どうしてもマチネとソワレのクロスオーバー作品で見たかったんですよね。書いてて楽しかったんですが、どうしても戸籍とかそういうのどう消化すればいいか悩んで頓挫しました。とはいえ此処まで書いたなら勿体ないなって思って供養がてら冒頭だけ上げます。マチネとソワレ面白いので是非とも読んでください、面白いので。

※本作はpixivにも上げております。

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アクタージュの舞台設定が東京なのかな?とりあえず勝手な印象でそうさせています。どうしてもマチネとソワレのクロスオーバー作品で見たかったんですよね。書いてて楽しかったんですが、どうしても戸籍とかそういうのどう消化すればいいか悩んで頓挫しました。とはいえ此処まで書いたなら勿体ないなって思って供養がてら冒頭部分だけ上げました。マチネとソワレ面白いので是非とも読んでください、面白いので。


タクシーが送る先間違えたんだ

 

 

 

 三ツ谷誠は俳優だ。演技も上手く、活躍も上々。話題になる程には売れており実績はあるのだが、当人の性格は決して明るくなどなかった。少し猫背で俯きがち、口を開けばおどおどと挙動不審になる。客観的に言えば頼りないという印象を持つ青年だが、彼は台本を持てば人が変わった。

 

――芝居は救いだ

 

 誠は常に考えていることだった。口下手で何を話せばいいのかわからず、人の輪にも入れない。聞かれても口を開けば噛んでしまう、昔からそうである。そんな三ツ谷にとって言うべきことが全て書いてある台本は【聖書】だった。台本があれば何も怖くはなかった。普段から絶対に言えない過激な言葉も、歯の浮くような甘い睦言もすらすらと言える。

 

 舞台の上は自由な世界だった。自分の中にあるわずらわしさを全て取っ払ってくれる。この世で唯一『生きている』と感じられる場所を、三ツ谷は舞台で見出した。三ツ谷は正しく俳優という生き物だった。俳優としてしか生きられない、そんな生き物。役作りとして完全に性格をトレースしたし、うんこを一万円札で拭いたりもした。俳優としての演技には真摯に向き合ってきた筈だが、それでも周囲は誠のことなど知りもしない。

 

『さすが二号様ってカンジだよ』

 

 二号、じゃない方。呼び名はさほど多くはないが誠はいつもそう呼ばれていた。二号というのだから当然一号はいる。一号の名前は三ツ谷御幸。苗字から察する通り誠の兄である。御幸も役者であり、誰もが認める演技力を併せ持っていた。

 

『三ツ谷御幸の弟だから当たり前』『三ツ谷御幸の弟だから贔屓にされてる』『三ツ谷御幸と比べると実力不足』

 

 誰もがそう評価して誠を見ようはしない。いつだって誠は三ツ谷御幸の代わりでしかない。彼が死んだとしてもそれは変わらず、寧ろそれは余計に酷くなった。今だって記者会見で聞かれることは兄のことばかりだ。

 

『やりにくくはありませんか?常に三ツ谷御幸さんと比べられてしまうことに対して』

 

 やりにくいに決まっている。いつも比較されて認めて貰えないのだから。思い切り言ってしまえば良いのに、誠はその場の空気を読んだ。会見の場だ、本音なんて言える筈もない。その場で自虐して笑いを取ることに徹した。皆笑っていた、どっと響くその声が耳から離れない。

 

 その後は人知れず誠は今日も扉に頭を打ち付けた。一人になれるトイレの個室でガンガンと。扉の向こうでマネージャーが誠を慰めるも、興奮した誠に届くことはなかった。額から血が出ることも厭わぬまま、誠は外に出る。適当なタクシーを捕まえて、自宅へ行くように頼んだ。

 

――兄貴は奪っていく、荒らしていく。俺の大切な場所を

 

 努力して努力して、更に努力して。死ぬほど努力してやっとチャンスをつかんでも、小さな成功をいくら積み重ねても、兄の影を振り払えはしない。兄は既に死んでいるのに、光が増せばその影はハッキリと浮かんだ。車内で誠の眉間に皺が増える、わななく口は悔しさから出るものだった。自宅に着くなり誠は和室に入る、襖を開けば目の前には仏壇。対照的に灯る蝋燭の火の中心には遺影が一つ。見慣れた兄の顔が忌々しく額縁の中で笑っていた。誠は兄の遺影を持つなり報告を始める。

