ホラー短編集   作:認識のねこ


オリジナル現代/ホラー
タグ:怪異
一話完結のホラー短編集です。

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ホラー難しい(´・ω・`)
 


幻視の貌

 

 

 

 瘤杢(こぶもく)というものがある。

 

 樹木の表皮などに見られる(こぶ)のことで、切り出した杢目(もくめ)の模様にもこの名前は使われる。

 樹木に瘤杢(こぶもく)ができる理由は、気象・生物・内部的・人為的要因など色々ある。

 例えば、雨風に折られた幹や枝が歪に再生した結果だったり、動物の爪痕や虫の掘った痕が原因だったり。

 瘤杢(こぶもく)そのものの種類も、こういった“できる理由”に基づいて種々あるわけだ。

 

「へぇー」

 

 私はスマホから目を離して、息をついた。

 なぜこんなことを調べているのかというと。

 

「で? なんかわかった?」

「うーん、わからん!」

「は? 時間返せ……」

 

 不服そうに肩を落とした友人が、ついさっき話題に上げた気になること(・・・・・・)についての見識、とでも言おうか。

 いや、ぶっちゃけるとただ気になったからググっただけなのだが。

 

 今、私は二人の友人と食事しつつ駄弁っていた。ま、注文したやつまだ来てないけど。

 計三人。四人掛けのテーブル席に座って、時間潰ししてたのだ。

 そしたら友人の一人がよくわからんことを言い出したので、ひとまずネットの情報を頼ってみたのである。

 

「マジで冗談とかじゃないんだって。ガチで人の顔だったのそのコブ! 写真じゃ立体感なくてわかりにくいけど」

「そうだねぇ、写真撮る余裕はあったんだねぇ、不思議だねぇ」

「なに、ほーちゃん。からかってんの?」

 

 興奮して話す友人に、もう一人の友人が小さい子を相手するみたいに茶化す。

 温度差よ。私の前でパンクハザードを作るな。

 

「やるならミュートしといてよ」

「……! ……!? ……、……!!」

「……、……。……?」

「あはは、ウケる!」

 

 わざわざボケに回ってくれるノリのいい友人たちを後目に、私は個人的な好奇心をもう少しだけ満たすことにした。

 

 こぶ、呪い。

 木、こぶ、幽霊。

 街路樹、いわくつき。

 

 いくつか検索を試してみても、特にこれといった記事やサイトはヒットしない。

 あ、でもこの犬みたいな模様の木の節はかわいい。

 

「……流石にもう飽きたから終わり。でさぁ~話は戻るんだけども……実際どう思うよ、これ」

 

 ミュート芸に飽きた友人が私に見せたのは、スマホで撮られた一枚の写真。

 それは一見何の変哲もない街路樹だ。インスタに上げようとは思えない──そもそもインスタやってないけど──種類も知らない木。

 

 写真の中央にある、目と鼻と口のようにも見える形をした、(こぶ)さえなければ。

 

 ていうか画面割れてて見づらいな。

 

「ゆー、心理学にはシミュラクラ現象というものがあるんだよ」

「知ってるし、ていうかそれ心理学の領分じゃなかった気するけど」

「うわ、急にIQ上がった」

「この程度の高低差でビビるな」

 

 ふと、店員さんが料理を運んでくる。

 女子とはいっても高校生。怖気よりも食い気が勝つのは、私たち三人の共通認識みたいなもので。

 さっきまでのおっかなびっくりした態度を急変させて、友人はパスタをすすり始めた。

 

 ……やっぱ分かりにくいから名前使お。(ゆう)が変なこと言い出したスマホバキバキ女で、朱莉(あかり)が苗字の喰代(ほうじろ)からほーちゃんって呼ばれてる牛女。

 で、私がこいつらのツレ代表の真綾(まあや)。あだ名まーちゃん。

 私らは日曜日を使ってしこたま遊びまくった後、財布に残った出涸らしみたいな金でサイゼの飯を食っていた。

 

「んま……んま……」

「ほーちゃんそれイカスミ? なんか違くない?」

「変わったらしいよメニュー」

「ふーん……」

「興味無さそうな反応だなぁ。なんで聞いたし」

「いや、ちょっと貰おうかなって思ったけど味薄そうだし」

「おぉ? 聞き捨てならんな? 結構美味しいのに」

「え、くれんの?」

「お前に娘はやらん!」

「お義父さんじゃん」

 

