とある男の日常ものです。短編。

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巡り

 20の頃。おれは友達と一緒に暮らすフリーターだった。

 

 友達とは昼夜逆転の生活、一緒に何かをするのは、共通の趣味のパチンコをする時のみだった。収入が少なかったし、ギャンブルにお金をかけたかったから、飯にはお金をかけたくなかった。

 

 その日の晩は、マクドナルドの120円のハンバーガーとコンビニの100円のおにぎりだった。

 

 明くる日の晩は、マクドナルドの120円のハンバーガーとコンビニの100円のおにぎりだった。

 

 次も、また次の晩もマクドナルドの120円のハンバーガーとコンビニの100円のおにぎりだった。

 

 ずっとずっと晩飯は、マクドナルドの120円のハンバーガーとコンビニの100円のおにぎりだった。

 

 25になった時、おれは叔父に誘われて彼の会社の社員になった。

 

 残業があんまり多く無い仕事だったが、フリーター時代よりは実入りが増え、パチンコにかけるおこづかいが増えた。

 

 それに、少し位は食べ物にお金をかけてもいい、と思った。

 

 その日の晩は、吉野家の牛丼だった。

 

 あくる晩は、駅前の横浜家系ラーメンだった。

 

 その次は、バーガーキングのワッパーを1個だけ。

 

 吉野家とラーメンとワッパーのローテーションを繰り返す晩餐だった。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 30になる手前、つきあっていた同じ会社の女の子から妊娠を告げられた。

 おれと彼女は入籍し、一緒に暮らす事となった。

 

 けれども彼女は子供を産んでも仕事をしたいと言ってたし、2人とも料理はへたくそなのでご飯ぐらいしか炊くしかできなかった。

 

 その日の晩は、炊いたご飯とスーパーの総菜とお味噌汁だった。

 

 明くる日の晩は、炊いたご飯とスーパーの総菜とお味噌汁だった。

 

 次も、また次の晩も、炊いたご飯とスーパーの総菜とお味噌汁だった。

 

 ずっとずっと晩飯は、炊いたご飯とスーパーの総菜とお味噌汁だった。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 40手前になる頃に、叔父の会社を継ぐこととなって、毎日が忙しかった。

 収入は、大きく無い会社だけど経営者だからそれなりにあったけれど、子供を大学に通わせる為の資金に多くをまわされた。

 

 俺は趣味だったパチンコをやめて、その代わり行きつけのスナックの若い娘との恋愛におこづかいを使う事にした。

 

 その日の晩は、会社の取引先の人と食べた寿司だった。

 

 次の晩は、弁当を会社の中で食べた。

 

 その次は吉野家、次の次は家族でファミレスで。

 

 ずっとずっと晩飯は、取引先との食事と会社の中で弁当と吉野家とファミレスだった。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 55を過ぎ、子供も巣だって会社も少しは大きくなって経営も続いていた。俺は部下に仕事を任せて昼間っから愛人とベッドの上。妻はそいつに気付いて離婚届をつきだしてきた。そしておれはマンションを手放した。ワンルームのアパートで独身生活が始まった。

 

 その日の晩は、ほっかほか弁当だった。

 

 明くる日の晩は、近所の中華料理屋の酢豚だった。

 

 その次は居酒屋、次の次は愛人と一緒に食べるレストランのフルコース。

 

 ずっとずっと晩飯は、ほっかほか弁当と酢豚と居酒屋の料理とホテルの前のごちそうだった。

 

 それからしばらくして、おれは部屋のベッドで冷たくなっていた。

 

 決して目覚める事の無い眠り。俺は晩飯を食べる必要がなくなった。

 

 もう、今夜のごはんはなににしよう、と悩まずにすむ、悩みの無い安らかな日々が始まった。

 

 

-了-


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