あたしの友達が最強の矛と最強の盾を売りさばく商人は夢想家なんじゃないかって言ってたけど、そうは思えない。どんな矛盾がそこに存在しようが武器を売りさばいたら悲劇が起こりうるのは予想しうることだし、そんな争いを産み出すような商人(あきんど)はドリーマーというよりも平和な世に飽き飽きしてそうな
──黒幕(フィクサー)だ。

けれどもそれについて責める気は全然起きない
だってそんなもの売ってようが売り切れてようが人間は武器が無ければ作り出すし
武器が作れなければ産み出すしかない
まるで争うかの如く

あたしの名前は零崎吹織、持てる武器は『失格少女』。

戯言シリーズ妄想作
『スクラップスクランブル 失格少女・零崎吹織との迷合』

ああそうだ、あたしのお父さん知らない?
顔に刺青付いた変な奴なんだけど

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スクラップスクランブル 失格少女・零崎吹織との迷合

 

 

 

      【登場人物紹介】

玖渚盾(くなぎさ・じゅん)─────私。

零崎吹織(ぜろさき・ぶきおり)───殺人鬼。

 

赤神マルギテ(あかがみ・まるぎて)─先輩。

謂神オルク(いいがみ・おるく)───級友。

氏神ビシャモ(うじがみ・びしゃも)─級友。

檻神ラトリ(おりがみ・らとり)───級友。

絵鏡ルイ(えかがみ・るい)─────級友。

 

玖渚友(くなぎさ・とも)──────ママ。

戯言遣い──────────────パパ。

零崎人識(ぜろさき・ひとしき)─????

 

 

─────────────────────

 

        戯言遣い(ZAREGOTOZUKAI)

        パパ。

 

 愛されなかったということは生きなかったことと同義である。

 ──ルー・サロメ

 

─────────────────────

 

「『豚もおだてりゃ木に登る』って言葉があるよな。

「あれってどーにもこーにもおかしいって思うんだけど、どうよ。意味は分かるさ、愚鈍な奴をチョーシ扱かせて通常以上の能力を発揮させるってことだよな。

「でもよ、だったら『猿もおだてりゃ木に登る』で充分なんじゃねーのか。

「やあ君は実に気立ての良い猿だ嘸かし木に登るのが上手なんでしょうね。

「とまあこんな感じで囃し立てて登らせる。猿だろうが猿みてえな人間だろうが何だろうが褒められりゃやる気を出して仕事するって感じでよ。

「でも豚だぜ。豚は見たことあるし戦ったことがあるが、ありゃどー見ても木に登るって体躯と手足はしてねえだろ。イノシシだったとしても限度があるんじゃねーの。知らねえけど。

「つまりよ、こんなヘンテコな諺が産まれたっつーのは、やはりありえねえこと、『豚が木に登る』という現象を誰かが見てなきゃ出てこねぇと考えるわけさ。

「するとどうだ。この矛盾。どう考えても登れねえ存在と、囃し立てたら登ったというありえねえ事象の二つはどうやったら結びつくんだ?

「とまあ最近まで思ってたが。ひょっとして"豚を木に登らせた"という事実を、まるで手品のように再現した奴がいたんじゃねーかって推理したんだ。

「であれば筋が通るよな。事実ありえねー現象を再現した故に、それを見ちまった奴が、ああ豚だっておだてればありえねーことをしでかすんだなって信じ込んで風潮しちまったって訳だ。何が言いたいかっていうと、この『豚もおだてりゃ木に登る』って言葉自体が、まるで人を囃し立ててありえねーことを言わせる為の常套句だったんじゃねえかって、ことだ。

「つまり戯言だな。くだらねえ。

「えっと何の話だったっけか。

「ああ、もし俺の娘を名乗る変な女が来たら家族を連れて国外にでも逃げろ。いいな。

「まあこんな忠告自体、お前にとって『豚に真珠』だろうがな。かはは。傑作だぜ。

「じゃあな欠陥製品」

 これから一生遭うことは無いだろうと思っていた零崎人識は、何の前触れもなく突然ぼくの前に現れて、全く持って意味不明なことを一方的に喋り、そのままどこかへ行ってしまった。

 ──へえ、アイツに娘が出来たんだ。どんな子だろう。

 娘といえば、ぼくの愛娘である盾ちゃんが、最近出来た友達を家に連れてくると言ってたな。今の話と全く関係ない話だけれども。

 

 

─────────────────────

 

  零崎(ZEROSAKI)人識(HITOSIKI)

  殺人鬼

 

 

