〈ヒナ〉
「……ヒ、ナ………?」
寝ていた身体の上に感じる確かな質量により意識が少し覚醒する
未だぼやけている視界を通して見えるのは大きな翼と冠を彷彿とさせる浮遊体。その浮遊体の下には白いなにかが見える。
その浮遊体がキヴォトスお馴染みのヘイローであることに気がつくのはそう難しいことではなかった。
まだ覚醒していない頭で、冠のようなヘイローを持ち大きな翼があり、白いもふもふ(そうな)髪を持つ人………
思い当たる名を口に出してみれば、その言葉を待っていたかのような仕草で口を開く
「あ…先生、起きたちゃった?」
「…なんで、私の上に…?」
普段のヒナからすれば考えられない行動の上、月光に照らされた顔は少し赤みを帯びているように見える
「先生が悪いのよ………私の前でアコ達とイチャイチャして……」
………ほんとにどうしたのだろうか?アコ達とイチャイチャしたことは一度もない上、その言い方ではヒナは嫉妬しているように受けられる
頭の中が混乱と睡魔にやられている中、ヒナは続けて言葉を発する
「先生は私の髪を嗅ぐのが好きだよね………いつもやめてって言っても聞かないくらい無理矢理嗅ぐし……」
……無理矢理嗅いだことは………片手で数えられるくらいしかないと思うのだけれど……そもそも嗅いだことも片手で数えられるくらいだし…
「だから、先生が無理矢理好きなことをするなら……私もやっていいってことだと思うの」
………………あヤバい、一瞬寝てた。ヒナが何か言ったかもしれないけど、多分そこまで重要じゃないよね…
ヒナの言葉を聞きながら睡魔に抗うという行為を行っている先生。
普段のヒナの声は、儚くも力強い。しかし今のヒナの声は力強さが失われており、儚い声を絞り出すかのような、これからしようと思っていることに対して緊張しているかのような声を出している
「………無言は、肯定とみなすわ」
そうつぶやいた直後、ヒナの顔が首あたりに近づき――――
「…………っ!?」
キスを落とした
いきなりのことで驚き、固まっている私を置いて更に言葉を紡ぐ
「……これだけじゃ他の子に取られちゃうかもしれない……」
そう言って再度首に近づく。それに抵抗することもなくただ見つめることしか出来なかった。そして―――
「………っ…」
吸い付いた。
いや、正確には噛みついたが強くは出来ず、少し悩んだ末“痕”を付けるために吸い付いたのだ。
しかしその吸い付きは優しさがにじみ出ており、痛みや吸われたとき特有の引っ張られる感覚もほとんどなく、少しムズムズする程度だった。
「ち………ゅ…………ん……」
皮膚は彼女の唾液で濡れており、少し柔らかくなっている。
ぴちゃ、ぴちゃと音が少し鳴り続け、吸い付きも何度か繰り返される
熱い吐息が首に当たり、また吸い付く。そのような事が複数回続いた
程なくしてヒナが首から離れた。
「…これで、先生は私のモノ……♡」
「じゃあ…またね、先生…」
そう言い残して、ヒナは扉に向かって歩いていく。
ふと何かを思い出したのか、急に踵を返しこちらを向く
「そうだ、先生」
「明日も来るからね……」
そうして扉から出ていく
あとに残ったのは月光に照らされた、赤く光る痕だけだった
〈シロコ〉
「ん、先生。やっときた」
言葉の主は、白く美しい髪持ち、それを惜しげもなく風にさらし、たなびかせていた。
こちらをじっと穴が空くほどに見つめてける眼は大空を想像させる水色であり、左右の瞳孔の色は違えどもその力強さは左右変わりなくみえる
「ごめんねシロコ、遅くなっちゃった」
「ん、問題ない」
遅れたことを謝罪すればシロコは気にした様子も見せずに頷く。
それを確認した私はシロコのそばに行き、イスに座る。
「それで、相談したいことがあるんだったよね?」
今回シロコの元に訪れた理由は、少し前に電話で『先生、少し相談したいことがある。明日来て』という簡単な旨を伝え、直ぐに切ったことが始まりである。
「ん、そう。相談したいことがある」
そう言った途端、シロコの瞳に鋭いものを感じた
決意を固めたような、決心したような。そのようなことを感じた
「内容はなにかな?進路?銀行強盗の相談は受け付けないよ?」
「ん、どっちも違う。それに銀行強盗はセリカ達とやるから問題ない」
「問題しか無いと思うんだけどね……」
そう言えば、心外だと言わんばかりに見つめてくるシロコ。
………心外と言いたいのはこちらなんだけどね...