 小気味良くオチがついた会話に三人して笑みがこぼれる。

 優が撮った写真の話なんてジャブ程度だ。食べ物で言えばサラダですらない、入口にとりあえず置いてある除菌アルコールみたいなものだ。

 まあでも、サラダくらいは買える金を残しておくべきだったかな。

 

 

 

 ●

 

 

 

「じゃあまた~」

「ばーい!」

「また明日ねー」

 

 集合場所でもあった駅の改札で友人たちと別れる。

 

 家に着く頃には9時を過ぎるかもしれないな。

 それにしても、今日は楽しかった。対した数は買ってないのに財布が瀕死なのも、全力を尽くした感があっていい。後悔はない。

 そんな満足感を改札口に表示されたSuicaの残高に消し飛ばされながら、私は家路についた。

 

 それにしても、瘤杢(こぶもく)か。

 

 シミュラクラ現象、人間は逆三角形に配置された三つの点を『人の顔』に錯視する、だったか。

 あんな犬にしか見えない木の節があるくらいだし、そりゃ人の顔っぽいコブがあってもおかしくない……か?

 

 どっちにしろキモいけど。木のニキビみたいなもんだろうし。

 

 電車を降りて、駅を出ると後は徒歩だ。

 いつもは面倒なこの帰り道も、今日は心地よい。

 深夜テンションってやつかな。まだギリ夜8時だけど。

 

 ん? なんか道路に──

 

「ッうわぁっ」

 

 ミミズ! お前ふざけんなよミミズ! ●ねマジで!

 この一面アスファルトの中どうやってここにたどり着いたんだよ。

 カラスはゴミ食ってねえでこういうマヌケをどうぞ処理してくれ。頼むから。

 

 脳内に(わだかま)るうにょうにょを全力で追いやるべく、私は自分の脳内フォルダを片っ端から漁る。

 

 なんか紛れるものないか……? こういう時、可愛いものだと記憶が紐づいちゃって遅効性の毒みたいになるから良くない。

 マジでどうでもいいもので記憶を希釈しないと。

 螺旋階段……カブト虫……廃墟の町……イチジクのタルト……カブトむ……カブト虫ってよく見るとキモ……あっこれ良くない。

 

 なーんかないかな。お、街路樹。

 サルスベリってやつかな? でも昔なんかの虫の卵付いてたから苦手だ。結局虫じゃねーか。

 あーでも、こうやって当てもなく考え事してると、紛れてきた、ような?

 

「……ん?」

 

 気のせいかな。さっきのサルスベリ。

 人の顔した模様が見えた。

 ……いや、流石に見間違いでしょ。

 優が急に変なこと言って変な写真見せてきたから、変な電波でも受信しちゃったかな。

 今日は頭にアルミホイル巻いて寝なきゃ。それなんてナイトキャップ?

 

 そう自分を納得させて、態々確認することもなく。

 私は頭の中だけ口やかましく、静かな帰り道を歩いていった。

 

 

 

 ●

 

 

 

 翌朝。

 月曜日ってやつはいつだってかったるい。なんとかならんもんかね。

 昨日は帰った後もちょっと起きてたせいで、少し寝不足。

 とまあコンディションは最悪だが、昨日の余熱のおかげかそんなに辛くはない。

 いい運動した後みたいな気怠さだ。

 

「おは、昨日ぶり」

「おはよぉ。ゆー今日休みだって」

「あ、そうなの? 意外。そんなに疲れてたっけあいつ」

「疲労感は無くても疲労はあるもんだよ。知ってる? 人体には──」

「やめろー眠くなるー」

 

 雑学系チャンネルで聞きかじった情報を垂れ流し出すほーちゃんに、私は耳を塞いで抵抗した。

 そういうのはTPOを弁えてほしいね。友人の切実な思いだよ。

 

「ま、お見舞い行ってやるか。はぁーゆーちゃんったらもー」

 

 手のかかる子だこと。

 そう言ってやれやれと肩をすくめた私に、ほーちゃんは何故か。

 

「いやぁ、大丈夫というかやめといた方がいいよ(・・・・・・・・・・)

 