 

「俺…、柁原さんに主役指名されたよ!」

 

 報告というにはほど遠く、それは自慢だった。兄が選ばれたであろう、『バニラフィクション』。遺影を持って誠は兄に言う。柁原が今まで指名していたのは兄だった、それでもやっと誠が掴めた。これは自信で、皆を出し抜けたと思っている。

 

「ずっと兄貴に敵わなかったけど、やっとここまで来たんだ」

 

 これでやっとみんな俺を認めてくれる、零れた言葉はすうっと胸の中に入って来た。そうだ、これで俺は兄貴から自由になれる。切実な誠の願いだった。誰よりも望んでいたことだった。だが会見はそれを許すことはないのだ。

 

『兄と比べたらボクなんか、素人同然の棒演技ですから』

 

 誠は結局そう言った。一番受けが良い回答を誠は知っている。兄を使った自虐ネタ、これだけで皆笑ってしまう魔法の言葉だった。二号なんだからこれが当たり前だ、同時にそう言われている気がする。『三ツ谷御幸の弟』じゃなく、ただの『三ツ谷誠』になれると思っていたのに。未だ尚逃れられぬ影に首を絞められるような感覚がする。息が上手く出来ない、誠が苦悶の表情を浮かべる中、その背後で襖が開く音がする。

 

「あら、帰ってたの?こっちに来るなら連絡くれれば良かったのに」

 

 振り返らずとも分かる、母の声だった。誠は暫く黙り込んで口をようやく開く。

 

「母さん……、今日すごくヤなことがあって…最高の日になるはずだったのに…、なのに…」

 

 ぽつりぽつり、思い思いの言葉を口にするが母親はその小さな声に気付くことはなかった。

 

「お隣のワンちゃんが仔犬を産んだのよ」

 

 良いことがあったように、母親は誠に話す。

 

「すっごく可愛くてね、写メ見せてあげるわよ。 御幸(・・)ちゃん」

 

 穏やかに笑いながら、誠はまたその存在をかき消された。

 

「俺は……、俺は誠だって…!」

 

 憤慨して振り返ると、母親は不思議そうに首を傾げていた。言いかけた言葉は呑み込まれる。自分を兄と見間違えることはいつものことだった。御幸が死んだことは彼女の中にはないのだから。医者が言うにはショックによる記憶混同がそうさせているらしい。御幸が死んだことを受け止められなかったのでしょう。更に否定すれば更に混乱させる恐れが、思い出して誠は自分が誠であると主張することを踏みとどまった。

 

「御幸ちゃん?」

 

 ゆっくり立ち上がって振り返れば不思議そうに母親は首を傾げる。

 

「夕飯は何が良い?今日は泊まっていくでしょ?」

 

 母親らしい愛情のある言葉だった。だが向けられている対象は誠ではない。俯く表情は無だった。ふー、大きく深呼吸をして感情を切り替える。

 

「……、」

 

 掌を大きく広げて人差し指で文字を書く。ひらがなで一文字一文字、文字を重ねた。【み・つ・や・み・ゆ・き】。丁寧に六文字書いて、それを口の中に放り込む。味なんてしない、入って来るものなんて空気だ。それでもそうしなければ誠は誰かに成れなかった。ブルブル、頭が大きく振られて髪が乱雑に散らばる。ガクンと首がだらしなく左右に揺れて、首がパキッと音を立てた。

 

「今日は、()、すぐ帰る」

 

 その眼は気怠そうに母親を見ている。

 

「僕、また(・・)柁原のおっさんと仕事するから、その報告に来ただけだし」

 

 両頬を指で押し込んで唇を尖らせる、兄はいつもする癖を再現すればもう母親は御幸と錯覚した。

 

「そう!すごいじゃない!そうだ!昨日の舞台もすごく面白かったわよ!」

 

 誠は兄を演じて、母親がいつものように喜ぶ。それが母親とする会話だった。

 

「本当に御幸ちゃんいい役者さんになったなぁって、」

 

「あー、もうやめろよ!身内にベタ褒めされたってキモチ悪ィだけだっつぅの!」

 

 手を離し、首を傾けて上を見上げる。

 

「舞台が面白かったらそれは七割方脚本と演出の功績だし」

 

