ようこそ魔法律のお時間です   作:ビサイ

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 一抱えはあるスイカを小脇に、Dクラスのキャンプ地へと戻ってきた水鏡。

 そんな彼を出迎えたのは、平田だった。

 

「やあ、水鏡君。お帰り。そのスイカは?」

「おう。まあ、成果物だな。川沿いに幾つか畑があった。夏野菜も出来上がってたぞ」

「…………勝手にとって良いのかな」

「逆だな。()()()()畑だろうよ」

 

 やる、と水鏡は平田へとスイカを渡すと肩を回して目が合った綾小路の方へと足を向ける。

 

「ちっと、堀北を呼んで川の方に来てくれ」

「どうした?」

「不味い事になった。()()()()()()を知ってる人間に話を通しておきたい」

 

 任せたぞ、と綾小路の肩を叩いて、再びその場を離れる水鏡。

 その背中が今度は向かったのはスイカを見て目を瞬かせている男子たち。その中で、赤毛のチンピラのような彼の元。

 首を傾げながらも、綾小路としては水鏡の指示を聞かない理由はない。

 自分達でどうにもならない現象を相手取れるのは、彼だけなのだ。そして、下手に広げて不安を煽りたくないというその心情も理解できる。

 人間のパニック状態というのは、想像以上に厄介だから。制御も規制も突破して、挙句の果てには自分達のパニックの大本へと特攻する者すら出てくるだろう。

 

「堀北、少し良いだろうか」

「……何かしら、綾小路君」

 

 声を掛けられた堀北の反応は、常の彼女からすると聊か鈍かった。

 心なしか顔色も悪いが、他人に弱みを見せることを嫌う上に対人コミュニケーション能力に難のある彼女は自身の変調を誰かに告げるような事はしない。

 気付かれている事は、この場合考慮しないものとする。

 

「水鏡が、話があるらしい。川の方へ集まってくれ、と」

「……それは、この試験に関して……じゃなさそうね」

「ああ。霊関係だろう」

「分かったわ。行きましょう」

 

 堀北としても、否は無い。もし仮に、これが霊関連の話ではなかったとしても彼女にとって水鏡は友人の一人。ぼっち極めた彼女の場合、下手をするとポイントの貸し借りすら何の躊躇いもなく行ってしまうかもしれない。

 しかし、指摘する者は居ない。綾小路は綾小路で、一般常識に疎い上に人間関係の構築も初心者なのだから。

 

 そんなやり取りを経て、川の側に集められた数名の男女。

 

「綾小路たちも、悪霊って知ってたのかよ……」

「寧ろ、須藤がこっちに居る方が意外なんだが?山内や池は違うのか」

「おう。水鏡が広めない方が良いって言うからよ。あの二人も知らねぇ」

 

 中間テストの勉強会から繋がりのある、須藤と綾小路。そして堀北。

 それから、何処か所在なさげな佐倉に、彼らを呼び出した水鏡。

 以上、五名。切り出したのは、水鏡から。

 

「単刀直入に言うと、討伐対象だった霊が逃げ出した」

「!それは…………大丈夫なの?」

「状況として……ギリ五分だな。今がまだ日の出てる時間で、且つ封印されていた対象が数百年ものだ。少なくとも、日が落ちるまでの余裕はある」

「霊って、悪霊?なのか>」

「多分な」

「多分?他にも、そんな存在が居ると?」

「霊って一括りにしても、その数は山ほど居るからな。とにかく、これからこの周辺に霊除けの結界を張る」

「そ、それって……水鏡君が、特別棟で張ってるの……だよね」

「ああ。剥がすなよ?」

「寧ろ、剝がれるものなのかしら」

「剥がれるぜ?割と簡単にな」

 

 彼らの質問に答えつつ、水鏡は魔具袋から四枚の札を取り出した。これらを四隅に張る事で結界を形成するのだ。

 因みに、札の数が増えればそれだけ強力な結界を張る事が出来る。付け加えると、その札の張り方によっても結界はその性質を大きく変えた。

 淡々と告げてくる水鏡に、堀北は蟀谷を擦りながら問いを口にする。

 

「……それで?私たちには、何を求めるのかしら。貴方の仕事の手伝い?」

「いや、アンタらに来てもらったのは、もしもの時の話をしておくためだ」

「もしも……?」

「ああ」

 

 頷いた水鏡。その瞳には、覚悟の色が見て取れる事だろう。

 

「もしも、俺がヘマした時にはクラスの人間を連れて避難してくれ」

「ッ!そ、それって……!」

「そんなに、危険な相手なのか?」

 

 息を呑み、口元を抑えた佐倉は顔色を悪くし、綾小路は水鏡の仕事風景を思い出して眉根を寄せつつ首を傾げた。

 素人目に見ても、圧倒的だった。そして、底知れなさも感じられた。

 そんな少年が語る、()()()。悪い予感を脳裏に過らせるには十分すぎる情報だ。

 彼らの緊張を前に、水鏡は穏やかな笑みと共に首を振った。

 

「残念ながら、情報がないんでな。ただ、魔法律の仕事に()()()()は存在しない。木端な霊だと油断した結果取り殺されて体を奪われて甚大な被害を出した魔法律家も居るんでな。俺だって油断する気は無い、が相性次第では完封される可能性だってある」

「「「「…………」」」」

 

 四人は、何も言えなかった。改めて、自分達の住んでいる世界との違いをまざまざと見せつけられたような気がしたからだ。

 だが、時間は有限。水鏡としても、そろそろ次へと移りたいというもの。

 