 待ったをかけた。

 

「……え? なんで?」

「うつるから」

「あー……まそう、なのかな? うん、確かに……」

 

 言われてみれば、私も割と体調的にはギリギリだ。

 風邪は人に移すと治る、とは言うが移される側からしたらたまったもんじゃない。

 お見舞い行って風邪ひくのはダサすぎる。

 鬼ごっこじゃないけど、でん返しもダメだし。

 

「わかった、やめとく。ほーちゃんはどうする?」

「あたしは大丈夫だから、行こっかな」

「なんだその自信」

「伝言を預かってやろう」

「じゃあ「ノート取ってやるから今度奢れ」って、言っといて」

「がってん」

 

 内職が出来た。これで今度はサラダが食えるな。

 

 

 

 さて一限目、数学。

 

 朝っぱらから数学かよーと優はよく愚痴るが、私は至って理系脳なので? んま余裕っすわ。

 ただちょっとね、今日は調子が良くなかったかな。

 サインコカインタンジェントだっけ、何言ってんのか終始わかんなかった。

 板書はしたし、ええやろの精神だ。

 後は私の次に理系脳なほーちゃんに補ってもらおう。

 

 そんなこんな、辛くも乗り越えた一日序盤の鬼門に教室の空気が緩んでいる中。

 黒板に残された三角形を私はぼんやり、眺めていた。

 

 逆三角形に置かれた三つの点を、人は人の顔と認識する。

 

 ただ、sin30°な三角形じゃあ顔は見出せそうにないな。左目左に離れすぎ。コダマでもいねーぞあんなん。

 あ、日直が消しちゃった。そういや今日は谷口君か。

 くっそー、もうちょっと粘れば顔に見れたのに。

 

 まそんなことより、二限目の英語に備えておくか。

 数学の教科書やらノートやらをしまって、空いた机の上に英語の諸々を置く。

 そういえばノートの色って教科ごとに分けてるけど、この色分けって全国共通なんだろうか。

 数学は青だし、国語は赤だ。理科が緑で、社会は黄色。そんでもって、英語は紫。

 どうなんだろ? 教えてえらい人。

 

 そうやって私はしょーもないこと考えながらも、今日やるであろう範囲のページを(めく)る。

 パラパラパラーっと。

 

 …………?

 あれ……? え? 今なんか……

 人の顔あった?

 

 捲ったページを逆戻りする。だけど、今度はそんなもの見えない。

 あれぇ? おかしいな……この教科書、イマドキっぽいイラストオンリーのやつだから実写の人の顔なんて無いはずなんだけど。

 気のせい……気のせい(・・・・)なのかなぁ。

 やっぱ疲れてるのかもな。

 今日はもう夜更かしせず寝よう。

 

 予鈴が鳴った。もうすぐ授業が始まる。

 

 

 

 調子乗って舌噛んじゃった。思いっきりじゃなくて端っこだけど。

 ああもまくし立てられりゃ舌も混線するわな。

 粘膜は直りが早いって言うし、別に気にすることでもないがね。

 

「ほーちゃーん、行こ着替え」

「OK, let's go together.」

「んはwww」

 

 無駄に発音がいいのやめろし。

 

 教室を出て廊下を歩く私とほーちゃん。

 今日の三限目は体育で、バレーボールをやるらしい。

 運動神経担当の優がいないから、どうなることやら。

 

「ほーちゃん、今日のバレー頼んだ」

「えぇ~? まーちゃんも頑張ってよぉ」

「しょうがないなぁのび太君は」

「あたしのび太じゃないし」

 

 ほーちゃんは背が高いけど運動となると、アレだ。アレ。

 はっきり言わないのは配慮の時代ということで。

 私は……邪魔にならないよう隅で大人しくしておこう。

 

 更衣室に着くとそこは既に人でいっぱいだった。

 人がすし詰めになってる場所ってなんか嫌だ。それはそれとして入るけど。

 

「そういえば優が風邪ってなんで知ったの?」

「ん~? 普通にLINEで」

「アイツ私には言わなかったのか……」

「心配されたくなかったんじゃない?」

「あーね」

 

 そういうことにしといてやろう。

 優とは長い付き合いだ。アイツの性格的にあり得るだろうし。

 ところで、さっきからなんか。

 