 カクン、首をまた傾けて頬に手を置く。むにっと、指を押し込めば唇が形を変えた。後から来た誠の父もその仕草に見入る。あれは生前、御幸がした仕草そのものだった。にっと笑った口角の吊り上がり方も、よく知っていた。

 

「僕は、たかが役者だから」

 

 誠の真横で御幸が確かにダブって見えた。御幸、脳裏で過ぎるあのもう一人の息子を思い出せば父親の目には涙がとめどなく溢れていた。

 

「あら、お父さん」

 

 ようやく存在を認めた母が父を見れば泣いた顔が見て驚いた様子だ。

 

「やだ何?どうしたの?」

 

「す…すまん、何でも…」

 

 本当のことなど言えない様子で誤魔化し男は誠の方に手を置いて小さく声を掛けた。

 

「…誠。ダメだな、何度見てもドキッとしてしまう」

 

 眉下を下がらせて父親はまたはらはらと涙を流す。本当に御幸が生き返ったように思えて、そう言われて誠は少し俯いて肩を払いのけた。

 

「ねぇ、久しぶりに家族全員そろったしお線香あげましょうよ」

 

 誠くん(・・・)に、遺影の中には兄が居る。だが遺影を持った母親は屈託もない笑顔でそう言った。あたたかい言葉なのに、とても残酷で。誠はその後のことなど覚えてはいない。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 適当なタクシーを捕まえた。水玉の、派手な色をしていた気がするがどうでもいい。疲れていたので、とにかく座りたかった。行先も告げず適当な札を何枚か渡す。この金額分だけ行けるとこまで。そう頼めばタクシーは走り出した。

 

「……、」

 

 誠は一人窓の外を眺める。外は真っ暗で外を見てもビルが駆け抜けているようにしか見えなかったが、誠は呆然と外を見ていた。

 

――兄貴が死んで5年たつのに、未だに世間は兄貴を忘れない

 

 御幸は特別だった。紛れもなく天才で、誠とはどこか遠い異次元にでもいるような存在だった。言動もきっと誰よりも奔放で突拍子もない。俳優に憑かれたような男だった。誠は兄の影に追われていた。ぽつり、ぽつりと自然と悪いことばかり考える。

 

――母さんも、きっと俺より兄貴が好きだった

 

 だからあんな、そこまで考えて目を閉ざす。ゆっくり俯いて膝まで頭を落として顔を手で覆い隠した。此処には運転手しかいない。きっと見えはしないが隠れるように静かに泣いた。指の隙間から涙がボタボタと落ちる。

 

「今日ぐらい『誠』って呼んで、慰めて欲しかったのに」

 

 次第に嗚咽が漏れ出して声もしゃくり上がった。車内は二人だけ、無口な運転手であるのならば誰に言うこともないだろう。此処でなら誠は一人だった。ようやく一人になれた、独り言は次第に大きくなっていく。

 

「なんでいつも兄貴ばっかり」

 

 漏れた言葉は他でもない本音だ。両親が脳裏で過ぎって今度は周囲の言葉ばかり思い出す。二号、じゃない方、贔屓野郎。誰も誠を見ようとはしない心のない言葉ばかりだった。

 

「みんな、もっと俺を、見てくれよ」

 

 折れそうになって、ようやく漏れた声は弱弱しい。もっと、俺を。そう切に願って誠は少し意識を落とした。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「―…さん、お客さん大丈夫?」

 

 何度も呼び起こされて誠はようやく意識を取り戻す。どうやら散々誠を起こしていたようだ。苛立ったような様子で言葉を吐き捨てた。

 

「吐かれちゃ困りますよ、降りてください」

 

 バン、勝手にドアが開いた。誠が慌てて出て行けば何処かの歩道に出ている。だが、誠はその場に膝を着く。

 

「バニラの主演を掴んでも何も変わらない」

 

 バン!地面に頭を叩きつけた。額は熱を持ちジンジンと痛みが後からやって来るが悔しさが何よりも増していた。

 

「バニラの舞台が成功しても、何をしても…ッ!一生、兄貴のおかげなんて言われ続けるのかよ!俺は!!」

 

 二号という烙印はいつまでもこの身を焦がす。それがただ許せそうになかった。こんな程度か、こんな程度か。誠は何度も何度もそう思う。

 