「後は、四人にはそれぞれ夜に他の連中が結界の外に出ない様に誘導してほしい」

「誘導?どうすりゃいいんだ?悪ィが、俺はそこまで頭良くねぇぞ」

「……夜の森の中を歩き回るのが危ないって事にしといてくれ。下手に怪我するとリタイアして、ポイントが削られるぞ、みたいな?」

「おう……?まあ、やってみるけどよ」

「時間の目安はあるかしら?」

「夜の八時。点呼が終わった時点で、俺も動こうと思う。だから、それ以降の時間で結界の外に出るな」

「ポイントを理由にすれば全員、話を聞いてくれるだろうな。それと、仕事に入る関係上俺は試験に関しちゃ協力できない。スイカ取ってきたみたいに、食材を提供するとかなら可能だけども、例えば他クラスへのスパイ行為みたいな事だな」

「それは…………そうね。下手に貴方の仕事を理由に他クラスを探ってその情報を貰っていたら、仕事自体にも障りが出るでしょうし」

「理解が早くて助かる。とりあえず、島をぐるりと回って色々と仕込んでくるつもりだ。もしもの時には、頼んだぞ」

 

 時間がない。右手の指の間にそれぞれ挟んでいた札を、右腕を振り抜く事で投擲。

 独りでに空中を突き進んだ四枚の札は、水鏡が想定した範囲を区切る様にしてそれぞれ周りからは見難い木の幹へと張り付ていく。

 結界が構築されたことを確認し、水鏡は頷く。

 

「よしっ……んじゃ、アンタらは試験頑張ってくれ」

 

 後ろ手に手を振って去っていく少年の背中。

 軽い足取りの背中に降り積もる責任は――――途轍もなく、重かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特別試験の会場である無人島。高円寺の言葉を借りるならば、地獄の底へとその様相を変えた島はしかしその温暖な気候と夏という時節が合わさる事でリゾート地としての側面も失ってはいなかった。

 

「よお、龍園」

「ん?……何だ、テメーか。落ちこぼれ(Dクラス)を見限って、俺の下に付く気になったか?」

「んな訳……()()()()()

「ほう……」

 

 ビーチに差したパラソルの下で炭酸飲料を呷っていた龍園は、目を細めると片手を振って人払いを済ませる。

 そして、傍らに置かれていたクーラーボックスからジュースの缶を取り出すと水鏡へと投げ渡した。

 

「まあ、座れや」

「アンタ、見た目に反してそう言う所は律儀だよな」

 

 よっこらせ、とパラソルの下に腰を下ろして水鏡は片手で缶のプルタブを引き開ける。

 二人の眼前の海では、Cクラスの生徒たちが思い思いにバカンスを楽しんでいる。

 

「前置きも要らねぇだろうから、簡潔に行く。この島に封印されていた霊が逃げ出してな。各クラスの拠点に霊除けの結界を張る事にした」

「ほう……お前の手落ちか?」

「まあ、な。ここ最近、同じ現場ばっかりだったせいか油断してたな」

「くく……なら、後はテメーの手並みを拝見するって事か」

「Cクラスは()()()()するみたいだけどな?」

「船は、安全なんだろう?」

「態々立ち入り禁止区画に無断で入り込まなけりゃ、大丈夫さ。バカンスを楽しむだけなら、問題ない」

「成程な」

「結界は、このビーチの範囲に張っておく。夜にあんまり海に入るなよ?」

「海か……お前とは、自分と相性が悪いらしいな?」

「耳が早いな……ああ、そうだ。砂浜近く程度なら問題ねぇけど、船で外海に出るのはダメだな。慣れろって言われて、今回は仕事ついでに学校から放り出されたんだけど」

「くくく………良いじゃねぇか。確りと、慣れろよ」

「分かってんよ」

 

 ジュースを飲み干し、缶を握り潰す水鏡。

 ひしゃげたアルミ缶。それを更に左手で包むようにして握ると、コレを更に圧縮。原形が分からない程度のアルミの塊が出来上がった。

 

「……どういう握力してやがる」

「あ?……まあ、100キロは超えてたと思うぞ」

「ゴリラかよ……まあ、良い。お前の仕事に関しちゃ、こっちから言う事はねぇ」

「そうしてくれ。ああ、後。仕事中の俺は試験から完全に外れる。食料確保辺りはやるが、その他の試験内容にはノータッチだ」

 

 誓約書でも書くか?と水鏡が尻に着いた砂を払いながら問えば、龍園は首を振る。

 

「要らねぇな。その言葉が嘘だったとして、苦労するのはテメーだからよ」

「そういうこった。札に関しては、()()()()()()()()()()。それじゃあな」

「…………」

 

 元ジュースの空き缶であるアルミ屑を、Cクラスのゴミ袋へと放り込み水鏡は森の中へと去って行った。

 その背を一瞥した後、龍園は目を細めた。

 

(厄介な野郎だ……が、自分で降りるのなら、関係ねぇな)

 

 言葉少ないながらも、龍園の作戦を看破した上で彼自身の安全を配慮した。裏を返せば、少ない情報から相手の作戦を看破する能力に長けるという事。

 敵にすれば、これほど厄介な鬼札は無いが、龍園は不敵な笑みを浮かべた。

 彼にしてみれば、勝つことを目指すのは当然。だが、その道中に何の山も谷も無い様な平坦な末の勝利など何の面白味も無いからだ。

 荒れるならば、それでよし。全てを乗り越え、勝ちをもぎ取る。

 悪い笑みと共に、彼は己の策を更に進めるのだった。

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