死んだ。
死因は飛び降り自殺だ。特に親と上手く行かなかったわけでは無い。寧ろ、一般的な家庭よりも仲は良かった。友人関係も特に問題があったわけでも無い。恋人ができなかったのが、少し心残りではあるが。
ただ、そう。
退屈。
これが自殺した理由である。このまま過ごせば順風満帆な生活を謳歌することはできただろう。
だが、それではこの退屈感を抑えることはできなかった。
退屈は人を殺すことができるとは聞いた事があるが、本当にそうだとは思わなかった。死んだ後に何を言ってるんだとは思うが。
それよりもこれはいつまで続くのだろうか。
俺はさっき死んだはずだ。それなのに思考ができるのはどうしてだ。意味がわからー
「やぁ!」
!?誰だ…
「僕?僕は神だよ!」
神…だと。まぁ、確かに死んだ者に話掛けることが出来る存在とすれば神ぐらいだろうが。
それにしてもこの状況はどういうことだ?
「あぁ、それを説明しようと思って。その前に言いたいことがあるんだけど。
君さぁ、本来ならもっと長生きして歴史に名を残すような偉人になってたのに。勿体無いことするなぁ」
それは…本当だろうか。何も興味を抱くことができなかった俺が何かを成し遂げることができるとは思えないが。
だが、神であれば未来予知の1つや2つぐらいして当然か。
「いいやぁ?普通の神は未来を予知することはできないよ?できたとしても数秒後の未来を読むというだけであって…まぁ、君に説明しても分かるわけないか。君、人間だし」
何か馬鹿にされたような気がするが、いいだろう。普通の神と言ってたが、神にはランクのようなものがあるのか…?
「そうそう、君が思うように神にもランクがあって予知能力が備わっているのは上位神以上なんだ。それで、僕は上位神の中でもトップ層の最高神!それも転生神さ!」
なるほど。神のランクが高いから俺の未来が分かったと。名前があるということは、もしかして神によって役割や能力が変わるのか。
お前の場合、転生の神だから今の状態の俺と会話することができる…とか。
「まさにその通りさ!改めて僕は転生神、死んだ魂を洗浄して新たな肉体へ転生させる神さ!全ての生あるものはいずれ僕に会うことになる!だから君もこうして僕に会ってるってことだよ!これで疑問は解消されたかな?」
なるほど。今の状況は死んだ魂である俺がお前に洗浄される前ということか。
だとしたら早く洗浄してくれ。俺は新たな人生を謳歌したいんだ。今度こそは退屈凌ぎになる人生を。
「それがさぁ、少し困っちゃって。君、実はもう洗浄された後なんだよねぇ~」
そうか。だが、それがどうしたというのだ?
「話してなかったけど、魂が洗浄を受けるとそれ以前の情報が消える。自我が消えるって言ったらわかるかな?でも君の世界でも時々前世の記憶があるとか言う人がいるでしょ?その人間達って大体が自我が強すぎたことが原因なんだよね。それでも完全に自我が消えなかったわけでは無いから大抵は限定的な記憶保持の状態なんだ。でも君の場合は違う。完全に記憶した状態だ。つまり、何が言いたいかわかるかな?」
…。それはつまり、また退屈な人生を味わうことになるのか。自殺するにしても1人立ちできるようになるまで数年かかる。だが自殺したところで、また自我が消えなかったら?退屈は嫌いだが、だからといって何度も自殺したいわけでは無い。痛いのは嫌いだ。誰だってそうだろう。それでも痛い事よりも退屈の方が勝ったから自殺したんだ。それが、今後何回も繰り返すことになるのなら…。
絶望
この2文字が頭を埋め尽くした。
「あぁ!そこまで悲観することないよ!だってそのために僕がいるんだから!」
どういうことだ…?俺は今絶望で心が一杯なんだ。
「端的に説明すると、地球での世界が君にとって退屈なだけであって何もそれ以外の世界までもそうとは限らないってことだよ!君、ファンタジー系の小説だったり漫画だったり読んだことある?」
当たり前だろ。退屈な生活の中で唯一、面白く思ったからな。
「良かった!ファンタジー系の作品も退屈だったらどうしようかと思ったよ!本当に良かった~」
さっきから一体何なんだ?いい加減イライラする。
「怒らない~怒らない~。これから先、ずっと退屈な人生を何千回と送る運命にある君にプレゼントしようと思って。その名も、”異世界旅行”!」
はぁ?異世界旅行?まぁ、確かに転生の神なら異世界へ転生させることは可能だろう。だが、それで俺の退屈が満たせるのか?
「勿論!だってこれからいくつもの異世界に転生することになるからね!それも全てファンタジー小説や漫画の世界!楽しみだなぁ。君の異世界ライフ!」
おぉ、それは面白そうだ。俺は常々、この世界は退屈だと思っていたがそれなら退屈を紛らわすことができるだろう。ところで、何故、お前が楽しみなんだ?
「そりゃ、勿論僕も退屈してたからね!何万年もここでずっと魂の浄化作業をやってれば退屈に思うのだって仕方ないじゃないか!何なら君よりも退屈な時間は長いんだからね!?」
お、おう。なんかすまんな。
「いや、僕も少し大人げなかったよ…。いや、神げなかったよって言うのかな?まぁ、どうでもいいや!あ、話の途中だったね!そんな感じで退屈に過ごしてたんだけど、君が現れたってわけさ!実を言うと君の前の魂の頃から割と前兆はあったんだよね~。それがこんな感じで成就してくれるとは思ってもみなかったよ!君は僕の救世主さ!だからこれから様々な異世界へ転生する君にささやかながらプレゼントをしよう!」
前兆?なるほど、確かに考えてみれば俺が俺である以前の記憶は無い。つまり、俺という自我は今世において形成されたもの。転生神によると魂は浄化されると自我が消えるらしいから俺以前の自我があって当然。前の自我の時点で既に自我が強かったが今世でそれが完成したと。
「そういうことだよ!理解できて何より!それでプレゼントの話なんだけど聞きたい?それとも聞かずに転生する?どっちでもいいよ!」
そうだな。聞かないでおく。その方が面白そうだ。
「OK!よし、それなら早速転生しようか!初めての転生はあの世界にしようかな!結構好きな漫画でね!君も読んだことがある漫画だよ!楽しみにしておいてね!あ、最後に、ここでの出来事は忘れることになってるからね!次ここに来た時にまた思い出す感じだからその時感想聞かせてよ!」
わかった。一応、感謝する。ありがとう。この俺に娯楽を与えてくれて。
「フフフ。娯楽かどうかは分からないよ?転生する世界によってはハードモードの場合もあるよ?例えば、某至高の御方が転移してくる小説とか…」
あぁ、あの世界は嫌だな。死にやすそうだし。仮に国に重宝されでもしたら情報収集の為に誘拐されて拷問されるかもしれない。あぁ、考えただけで恐ろしい。
「おや?やめておくかい?通常の転生にしてもいいんだよ?」
いや、やってくれ。たとえその世界になろうとも楽しむことができるだろう。非日常が味わえるなら何だっていい!俺は、人生を楽しみたい!
「よし!決意も固まったことだし、早速行ってみようか!1つ目の世界へ!」
こいつともお別れか、いやまた会うことになるのか。作品によっては不老不死になったりするだろうから1回目が相当長い人生になる可能性もあるが。
遠くから強い光が迫ってくる。その光を浴びた俺は――――。
「行ってらっしゃい。帰ってきたら感想聞かせてね。僕の分身」