「……ほーちゃん、なんか視線感じない?」

「え~なに急に。男子が覗いてるのかもね」

「いやそういう感じじゃないというか……顔がこっち向いてる気がして」

 

 視界の端に映るクラスメイトの顔が、やけにこっちを向いているように感じる。

 病んでるみたいで自分が怖い。

 

「さてはあたしのダイナマイトボッディに」

「ちげーよダボ」

 

 とはツッコミつつ、そうやって茶化してくれるのはありがたかったりする。

 ほーちゃんみたいな人が肝試しに付いて来てくれると助かったりするのかな。

 そうしてる間に着替え終わって、いよいよ体育館に。

 外に出ると昼間の光が目を焼いた。

 どの季節になっても、この時間帯は変わらず眩しい。

 明順応してきた目をふ、と晴れの空に向ける。

 雲が、人の顔に見える。

 

 いやいや。そんなバカな。

 わざと芝居めいて目をこすり、もう一度見てみる。

 

 雲が、人の顔に見えて、()()()

 

「まーちゃん、そろそろ行くよ」

 

 ポンと肩を叩かれて、我を取り戻す。

 いかんいかんボーっとしてた。雲なんてどーでもいい。

 突き立てた中指の形のもあるくらいだ。見つけたところで、スマホがなきゃ話にならない。

 まあ、私の場合写真撮ってもネットに載せるなんてしないけど。

 

 

 

 体育の授業中、やたら視線を感じつつ。

 

 何となく自分を安心させたいがために、ほーちゃんの金魚のフンと化した私は。

 

 不幸にも黒塗りの……じゃなくて、足首を捻挫してしまったのであった。

 

「っ()~……」

 

 未だ履き慣れていない体育館シューズとかいう拘束具のせいである。

 まさか、リアルに「アシクビヲクジキマシター」なんて台詞が出るとは。

 保健室でお昼食べるなんて史上初でしょ。気持ちあんま味しなくて草。

 

 四限目のノートはほーちゃんが取ってくれた。ちなみに理科。

 思うんだけど、理科の先生の変人率って高くない?

 うちの学校も例に()れずって感じで、隙あらば持論語りに授業が逸れるおじいちゃん先生なんだけど、話が面白いから人気だ。

 ほーちゃんとかはもうリスナーって言ってもいいくらい。

 話の元ネタ調べたら論文が出てくるくらい薀蓄(うんちく)のある先生なんだよね。

 ハゲてるけど。

 

「……遅いなぁ」

 

 で、ほーちゃんはいつ迎えに来るんだ?

 昼ご飯は保健室の先生が購買から取って来てくれたけど、流石に教室までは遠いからついて来てもらえないし。

 ほーちゃんが私を回収しに来る手筈で話がまとまったから、多分他の人が来ることもないし。

 割とマジで五限目遅れそうなんだが。

 

 いざとなったら自分で行くか。

 

 ま、昼休みまだ20分あるし大丈夫っしょ。

 間に合う間に合う。

 その内に着替えとこっと。

 

 

 

「アイツ憶えてろよ……!」

 

 誰一人来ることなかったです。残念ながら。

 はい。

 アンガーマネジメントで落ち着いてもなお静かなる怒りが湧き上がってくるわ。

 ビンタしてやる。どこをとは言わず往復で。

 

 けんけんする体力も無いから、右足を引きずって一人で歩く。

 すれ違う人に奇異の目で見られるのが地味にキツイ。このスリップダメージのせいで直りが遅くなるような気がする。

 気を紛らわせるために窓を見るのは必然と言えよう。

 景色なんて興味もないのに、息継ぎみたいにチラチラ見てしまう現象、あると思います。電車の中とかで。

 まあ景色っつっても、中庭の木とか花壇の花くらいしか見えないけど。ここ一階だし。

 

 あ、うわーそっか、階段登んないとダメなのか。

 え普通に無理。どうしよ……

 

「……あ?」

 

 ほーちゃんいるじゃん! 中庭に!

 貴様どこほっつき歩いとんじゃワレェ!

 教室とかもうどうでもいいから凸る。凸らねばならぬ。凸って鼻にピアス付けてやる。それも牛用のぶっといやつを。

 待ってろよ……ちょっと、待ってろ。出入口意外と遠いな……動くなよ!

