「お主、死んだんじゃよ」
白い空間で俺は優しそうなジジイにいきなりそう言われた。
俺は混乱した。
俺の最後の記憶は劇場でガンダムNTをみていた事だ。
MSが光速を超えたりまるで時を巻き戻したかのような事をしたり死後の世界が存在する事など俺にとっては新事実が沢山あった面白い作品だった。
「コラコラ、現実逃避をするんじゃないんじゃよ」
じゃよが語尾の怪しげなジジイがなんか言っとるが、これはどういうことなのだろうか。
「だから、お主は死んだんじゃよ。そしてガンダム世界に転生させるんじゃよ」
あれか、神様転生というやつなのか。
俺は不思議とすぐに理解した。
混乱も落ち着いてきた。
「ガンダム世界? どういう事ですか?」
「もう決まった事じゃ。あとは好きに生きるが良いのじゃよ」
このジジイ答える気がなさそうだ。
チートとかくれるんだろうか。
「せめて暦だけでも! 西暦ですか未来世紀? まさかまさかの正暦とかC.Eとかじゃないですよね」
「安心せい、宇宙世紀じゃよ。それとあげられるチートはそうじゃな。健康な肉体じゃな」
それだけかい……ニュータイプ能力はないんですか!
いやいや、まぁ健康な肉体だけでも有難い限りだ。
アムロやシャアのいる宇宙世紀じゃないか!
MSのあるあの世界にこれから行けるのか。
戦争は怖いが、MSやスペースコロニー、宇宙戦艦、そんなものがある世界に行ける事を喜ばない男がいるだろうか!!
「わかりました。ありがとうございます、神様。ジジイなどと思ったのは警戒していたからですお許しください。」
「うむうむ。わかっておるのじゃよ。そろそろ時間じゃよ」
俺はワクワクしながら転生した。
一年戦争やグリプス戦役にどう関わるかを考えていた俺が生まれたのは宇宙世紀270年の事だった。
それはちょうど現在の地球の統一政府であるセツルメント国家評議会が滅ぶ大災禍と呼ばれる事件が起きる5年前のことだった。
「きゃきゃ〜きゃきゃ〜(ガンダム世界か〜、待ってろよ〜♪、アムロ〜シャア〜カミーユ、ジュド〜、バナージ〜、ハサウェイ〜♪ それにおまけにコウ・ウラキ〜♪、あっ、それそれそれそれ、人参いらないよ)」
「サムは元気な子よね。今も歌って笑ってるわ」
母親がそう言って現実逃避に歌っている俺に笑いかける。
俺の新たな名前はサム・バーナム。
ごく普通の地球にある一般家庭であるバーナム家に生まれた元気いっぱいの男の子である。
まぁこんなアホな歌を何故歌っているかというとだな。
部屋の空中に浮かぶホログラム映像から流れているニュースを見ればわかると思う。
ホログラムですよ奥さん……。
「今年は宇宙世紀270年、セツルメント国家評議会によって旧地球連邦政府が隠匿していたニュータイプ技術が広まって10年が経とうとしています。我々は苦しい食糧難や地球への深刻な環境破壊を繰り返す時代から解放されました。人類が夢見た豊かな社会の実現が目前となりつつあります。もう労働に囚われる必要も死者との別れを悲しむ必要もなくなるでしょう。我々は高次元の生命体になる事も可能なのです。今日は最新のサイコミュフードレプリケイターや昇華の儀式に関する最新情報をお送りしたいとおもいます」
てなわけで俺の生まれた先はなんとはるか未来の宇宙世紀270年だった。
それも宇宙に生活環境を作り出すSF技術のスペースコロニーや核融合炉で動く巨大ロボットであるMSなんて目がないぐらい技術が発展した平和な世界だった。
話してる内容は戦争とはかけ離れたもので、平和の一言。
ガンダムのガの字もないくらい豊かに暮らしてる。
そもそも俺の知っているキャラクター達はみんなもう死んでいるのだった。
ウッソだと言ってよバーニィー!
