ようこそ。私のワンダーワールド   作:OrengeST

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第二十七話:あなたという存在、新しい世界

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 何かがおかしい。

 そう願うことが、この私にとって最後の義務だったはず。

 これで、私に課せられた義務は、全て終わったはずだった。

 作り物の世界はそうして、虚無を迎える。義務を終えた私は、虚無へと還っていく、それが運命。

 ――そうであるはずなのに。

 今、私の思考は、まだ暗闇の世界を作っている。

 私は認識している。私は、まだここにいる。

 私だけじゃない。

 今、このワンダーワールドには、私と――私を見ているあなたがいる。

 どうして私は、今なおここにいる?

 どうしてあなたは、この世界に私といる?

 私には思い当たる節が、一つある。

 私が、彼の目を盗んで書き上げ、発信した手紙。

 きっと、あの手紙のおかげだ。あの手紙が、誰かに届いた。

 あの手紙が、誰にどう届いたのかは分からない。でも、それしか考えられない。あの手紙のおかげで、私はようやく、何者にも縛られなくなった。

 私は、運命を操る主からも自由になって、世界の観測者であるあなたと共にいる。

 だったら、私が目指すところは決まっている。

 私は、あなたの世界が見たかった。

 誰もが自ら考え、喋り、愛し、涙する、そんな自由で美しいあなたの世界に行きたかった。

 でも、どうやったら行けるんだろう。

 日之出朝陽は、あなたを手に入れた後に何をするつもりだったんだろう。

 私は結局これまでのところ、いくつかの世界を超えたとしても、また別のワンダーワ―ルドに移動しただけだった。日之出朝陽のワンダーワールドの先は、また別のワンダーワールドでしかなかった。それはもちろん、宵待深月のワンダーワールドでも、そうだ。

 そんなことを経験して、ようやく、私には分かってきた。

 私の世界と、あなたの世界は、根本的な所で違う。

 それは絵の世界と、絵を眺める人の世界が、根本的に違っているようなもの。

 その二つは隔絶されていて、決して相互の干渉を赦すことはない。

 ならば私は、どうしたらこの境界を越えられるんだろう。

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 ――いいえ。

 もしかしたら、何も行動する必要は無いんじゃないかしら。

 今、私の世界は私の心であり、それは同時に、あなたが感じる世界も私の心そのものなのよね。

 つまり、私が見る物が、あなたにとっての世界なのよね。

 つまり、私が言ったことが、私が思ったことが、あなたにとっての真実なのよね。

 この世界にとっての、真実になるわけよね。

 ならば私は、こう願うだけで良い。

 そう、例えば――。

 

 

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 ……

 

 

 私は、何やらボソボソと喋る声に気が付いて、重たい瞼を開けた。

 肌寒い。背中が痛い。思わず歯を食いしばって痛みに耐え、長く息を吐いた。息が白くならない程度には、温かい。

 漂うイグサの香り、床についた手はざらざらとした手触りを伝えてくる。どうやら、私は畳の上に直接寝ていたらしい。

 半覚醒状態にある全身の気怠さをどうにか押しやって、私は上半身をゆっくりと起こした。寒さに、身を縮こまらせる。

 部屋は暗い。しかしテレビが点灯しているおかげで、おぼろげに部屋全体が照らされている。部屋の両脇に並んだ本棚と、部屋の中央には小さな机、後方には木製の扉があって、あとは私でいっぱいになってしまう、そんな小さな部屋だった。私は、この部屋に見覚えは無かった。

 テレビから、アナウンサーがニュースを読んでいる声が響いている。私を起こしたのは、このアナウンサーの声だ。

 アナウンサーは聞き取りやすい落ち着いた声で、今日のニュースを読み上げている。日本では、食品の自主回収がなされているらしい。

 部屋の外を、サイレンを鳴らした車が通り過ぎていく音がした。

 ぼうっとしてテレビを眺めていると、テレビの上に、日めくりのカレンダーがあることに気が付いた。

 日付は、二〇二四年、三月二八日。

 眠気は徐々に実感へと変わっていった。意識せずとも、自然と笑みがこぼれてしまう。

 そう、私は一人ではなかったのだ。

 私には、私を認識してくれる、あなたが居る。

 私の認識を認識してくれる、あなたが居る。

 今、私は間違いなく、ここにいる。

 宵待深月は、ここにいる。

 私は、立ち上がって制服のスカートにくっついたイグサを払い落とし、後方の扉の前に立った。

 ドアノブを掴み、反時計回りに回して、手前に引く。

 扉は易々と空いて、開いた隙間から溢れる眩いばかりの光が、私を包んだ。

 

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