 

 あっちょっ、どこ行くんだテメー!

 クソッ、こういう時声張れる度胸が無いと不便だな。

 一か八かで大声出すか? 出入口もすぐそこだ。

 

「ほ──「まーちゃん!」……え?」

 

 振り返る。

 中庭にいたはずのほーちゃんが、息を切らして廊下を走ってきていた。

 

 は? なに、ワープ? テレポート?

 いや……えぇ?

 

「保健室出ちゃったのぉ!? ダメじゃん!」

「え、いや、授業遅れるかなって……」

「あっそれはゴメン! でも~まだ20分あるよ?」

「……あれ? まだ20分?」

 

 待って? どういうこと?

 私、最後に時計確認してから15分は経った気がするんだけど。

 休み時間もう5分くらいしか残ってない認識なんだけど。

 …………ね、寝不足かな?

 

「ほーちゃんさっき、中庭いた?」

「え? いぃや?」

「見間違いか……?」

 

 中庭に見たほーちゃんっぽい人。そっくりさんだったのか?

 あんな立派なものそうそう持ってる人いないと思ってたけど。

 世間って狭いんだなぁ。まつを。

 

「さ、教室戻ろ。ていうかなんで()()()()()()に?」

「こんなところ……?」

「ここ旧校舎だよ」

「え゛っ」

 

 この学校旧校舎なんかあったのかよ! んでなんで私そんなとこ歩いてんだよ! まんまホラーじゃん!

 

「嘘でーす」

「オ゛イ」

 

 やっぱ鼻輪(ピアス)つけてやろうかコイツ。

 

 

 

 奇妙な一日だったなと、自転車を片足の力だけで漕ぎながら思い返す。

 四限目の理科以外はノート取ったし、これで優も浮かばれるだろう。

 草葉の陰でないてるわ。虫が。

 あと、電動とはいえ、明日左片足だけ筋肉痛になってるやつだなこれ。

 明日体育あったっけ。ことと次第によっちゃ死にかねない。

 スマホに時間割の写真があったはず。確かめとこ。

 

 信号待ちの間、私はポケットに手を入れた。

 重たげなスマホの動作に少し焦る。信号機は気が短いから。

 ちょっと思ったのが、スマホに見覚えのない木の写真とかが残ってたらどうしよ、っていう。

 夜中トイレ行く時とか、求めてないのに頭が勝手に想像しちゃうやつ。

 現実じゃそんなこと起こりえないって、わかってはいるけど。ついね。

 

 で、無事帰宅。やっぱり特に何もなかった。

 左足が乳酸でパンパンになったくらいかな。ちょい憂鬱。でも明日体育なかったからギリセーフ。

 のっそりした動きで自転車を停めていると、家の駐車場の……なんていうんだろ、コンクリートを仕切ってある砂利の線みたいな溝。

 そこに、いつの間に生えてたのか、タンポポ? っぽい花に目が止まった。

 なんていうか、形が変だ。

 花って大体丸い形してるけど、この花はちょっと……細長いというか。

 花びらがおかしいのか? 奇形っぽくてちょっとぞくっとした。

 こういうの植物でもあるんだ。足が多いカエルとか二つ首の蛇はネットで見たことあるけど。

 

「……あ」

 

 今気付いたけど、他のタンポポも合わせて見てみると。

 

「ニコちゃんマークじゃん……」

 

 よく見る絵が浮かび上がった。

 言い逃れできないくらい人の顔じゃん。

 写真撮っとこ。

 

 私がスマホを取り出すと同時、着信が鳴った。

 ほーちゃんだった。

 

「もしもし? どったの?」

「まーちゃん! よかった、繋がった……!」

「え、あ、ごめん自転車必死で漕いでて気ぃ付かなかったかも」

「そっか……」

 

 えらく慌ててるな。なんだろう。忘れ物したのかな私。

 

「ちゃんと家に帰れた?」

「うん。それで、どうしたの?」

「あー、ちょっと頼み事があるんだけど、今大丈夫?」

「頼み事? ちょっと待ってて、今から家入るから」

「あ、まだ外……わかった」

 

 玄関を開けて、靴を片付ける。

 とりあえず手を洗おう。洗いつつ話を続けよう。

 スマホを肩で耳に当てながら、私はその頼み事とやらを聞いた。

 

