘を要求したのが軍人か否かにも関わらず、軍人に対しては銃殺刑。未遂であってもかなり厳しい罰則が規定されていたはずだ。

 

 また同時に不敬罪の適用条件がかなり緩和され、例え王やその臣下を面罵して、そして謝罪さえせず立ち去る無礼を働いたとしても、王が問題としなければ適用されないとしたのだ。つまり殆ど形骸化していると言って良い。

 

 もっとも、この法が制定されてしばらくしても、銃殺刑となるのを覚悟した上でオーク王の名誉の為に決闘を叩き付けるオルクセン軍人がいくらかいて、またさらに公となっていない決闘もあったようだと聞いているので、まあ私とシュヴェーリンもこっそりやれば良いだろう。

 

 ……しまった、その法を制定したオーク王本人の目の前であった。

 

「どうするシュヴェーリン、私とて貴様を銃殺刑にしてまで決闘をしたい訳ではないぞ」

 

「うーむ、しかたあるまい。たしか双方の同意さえあるならば、決闘による契約の解消も慣例としては許されていたか」

 

 まさか、決闘をしないという選択肢など私には無いのだぞ。

 

「こうなったらオルクセン法の届かない国外でやるか」

 

「だめだ。その逃げ道を塞ぐため国法ではなく軍法で定めている。オルクセン軍人であるならばどこにいようと関係ない。もちろん退役しても四年間の予備役である内は同様に適用されるようにしてある」

 

「チッ」

 

 このオーク王め、一〇〇年以上前に定めた法の詳細など忘れてくれれば良かったものを。

 

「ホルステナ、今の貴様それこそ法が出来る前なら儂でも決闘を叩き付けていたぞ」

 

「それは願ったりだな。ああ全く、せっかくオルクセンまで来て貴様に会いに来たのに、決闘が出来ぬのでは無駄足ではないか」

 

 そもそも私が舌打ちした瞬間、決闘どころか僅かに右半身が浮いただろうに。

 

 まあ、こうなったら最終手段だな。

 

「なあシュヴェーリン。オーク王の定めた法が決闘の邪魔となるなら、今ここでオーク王の首を―――」

 

 叛逆の阻止。

 

 その名目があるならば、オーク王とあの熱い抱擁を交わすほどの間柄であるシュヴェーリンであれば手を出してくれるだろうと信じていた。

 

 それがまさか言い終わる前に拳が飛んでくるとは。本物の忠臣だな。

 

 憤怒に顔を歪めたシュヴェーリンの右拳が顔面に飛んでくるのを、私は叛逆を持ち掛けたままの笑顔で一寸も微動だにせず受け止めようとし―――。

 

 

 

 鼻先、ほんの僅か。シュヴェーリンの手に嵌まる手袋が視界を埋め尽くし、だが、それだけで止まった。

 

「どうしたシュヴェーリン、オーク王の首を狙った邪な叛逆者を殺さないのか?」

 

 いや分かりきった話だな。

 

『どうしても何も、このタイミングにオルクセン国内で白エルフがオークに害されたなど、エルフィンドにどれだけ付け込まれる事か!()()()()()()!』

 

 我が王に忠実な、真に忠実な臣下なのだ。

 

 本当に素晴らしい牡だ。

 

 だからきっと。

 

「ホルステナ。おまえ、儂に会いに来た目的は、本当は決闘ではなく死ぬ事だな。それも儂に殺される事を求めている。この死に損ないめ」

 

 ああ、ばれてしまった。

 

 またしても私は死に損なったのだ。

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