ようこそ。私のワンダーワールド   作:OrengeST

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第二十三話:日之出朝陽の見る世界

 私は、私の中に、何かしらの存在を内包する感覚を受け取りました。

 これが、異形。

 私は、凄まじい高揚感に満たされました。

 私の目には、それまでの素晴らしく美しいメッキに彩られた、泥のような醜い世界が、一瞬にして、彩度と明度を増して、きらびやかに映りました。

 窓の外は、ほとんど緑になってしまった桜や、田畑や、どこまでも沈んでいきそうなくらい、鮮やかな群上の空。

 この世界で万能な存在である私は、ついに。

 大いなる矛盾ではありますが、万能が決して有することのなかった、万能を超えた異形を手にすることが出来たのです。

 あぁ。

 思えば、この世界は本当に本当に退屈極まりない、反吐の出る世界でした。

 私が初めて目にした世界は、そもそも世界という枠組みを持っていませんでした。私という存在があるだけの、闇でしかなかった。

 私は、何者かから、力と、目的を与えられた。

 私が望むものは何でも手に入る。私が命令すれば何でもその命令に従う者たち。希望のない、絶望で溢れた世界。誰一人観客が居ないと分かっている舞台を作り、演じる無力感が誰にわかるでしょう。

 わたしにしか分かりませんわ。

 私はこの退屈な世界から、逃げたかった。

 ようやくその本願が、達成されようとしている。

 私は、手に入れた異形に、外の世界とのつながりを明確に感じました。きっとこの力があれば、私はこの退屈でくだらない世界から、抜け出すことが出来る。

 そう思うと、居ても立ってもいられませんでした。

「ありがとう、九夜くん」

 私は改めて、心から少年に感謝の意を伝えました。彼が居なければ、今の私はありませんもの。

 ぐったりと力なくうな垂れた少年は、人形のようでした。どうやら異形を失ったせいか、意識を失ったようです。

 しかし、この力。果たしてどのように使えばいいのでしょう。

 分かりかねますが……時間は無限にあるのです。少しずつ、試していけばよいでしょう。

 私は、少年を拘束していた力を解放しました。

 少年は膝をついて崩れ落ち、倒れ込みました。もう少年に異形の力は宿っていません。彼からは、何も感じられませんでした。

 彼はもはや、この世界では、私が操作する誰よりも弱く無知で、無価値な存在でしたから、私はすっかり関心を失いました。

「ぐっ……」

 すると少年は、苦悶の声を上げて、身体を震わせていました。

「あなたの中の異形を頂戴しました。もっと早くこうしていても、良かったのかもしれません。あなたの危機に異形が働くのか、宵待さんがあなたの異形を解明してくれないかと期待していたのですが、結局、あまり役に立ちませんでしたし。ねえ、宵待さん」

 宵待さんは、ただぼうっとして、虚ろな目で私の隣に立っていました。もうこの方の存在も、すっかり忘れてしまっていましたわ。

 せっかく、私を構成するリソースの大半を使って、彼女には異形を感じ取る力を与えてあげたのに。

 ワンダーワールドを創造する力まで、与えてあげたというのに。

 もっとも、そのせいで、彼女は私の思念の影響を受け、彼女の性格はオリジナルの宵待深月と比べ探求的であったようですが、結局のところ、九夜くんの同情を引く程度の事しか、できなかったですね。

「……深月‼深月‼おい‼」

 少年は悔しそうに叫んでいました。どれほど呼びかけても、願っても、彼女では私に指一本触れることもかないませんし、何の役にも立ちません。

 私は、目の前で不様に喚く少年が、不憫でなりませんでした。いっそのこと、ここで、一瞬で命を絶ってあげた方が、彼にとっての幸福かもしれない。私はそんなことを、考えていました。

 私が、宵待さんから注意をそらしていたのは、そのたった僅かの間だけでした。

 私が気付いたときには、宵待さんは虚空に指先を突き出すようにしていました。

 それが、彼女の作り出したワンダーワールドの入り口だと気づいたときには、私は、事もあろうに少年の手によって、宵待深月のワンダーワールドに、引きずり込まれてしまいました。

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