ジャーメインを討ち、その座を奪ったタラードがアスヴァール王国の第二王子であるエリオットとの内戦を勝つ上で重要な地であり、厄介な相手であったルクス城砦を守るレスター(正体はトルバランという魔物)を倒したティグル達。
しかし、勝利の余韻に浸る事は出来なかった。エリオットが三万の海賊を率いて上陸してきたからだ。
どうも沿岸にある幾つかの漁村を襲撃してそこから上陸したとの事。大型船でぎりぎり移動できるところまで接近し、大量の小舟を用意して海賊を乗せて高速で往復したのだ。
十の小舟で海上に降り、九艘の小舟から海賊が上陸。残った一艘が空になった九艘を引いて戻るやり方を行ったのだ。
そしてエリオットはルクス城砦か、タラードがいるバルベルデかどちらに向かうかは不明だが、ルクス城砦からは二日ほどの距離にいた。
また、エリオットは海賊たちに上陸した際、ルルカ村という村を襲わせ略奪に虐殺に凌辱を躊躇いなく行わせたとも情報が入った。
「向こうがこちらの戦力を把握しているかは不明だが、三万も数がいるんだ。大半を潰す強行軍を行う可能性もあるな。なにせ引き連れているのは海賊だ」
ティグルはオルガにマトヴェイ、ルドラーにサイモンと勝ち取ったばかりのルクス城砦の会議室で軍議を始めながら言った。
「……成程、ありえますね。エリオット王子は大胆さと慎重さを併せ持っており、油断の出来ない人物で人を見下し、疑い深く、荒っぽい行動を好む男とグラム様から聞いています」
ルドラーが頷きながら言った。
「バルベルデだろうとルクス城砦だろうと部隊を分ける事も出来るのが厄介だな」
「ともかく、打てる手を打つしかない。村人を避難させる事と二千の騎兵で奇襲と攪乱をする事で向こうの勢いを削ぎ、少しでも進軍速度を遅くする事だ」
ルクス城砦周辺には小さな集落を含めれば十を数える程の村があり、地図でそれを見ながらティグルは方針を言う。
「敵の数を考えれば、二千では効果があるとも……」
「強行軍を行った場合なら多少はあるだろう。ともかく、まずは相手の勢いを削がないと始まらない」
ティグルはルドラーの問いに答えた。
「村人の避難についてだが、逃がすだけで終わりって訳じゃねえだろう?」
「……ああ、こうなった以上は人っ子一人いなくなった段階で村を焼き、井戸には毒を放り込むしかない」
「だよな」
サイモンの質問にティグルは顔を伏せながら苦々しい様子を僅かに見せながら言った。これにサイモンは頷く。
「ルドラー殿、どうか村人たちへの補償を頼む」
「私の名にかけて、この命に代えても必ず」
ティグルがルドラーへと声をかければ、ルドラーは即答して誓う。
その後、夜明けより少し早い時間帯に二千の騎兵を率いてティグルは城砦を出ると二千の騎兵を十の部隊に分け、周辺の村へと向かわせた。
ティグルもオルガとマトヴェイと共に村の一つへと向かい……。
「急に来て、避難しろというのですか……しかも村を潰すと」
「ええ、そうです。どのみちエリオット王子と海賊たちが来れば徹底的に蹂躙されますよ」
「……くそぉぉぉっ!!」
村長に話をすれば、凄まじい怒りを耐えられず、彼はティグルを殴ってよろめかせる。
「……う、あ」
「良い、当然の行動だ……だが、こうするしかないんだ。保証は約束してある。だから、頼む。生きる事を優先してくれ」
「……」
こうして、村長は避難の指示に従う事を決めて行動を始めた。
村人がいなくなった後、村に火をつけさせつつ、井戸には自分で毒を放った。
「……すまない……だが、絶対に犠牲は無駄にしない……エリオットにはこのツケを必ず……」
「……ティグル」
無表情であるが内心、苦しみつつ誓うティグル。そんな彼が無意識か右の拳wp血を流す程に握っている様子をオルガは心配げに見ていた。
マトヴェイも又、『損な役目を』とティグルに対し、呟いたのであった……。