「じゃあ、何について相談したいの?」
「ん、それは……」
グイッ、と一気にシロコが近づいてくる
そして握手できる距離にまで近づいてきた
そしてワタシの顔に手を伸ばして――――
「むぎゅっ……!?」
両手で頰を包んできた。
そして感触を確かめるような感じでムニムニと触り続け、少し経った後離れた
満足したのか、と思った時にはシロコの顔がすぐそこにまで迫っていた。慌てて後ろに下がろうとすれば、何かにぶつかった。
振り返ってみれば、すぐ後ろに壁がある。
また、顔の距離が近づき――――
「ん……っ………!?」
唇を塞がれていた
柔らかく、温かな感触が伝わってくる
「んーーーっ!?」
急いで離れようとするも、悲しいかな。私とキヴォトス人の力では差がありすぎる故、逃げることもできない。その上しっかりと両手で頭を押さえられてしまっているので本格的に逃れることができない。
そのまま口に舌まで入れられ、余すことなく口内を蹂躙される。
上顎なども舐められ、そのまま私を食べてしまうのではないかと錯覚するまで口内を蹂躙され続ける
「ん……んん、………んーーーっ!」
ぬるりとした舌が絡まり合い、両者の唾液が混ざり合う。
息が持たなくなり、空気を肺に取り入れるために口を離せば、すぐにまた塞がれてしまう
「……は……むぅ……!」
恋人がするような激しいキスにより、頭が真っ白になっていく。
時間が経てば経つほど考えがまとまらなくなっていく
「ちゅ………ん………」
時間が経つにつれて足に力が入らなくなり、膝から崩れ落ちる。
そう思った矢先、シロコが支えてきてキスは続く
「……ん…………♡」
シロコが上から吸うような体勢になり、ますます激しくなっていく。
もはや唾液もどちらの、という区切りは消え、二人で一つのもののようになっていった
私にできることはただ受け入れることしかなく、蕩けるような感覚に身を任せてはいけないと(ほとんどない)理性が訴えかけて来るが、それに従う判断力を持っていなかった。
「……はーっ…………」
どれほどの時間が経ったのだろうか。シロコは名残惜しそうにしながら顔を離していく
「……は………う…………っ………ぅ……」
視界がぼやけ、意識が離れていく感覚を覚える。
かすかに見える視界が教えてくれたのは、私の様子を見たシロコは満足したような表情を浮かべ、言葉を紡ぐ。
「ん、先生はこれで落ちた♡みんなには悪いけど、早い者勝ち」
それを聞き終えた後に、私は意識を手放した
〈カズサ〉
「遅くまでお疲れ様です。先生」
シャーレの扉を開けて入ってくるのは黒い髪にぴょこんと動く猫耳。
こちらを見つめる瞳は、紅く美しい色を持ち光を受けて輝いている。
女子高生らしい生き生きした様が受け取られる
「……こんにちは………カズサ……」
「うわっ先生酷い隈。仕事のしすぎだよ」
「片付けた分の倍流れ込んでくるからね…」
カズサの言う通り、私の顔には今酷い隈があるだろう。
今二徹目なのだ。絶賛三徹目に突入しそうである
「こんな夜遅くにどうしたの?なにか困りごとでもあった?」
「ううん、違うよ。ただ、一つ忘れ物をしちゃったことを思い出したの」
カズサは昨日の昼間も来てくれて、仕事を手伝ってくれたのだ。…………あれ、昨日だっけ、今日だっけ?
「ならその忘れ物も取ったら早く帰りなね。カズサは可愛いんだから夜は危険だよ。まぁそもそも女性が一人で帰ること自体が危険だけどね」
ハハハ、と乾いた笑いをこぼす。そうすればカズサはなにかつぶやき続けている様子を見せる
「……うん。……これはもうそういうことだよね……」
「ん?カズサ、なにかさっきから言ってる?」
その内容を聞き返してみれば「なんでもないよ先生」と教えてくれないようだ。しばらくカズサの自問自答のようなものが続いた
そして―――
「先生、ちょっとお願いしたいことがあるんだけどいい?」
「もちろん。今は判断力が低下しているからほとんどのことは聞き届けられるよ」
「それは問題だと思うけど……まぁちょうどいいや。ちょっと失礼するね」
そういうとカズサは私の膝の上に乗ってきた。……なにか問題がありそうだけれどその問題が出てこない。……何の問題も無いのかもしれない…?
そのような思考に浸っていればカズサが私の服を脱がしてくる………ん?
「ちょっとなにやってるのカズサ!?さすがに駄目だよ!?」
「ち、違うよ先生!?そうゆうことじゃないよ!」
「あ、ならどうぞ」
「急に落ち着かないでくれる!?」フシャー!
ごめんね、と謝ってからカズサの好きにさせる。
「ちょっと痛いかもしれないけど、許してね先生」
「……え?痛いってどういぅっ!?」
かり、となにか鋭いものが私の肩に突き刺さる。それにだけでは飽き足らず、更に力強く牙が食い込んでくる
みちみち、と肉が悲鳴をあげる。不意になにかの記憶がフラッシュバックする。
轟音が鳴り響く。ナニカが腹を通り過ぎ、肉をえぐる感覚を覚え、鋭い痛みを感じ得る。
その肉が抉れる感覚を思い出し、反射的に仰け反ろうとする。しかしそれをカズサは抑え込み、痕を残し続ける。
「……っ……あ……!」
ぷつり、と、皮膚はあっさりと貫かれ、その下にある薄い膜までも破いていく。
鋭い牙は目の前にある肉に抵抗もなく食い込んでいき、少しづつ牙が肉へ沈んでいく。
「あ……あぁ………あ……!」
みち。
牙が沈んでいくごとに嫌な音が聞こえてくる。恐怖が絶望へと繋がり、悲鳴をあげる喉から空気だけが抜けていく感覚を覚える
「……っ!…………っ………!」
声にならない悲鳴をあげる。肉が裂け、そこから血が止めなく溢れてくる。そのたびに頭が真っ白になっていく。
思考がまとまらない。言葉が出てこない。やめてくれと懇願することもできない。
その絶望が心を蝕む。目がかすみ、意識が朦朧としてくる
また力が強く加わった。不意に
ぷつん。
「………ぁ……………」
と音が鳴る。それと同時に私は―――――
――――意識を手放した
「ふぅ……これくらいで痕が残るかな…って、先生落ちちゃったか…。」
「まぁでも私も今まで何度も警告してきたから………しょうがないよね♡」