てな感じが俺が転生させられたこの世界に対する俺の第一印象だった。
そんな感じを俺は一生忘れられずに過ごす事になる。
それから5年後、俺は5歳になった。
時は宇宙世紀275年、平和で豊かに暮らしていた俺はガンダム愛を忘れられずにいた。
MSもほとんどないような平和な時代なの中で俺が向かう先は過去だった。一年戦争、グリプス戦役、シャアの反乱、インターネットで当時の戦争資料を漁り、五歳児らしからぬ言動で事実を検証した。
今の統治機構はセツルメント国家評議会という地球連邦が崩壊した後の組織だ。
それゆえに地球連邦時代の資料の検証というのは比較的自由に行うことが出来た。
世の中にニュータイプ技術、サイコフレームなんかを用いた技術が溢れかえっているのもそれに拍車をかけた。
連邦はこんな便利な技術を秘匿していた、他にも何かあるに違いないってみんな思っているみたいだった。
そんな世の中に助けられて俺資料を漁っているのが日々の日課だった。
両親は天才だと甘やかしてくるがこちとら人生二周目、このぐらいはできる。
この世界は概ね映像作品と同じ歴史を辿っていたし、資料の間違っていた部分を記憶を頼りに証拠を探して訂正したら一躍ネット上で博士扱いを受けるようになった。
5歳児にして天才少年とかちっさいメディアで取り上げられたりもした。
「ルーも大きくなったらMSの良さがわかるかな」
「どうかしらね、女の子にはあまり機械のことはわからないかも知らないわね」
実はルーという妹も出来たのだ
前世では一人っ子だった俺は妹と話せるようになるのが楽しみだった。
赤ん坊の今はこんなに可愛いのにいつかはお兄ちゃんだなんて大っ嫌いだなんて言われて兄妹喧嘩をするようになるのだろうか……なんてちょっと冷めたことを考えている5歳児だった。
まぁそう言った日々は楽しかった。
でもそれもあっさり終わりを告げた。
その日は宇宙世紀275年の俺の誕生日だった。まるでアクシズ落としを防いだ時のような膜が地球を覆うと宇宙とのありとあらゆる通信が阻害されるようになったのだ。
そして時を置かずに各地に謎のMSが湧いたのだ。
サイコフレーム技術の発展によってもたらされたものは多岐にわたる。
光速を超える宇宙船に、食料生産システム、死者との通信に、時を超えた通信網。
死者との通信と時を超える通信はひとえにカイラル通信と呼ばれ、多用された。
遠く宇宙の果てのコロニーともタイムラグ無しで膨大なデータのやり取りを可能にし、死者とも会話できた。それは生と死、時と距離を超えて人々を繋げた。いずれはテレポーテーションなんかもできるのではとも聞いた。
だがそれは禁忌とも言えるものに足を踏み込んでいた。
カイラル通信によって引き起こされたのは大災禍、のちにデスストランディングと呼ばれる現象の発生だった。
地球全土を覆うオーロラにも似たサイコフィールドが発生し、時雨と呼ばれる触れたものの時間が加速してしまう雨に加えて、BTと呼ばれる過去の亡霊たるMSの出現、カイラル通信網は機能を失い、世界は分断された。
そんな大混乱の中で天才5歳児だった俺はその混乱の中で数少ないツテで歴史研究の専門家にいくつかと連絡を取り、学者グループの避難先に入れることになった。
いわゆるインテリのコネだ。評議会の軍の保護を受けれるようになった。
だがそこへ合流する途中に混乱した暴徒から俺、いや妹のルーと俺を守って俺の今世の両親は亡くなった。
軍の保護を受けれるようになったとは言ってもこの大混乱で評議会は崩壊寸前、ボロボロになりながらの逃避行だった。BT、座礁体と呼ばれる死後の世界からと思われる幽霊のようなMS、さらにはBTとの接触で起こるヴォイドアウトと呼ばれる対消滅反応。
この未曾有大災害を前に俺は残された最後の家族である妹のルーを守れなかった。