「本当にその程度なのか?俺の実力は!?」

 

 その程度なのか!?三ツ谷誠の価値は!?心からそう叫ぶ。頭上を見上げた途端、鼻先に何かが乗った。

 

「……え?」

 

 それは小さく、軽い。視線の焦点を鼻先に当てればそこには一匹の華やかな蝶が一匹止まっていた。ひらひら、と一匹また一匹。蝶が増えて頭上には埋め尽くさんばかりの蝶が飛んでいた。

 

「……な!?なんだ、これ!!うわ、…わッ!!」

 

 一部の蝶が誠に近づいてきて、気持ち悪さのあまり蝶をはらうが周囲に居る人間は気付いていない様子で歩いている。こんなに蝶が大量発生しているなら大騒ぎになっている筈なのに、周囲の人間は思い思いの行く先へ歩みを進める。誠にすら気付かない、そんな様子だった。

 

「ここ…、渋谷…?だよな?」

 

 誠の周囲にはビルばかりが立ち並ぶ。見慣れた渋谷の風景だった。蝶はまだ飛んでいるが、少しずつその数を減らし始めていた。

 

「では、ここで素敵なゲストに登場していただきましょう」

 

 声が聞こえてくる。聞いている限りテレビ番組のようだった、誠が振り返ればビルの大型デジタルサイネージに一人の少女が映った。

 

「こんにちは!」

 

 それは天使のように美しい少女だった。幼く無邪気、そして悪戯に。テレビの中に映る少女はふわふわの白いショートカットの髪を揺らした。桃城千世子です、楽しそうに微笑む彼女は何処のカメラの映りでも綺麗に見せる。

 

「桃城千世子じゃん」「やっぱキレー!」「あれって…」「スターズの」

 

 周囲で騒ぐ声がする、反応からして有名な芸能人でも見たような反応だった。そんな周囲に対して、誠は呆然とその少女を見ていた。

 

「誰……?」

 

 カラカラと喉が渇く感覚がする。出た声も随分と情けない声だった。こんな綺麗に映る少女を誠は知らない。カメラワークの画面、そして映り方まで計算されつくされた動きを完璧にこなしていた。誠ですら此処まで出来ない、敗北感すら感じる。そう悟るがやはり心当たりがなかった。サイトで調べようとスマホを起動させるが、電源がつかない。

 

「あれ…!?」

 

 充電してたよな?一瞬時が止まるが、そんな筈はないとスマホの電源を付けようと何度も押した。押す、押す、押す、押す……、何度も試みたが付かない。一瞬悪い予感が過ぎる。スターズ所属って周りが言っているが、そんな会社ない筈だった。桃城千世子なんていう女優も居ない筈である。これが誠の常識だった。だがこの渋谷では、桃城千世子は現実に居てスターズがある。まるで世界の常識が塗り替えられた、そんな感覚だった。ドクンドクンッ、心臓が何度も高鳴って息が出来なくなる。ゆっくり歩き始めて、その足取りは早足に。次第に走り出してその場から離れた。

 

「臀筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋…、」

 

 臀筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋。またそう言って誠は走る。いつものように、口ずさんだ。いつものようにしなければ、そう言い聞かせて平常心を保とうとする。そうでなければ、この日本に似た世界で息を出来ないような気がした。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「ねぇ、ルイどうしよう」「知らないよ、レイ」

 

 夜凪ルイと夜凪レイは目の前で倒れている人を見つけた。これだけで大事件であるため、兄妹は二人顔を見合わせてそろって首を傾げていた。いつものように小学校の帰り道のことである。倒れている青年を見つけて今に至る。

 

「赤い髪、不良さんかな?」「死体だったりして?」

 

 そう呟いて様子を窺っている。少し肩が動いているので生きてはいることは分かったが、まだ小学生では判断が付けられないでいた。互いにどうしようか話し合っているので助けようという意思はある。困った人が居れば助けてあげようね、姉に教わった良識が身についていたために悩んでいた。キュルキュルと間の抜けた音と共に、青年が手を伸ばす。

 

「す…、すいません…!」

 

 何かください、情けなくどもった声で青年は行き倒れていた。

 




アクタージュの世界観が好きだったので無念ですが、夜凪景は変わらず女優やってるんだなって想像しながら続きを夢見てます…。此処までお付き合いいただきありがとうございました!


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