ティグルはリプナの港町からサーシャの知人である水夫のマトヴェイという者の商船である『誇り高き白イルカ号』に乗って、アスヴァール王国へと航海をする事になった。
その船旅においてジスタートの戦姫の一人だと思われるオルガと出会い、部屋を共有する事にして交流をしながら、船旅を楽しんだのである。
そうして、船はアスヴァール王国でありふれた港町の一つであるマリアヨに到着した。船着き場に横づけされ、乗客たちが次々と降りていく中でティグルとオルガはマトヴェイを待って、最後に降り立つ。
「っ、波の上にいたからか違和感がするな。まだ揺れている気がする」
「それは私もです」
「波酔いというやつですね。体が揺れのある状態に慣れてしまったんですよ……一刻ばかり歩けば治まりますよ」
ティグルは久しぶりの固い地面の上に立つと違和感がしたので何度か足踏みし、オルガも同様な事をした。それらを見てマトヴェイは苦笑して解説をした。
そうしてマトヴェイの案内でマリアヨの町を歩いていき、一軒の店の中へと入り、奥にある丸テーブルを三人で囲んだ。
やってきた給仕の娘に料理と酒を注文すると店の様子をティグルは見渡し……。
「この後だが、俺とマトヴェイは人に会う予定がある。早ければ今日にも町を出るつもりだが、オルガはどうする?」
オルガにティグルは質問する。彼女は少しの間、考え……。
「途中まで同行させてもらって良いでしょうか。勿論、食事や宿について自分の分は自分で用意します。迷惑をかけるようなことはしません」
「オルガが旅をしている目的も教えてくれ。人に会う予定があるみたいな漠然とした物でも構わない」
オルガからの返答に更に質問し……。
「見たいものがある……というのでは、駄目ですか?」
「それは行きたいところがあるという事か?」
「いえ、この国を適当に歩き回って、立ち寄った町や村で色々な話を聞いてみたいというだけです。どこかの町や村へ行きたいというのはありません」
オルガは旅の目的をしっかりと告げた。
「そうか……(戦姫としてどう自分の公国を統治するか、旅をしながら考えているところか)」
オルガの年齢や様子から考えて竜具に選ばれたばかりでどう、自分が治める公国を統治するか悩んでいて、世界を見ながら彼女なりに考えているのだとティグルは察した。
「此処は内乱状態にある国だ。荒事もあるだろう……見た所、実力もあるようだし、そういうときの協力もしっかりとしてもらうぞ」
「はい、勿論です」
そうして、ティグルはオルガに対し旅の同行を認める。
「では、三人での旅が良い物になる事を願って乾杯と行きましょうか」
「ああ」
オルガが旅の目的を答える間に大きな陶杯になみなみと注がれた
そうして飲んだのが……。
「アスヴァール王国では濃い苦みで飲んでいるのか? ブリューヌやジスタートでも麦酒は飲んだが、大分苦みが強いぞ」
「……」
今まで飲んできた麦酒よりも濃い苦みに顔を軽く歪め、フードを被っているオルガもその奥で表情を歪めていた。マトヴェイは慣れているからか、笑顔であった。
「水や葡萄酒、香草で薄める飲み方もありますが、他の酒を飲まれますか?」
「いや、飲めない訳でも無いからこれで良い」
そうして牛肉を酒で煮込んだ物やカラスムギの粥、鮭と貝とキャベツのスープ、内臓を取り出して腹に香草と茸を詰めて焼いた鱈、すりつぶしたジャガイモを載せたパンや羊肉と大豆の炒め物などアスヴァール王国独特の料理も含めて食事を楽しんだのであった……。