そして俺だけが生き残った。
逃避行をする中で俺は対消滅反応に巻き込まれたはずなのに俺だけが生き残った。
そんな中でたどり着いた先は旧アメリカ大陸だった。
国名はあれどそのトップは評議会だったけれどもアメリカ大統領は今もいた。女性大統領だった。その大統領は通信網の断絶の混乱の中も奮闘していて、発見された俺を暖かく迎え入れてくれた。
そのまま実験体まっしぐらだった俺を守ってくれたのだ。
大統領の名はブリジット、俺を養子に迎え入れてくれた。
バーナムの名を捨て、サム・ブリッジスという名になった。
逃避行で疲れ切っていた俺は涙を流してその新しい親に感謝を伝えた。
ブリジットには娘がいた。
名をアメリという、金髪の可愛い女の子だった。
会話することはあまりなかったが話す時はそれなりの関係を結べたように思う。
家族とは行かないまでも友達ぐらいには……。
それからはブリジットの保護の下、実験に参加することになった。
流石にこんな危機的な状況で何もしないで守られているというのはどうにも落ち着かなかったからだし、いかに大統領の保護下といえど特殊な力を持っている以上は、だ。
ブリジットがいなければ今頃全身解剖されていただろうと考えざるおえないし、それを考えればマシな日々だった。
そして俺にはある力があることを知らされた。
なぜ妹を失った俺だけが助かったのか。
黄泉がえりの力だ。
それはBTに殺されてもなぜか復活する力だった。
研究者に言わせればBTと同じく死者の世界に俺の本体はあるらしい、だからこちらでどんなことがあっても帰ってこれると。
Doomsなんてカテゴライズもされた。
俺みたいな能力者のことを言うらしい。
ニュータイプと何が違うのかと、デスストランディング という環境に適応した新たな人類ならばニュータイプでいいだろうにと俺は思った。
BTとの戦いは倒してもキリがなくもうダメだと思ったが、俺はBTに殺されても復活する。なんだかんだと生き残り続けていた。
BTに遭遇しても死なない俺は各地の都市を巡り、物資や情報を届ける運び屋として過ごすことになった。
MSに乗り込んで戦うこともあった。
大災禍の混乱の中でBTに立ち向かおうとつくられた機体で初代ガンダムに似せて作られた機体だった。最新鋭機などを作れる余力はどこもなかった。過去のデータをサルベージして作る程度で。
出てくるBTはジムやザク、たまにMAなんかもいるし、ジェガンやギラ・ドーガなんていう戦乱後期のMSも出てくる。
それに倒しても倒してもキリがない、亡霊どもだ。
俺を研究する学者連中はわからなかったようだが、俺自身はわかっていた。俺が諦めればすぐにこちらの世界に帰らずに楽に死ねると。
だが惰性で生き続けていた。
ルーの分まで生きなければいけないという気持ちだけで何度もこの世に帰ってきた。赤子だったルーや俺を守ってくれた両親は幸せなどこかに転生しているだろうか。
そんなこんなで気づけば20年俺は運び屋を続けていた。
俺に対する研究もあまり進展がなかったのか、拘束もいつしかなくなり俺はほぼ無所属の伝説の運び屋サム・ポーター・ブリッジスとしてその名を知られるようになっていた。
そしてあの依頼が俺の元にやってきた。
「連邦再建?」
「そうだ。南米ジャブローで発見された連邦憲章と独自改良されたカイラル通信を用いてアメリカを繋げなおす。さらには地球全土を繋ぎなおす。そしていずれはあのフィールドを超えて宇宙全体を繋ぎなおす。過去にあった地球連邦ではなく、宇宙全体の人類を繋ぎなおす。評議会なんて目でもない。これはただの人々をつなぎなおす連邦をつくりだす人類再建計画なんだ」
「ずいぶん夢のあることだな」
「あんたの養母でもあった大統領の悲願さ」