『誤実だ』

─────────────────────

 橋の上。

 顔面入墨の男が──ぼくの隣を通り過ぎようした。

 振り向かず、声をかけた。

「久しぶり、殺人鬼。二度と会いたくなかったよ」

「懐かしいな、愛妻家の子煩悩。──もうすっかり、傍観者なんて呼べなくなっちまったな。傑作にも程があるぜ」

 鏡面を狭間にしたかのように対極的であったぼくらは、鏡を既に見失っていた。

「……よくよく考えたらぼくから声をかけるなんて、初めてのことじゃないか?」

「何一つ覚えてないけど──きっとそうなんじゃねーの」

 ぼく達は再会の挨拶を、交わしあった。

 目を合わさず、向き合うこともせずに。

「零崎は変わらないな」

「お前は変わっちまったな」

「そりゃ何よりだ」

「かはは」

 零崎は笑う。

 ぼくは、笑わなかった。

「変わりたいと思う気持ちは、自殺だとか言ってなかったか?」

「どうやらバカは死んでも治らないって、本当のことみたいだぜ」

「なんだよ、すっかり普通になっちまったと思ったのに。戯言はやめたんじゃなかったのかよ」

「それが連載シリーズの続編で常套句を辞めたりすると読者からガッカリされることが多いから、やめるにやめられなかったりするんだよ」

「成程。だとしたら永遠の青二才みてえな俺が小洒落(こじゃれ)たデザインのサングラスを今も手放せねー理由の一つがそれなのかもしれねえな」

「呆れて何一つコメントが思い浮かばないけれども、てっきりもう野垂れ死んでたかと思ってたよ」

「全く同意見だ。どうやら人生ってのは物語みたいに簡単に終わるとは限らなかったらしい」

「その通り。仕事も子育ても終わりが全く見えないよ」

 零崎は、突然黙った。

 ぼくは、何も語らなかった。

「なあ元傍観者」

「なんだよ現殺人鬼」

 零崎は、ぼくの方とは反対に向けて訊いた。

「お前は今、妻子がいて幸せか?」

 どうやら変わってしまったらしいぼくは、今さらながら回答した。

「ぼくはどうやら、最初から幸せ者だったらしい」

 零崎は、少し笑ってから。

 ぼくも、少し笑ってしまったから。

「じゃ、精々頑張れ。人間失格」

「ああ。息災で、愛妻家の子煩悩」

「ばいばい、セリヌンティウス」

 零崎からは、もう何も返ってこなかった。

 こうして手を合わせることもせずに。

 夕日の中、殺人鬼は去っていった。

 

「ああそういえば、零崎の娘について話忘れてたな」

「は? 何の話だよ」

 まるで忘れ物を返して貰いに来たかのように戻ってきた。

 台無しじゃん……。

「何って、零崎。この前きみの娘に会ったけどさ」

「いねえよ俺に、娘なんて」

 は?

 どういうことだ?

 零崎は、笑わない。

 ぼくも、笑えなかった。

「この前きみが言っただろ。俺の娘が現れたらよろしくなって」

「俺は、俺の娘を名乗る変な女がお前の前に現れたら家族を連れて国外にでも逃げろっつった筈だぜ。相変わらず優秀な記憶力だな、欠陥製品」

 あ、その呼び方なんとなくノスタルジック。

「いやでもアレはどう見てもきみの娘だろ」

「だから俺には娘なんていねえって何度言ったら理解すんだアホ」

 思いっきり拳骨で殴られた。

「何するんだよ。これ以上頭が悪くなったらどうするんだ」

「むしろ昔と何一つ変わらねえお前の脳味噌を、殺して解して並べて揃えて晒してやりたくて仕方がねえ」

 その決め台詞……まだ使ってたんだ。

「何度だって言ってやる。俺に娘はいねえ。弟子みてえな存在すら一度もいねえ。家族は一族郎党皆殺し済み。妹みてえに引っ付いてた奴は勝手になんか玖渚機関のどっかに就職してその後は円満の寿退社だ」

 殺人鬼って、寿退社出来たんだ。

「きみ、結婚は?」

「戸籍どころか、産まれてこの方、鬼籍しか入ってねえ」

「交際相手は? 恋人は? 結婚予定の人は?」

「今も昔も根無し草よ」

 それ……あまりにも寂しすぎないか。と思ったけれども、今のぼくですら何も返せなかった。

 むしろ本当に何で生き残れたんだよ、きみ。

「かはは。傑作だぜ。なんだお前、まさか俺の娘って騙った、見知らぬ誰かさんのほら吹き(キディング)を、そのまんま鵜呑みにしちまったのか?」

 零崎は笑っていたが。

 ぼくはただ戸惑うしかなかった。

 推理ミスを追及された探偵のように言い淀んだけれども。

「いやでも、さぁ……」

 まるで犯人に証拠品を突きつけるかのように。

()()()()()()()()()

 ぼくは彼女が持っていたナイフを鞄から取り出した。

「………………」

 それを見た。

 零崎は、もう、笑っていなかった。

 

「ったくよう。傑作だぜ」

 

→NEXT 第逸話『津月葉・堕礼過・多飲駄』


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