「で、何さ頼み事って」

「えぇっと、怒らないで聞いてね?」

「うん? うん……」

 

 いつになく真剣な声で、ほーちゃんは口火を切った。

 

「下ネタ言ってくれない?」

「お前大丈夫か?」

 

 頭を強かに打ったのだろうか。

 それとも酒に手を出したのだろうか。

 なんにせよ、今後の友人関係に大きく影響しそうなことなんだが。

 

「怒らないでよぉ……! マジで頼むからぁ」

「いや、怒ってはいないんだよ。純粋に疑問。なんで?」

「……理由言うと意味ないから言えない」

「はぁ? なんじゃそりゃ」

 

 録音してるとか? いや、仮に録音した友人の下ネタを言う声があったとして、どういう用途が考えられるというんだ。ほーちゃんは不特定多数にバラまいたりとかしないし。

 意図が理解不能。いや、マジで。

 

「できれば水場で!」

「追加注文来た……」

 

 つまり、ここでしろというわけか。

 うーーーん。

 

「……わーかったやる。やったげるよ」

「ほんとぉ!? よかった……!」

 

 安堵の息が電話から聞こえてくる。

 

「なに安心してんだよキショいぞ」

「ほらそんなことはいいからはよ!」

 

 花も恥じらうお年頃の乙女にこんなんさせるとか、罪なやつだな。

 ま、しゃーない。ノート取ってもらったし、対価だと思ってやってやろう。

 

「■■■。■■■■。■■■■。■■■」

「語彙がガキ過ぎるよ! もっとエグいので!」

「えぇー? しょうがないなー。■■■■、■■■■、■■■■、あ、あと■■■■とか?」

「最後急にギア上げるじゃん。いいね!」

「■■■。実況すんな。あぁ■■■■■とかもあったな。他はー……」

 

 

 

 というわけで、この謎の下ネタ大会は10分弱続いた。

 どういうわけだよとか、今更考えるのはやめた。たまにあるのだ、ほーちゃんの奇行は。

 結局、ほーちゃんは何に満足したのか知らないが、通話を一方的に切りやがった。

 わけがわからないよ。

 

 閑話休題。

 

 友人への微妙な感情を抱えつつご飯を済ませて、私は自室で課題に勤しんでいた。

 そして面倒臭がりながらもちゃんとやり終える。私えらい。

 

「んうーー……」

 

 腕ごと背を反らして伸びをする。

 血流が一時的に早まり、凝った体を温めていく。

 脳みそにも新鮮な血が通い始めた感覚。すると、不意に脳裏をよぎる情報があった。

 駐車場の、ニコちゃんマークのタンポポだ。

 

「……あのタンポポまだ撮ってなかったな」

 

 そういえばと思い出したが、もうすでに日が暮れてしまった。わざわざ撮りに行くのも面倒だ。

 でも、あの奇形にはちょっと興味がある。

 ググってみよう。スマホスマホ。

 

「花、奇形で出るかなー、っと? ……うわ」

 

 調べてみると、まさしくこれって感じのが出た。

 候補の一番上、Wikiのタイトルには「帯化」とだけ書いてある。恐らく学術的な正式名称なんだろう。

 タップしてページに飛び、概要のところを開く。

 

 帯化(たいか)は、植物の茎頂にある生長点で、頂端分裂組織に異常が生じることで起こり、茎や根、果実、花などが垂直に伸長したり、リボン上に平坦になるといった外見的な変形が見られる。以上、原文ママ。

 

 原因のところも見てみると、どうやら木の瘤と似たような雰囲気を感じれられる。

 つまりは植物の奇形の一種だ。でも瘤杢(こぶもく)だと特に何も感じないのに、花となるとなにかウッとなって、目を背けたくなるのはなんでだろ。

 アレかな、花は本来美しいものって先入観が、奇形っていう外れたものへの忌避感になるとか?

 まぁ、間違いなくあのタンポポは世界に一つだけの花だな。

 

 明日、覚えてたら写真撮るか。

 そんで、インストしてからほぼ触ってない某SNSにでもアップしよう。

 バズるかな。バズるといいな。

 でも、炎上は勘弁だけどね。

 花だけに。

 ははっ。

 

 

 


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