本当の姿を見ることが出来るメガネをかけたら、関わっていた人達が人間じゃなく病んでいた件 リメイク版 作:かいさんたらこ
「ぜぇ⋯⋯ぜぇ⋯⋯。」
息も絶え絶えになるほどの全力疾走をしたせいで、俺の身体はホームルームを前にボロボロになってしまった。
四つん這いの姿勢で息を整えていると、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「大丈夫かい?」
「あ?⋯⋯あぁお前か。おう、大丈夫だ。」
「そうかい?それはよかった!」
声をかけてきたのは黒崎瑠衣という女子生徒だった。
黒崎瑠衣⋯⋯いわゆる王子様系女子である彼女は眉目秀麗、頭脳明晰を兼ね備えた化け物である。更に演劇部に所属しており、様々な役を完璧に演じている。まるでやった事があるかのように振る舞うらしい。そしてその姿に胸を押さえて尊死する女子生徒や男子生徒が後を絶たないとか。
そういえばコイツ、ファンクラブとかあったな。なんというか癖がありえない方向に尖ったようなものばかりだったはずだ。
例えば『黒崎瑠衣様のお腹を舐めまわし隊』とか『黒崎瑠衣様に踏みつけられて唾を吐かれて見捨てられ隊』
⋯⋯あと、ファンクラブの二大巨頭である『黒崎瑠衣様のサンドバッグになってボコボコのボロ雑巾にされ隊』と『黒崎瑠衣様の奴隷となりその身を一生捧げ隊』が日夜鎬を削っているという噂だ。
俺的にはこの二大巨頭のファンクラブは同じようなものだと思うが、どうやら違うらしい。どこが違うのか俺にはわからない⋯⋯いや、わかりたくない。
そして何より大事なのは、そんな彼女が俺の数少ない友達の一人ということだ。そんな王子様系イケメン女と気軽に会話できる関係のせいで、ファンクラブから目の敵にされているのである。不思議と実害はないが、多分そろそろ校舎裏に呼ばれてボコボコにされそう。
「いつまでもそんな調子だと、SHR遅れるよ?」
⋯⋯なんか瑠衣から舐め回すような視線を感じるんだけど。そういえばコイツ、汗をかいている俺をいつもこんな風に見てたような⋯⋯?流石にそれは自意識過剰か。
「あぁ、そろそろ起き上がるよ⋯⋯。」
ゆっくりと起き上がって、汚れを払い落とした。
靴を履き替えて教室へ向かってる時、瑠衣は肩が触れるんじゃないかというほどピッタリ俺にくっ付いていた。
その光景のせいで、ヤバいぐらいに視線が突き刺さってくる!
1人の女子生徒をチラ見すると⋯⋯
クイッ⋯⋯クイッ
親指で首を横一文字に切り、下向きに親指を思いっきり突き刺す、いわゆる「お前首切って地獄行けやカス」や「死んどけカス」という旨のハンドサインをされた。口は笑ってるけど目が!目が濁ってやがる!
ぼ、ボコボコのボロ雑巾にされた後にコンクリートの材料にされる⋯⋯!
流石に今日が人生の最後の日になりたくないのでちょっと瑠衣と距離を取った。
しかし瑠衣はすぐにその距離を縮めてきた。
一歩後ろに下がると、同じように下がってくる。
少し前に進むと同じように進んできて、真横をずっとキープしてくる。
逃れられません(諦め)
更に突き刺さる視線が増える増える。
この突き刺さる視線に耐えられず、瑠衣にある提案をした。
「あー⋯⋯ちょっと瑠衣さん?距離をとりませんか?」
「え?なぜだい?」
「いやちょっと視線が痛いといいますかナントイウカ⋯⋯。」
「アハハ、そんなの気にする必要ないじゃないか。」
そう言って腕を組んできた。殺気と嫉妬、それに怨嗟の声が混じったものが俺に集中的にぶつけられた。胃に北斗七星の形の穴空きそう⋯⋯。
その状態のまま教室まで向かった。
教室に着くと、俺は窓側三列目の席に着席した。瑠衣は俺の斜め前の席に座っており、カバンを机の上に置いてどこか行ってしまった。
まだSHRが始まるまで猶予があるので、ジャケ買いして読んでなかった本でも読んでようかと思い立った瞬間、スマホの通知が鳴った。
なんだろう?と確認すると、相手は火燐だった。
『お兄ちゃん。弁当忘れてるよね?』
『え、マジ?』
嘘だろと思いながら鞄を確認するが何処にも弁当は見当たらなかった。
『マジで忘れてる』
『もう、今度からは忘れないようにね』
『はい⋯⋯』
購買、金使いたくないな。
けどまぁ弁当忘れた俺が悪いし、しゃーないから行くか。
そんな朝から散々な目に遭い憂鬱な気分で読書をしていると、自分の席が影に覆われた。
気にせず読書をしていたが、いつまで経っても影が消えなかったので、前を向くと瑠衣がこちらをじっと見つめていた。
「いや怖。」
「え、何が怖いの?」
「お前が何も言わずにただずっと俺を見つめてたのが怖い。」
瞬きの一つくらいは流石にしてくれよ。人間だろお前、目乾くぞ。
「いいや全然、むしろ永遠に見てられるよ。」
そんなキラキラした顔で言うなよ。それに俺は猫とか犬のような愛玩動物じゃないんだから見てもつまらないだろ。
その後もSHRが始まるまでの間、瑠衣は本を読んでいる俺をずっと眺めていた。
SHRが終わり、もう少ししたら1限が始まる。
あくびを噛み殺し、今日も憂鬱な1日が始まると思うと嫌になってくる。さらに弁当を忘れたことがそれに拍車をかける。
それが顔に出ていたのか、隣の席の子が声をかけてきた。
「えっと⋯⋯顔色悪いですけど、大丈夫ですか?」
「あー、大丈夫。この後の授業がめんどくさいというのが顔に出ていただけだから。」
今声をかけてきたのは久遠寺叡という女子生徒だ。俺と同じ図書委員に所属していて委員長をやっている。お互いに本好きなので自然と仲良くなり、今では月5回本屋に一緒に行ったりする。そして頭が良い。絶句するほど頭が良い。コイツが満点以外取ってるのを見たことがない。
「そうですか⋯⋯安心しました。今日の図書当番は一緒ですし、体調が悪くて早退なんてなったら寂しいですから。あ、そういえばこの前貸した本、どうでした?」
「あれ?めっっちゃ良かった!ラストにかけて解かれていく伏線の数々、そして最後の最後にくるどんでん返し!最初から最後まで読んでて飽きない傑作だと感じたね。」
久遠寺はイスという著者のものばかり勧めてくるけど、ハズレが無いのが凄いよな。自分は結構ミステリーだったり戦記だったりは読まないけど著者がこの人だと不思議と読んでみようと思うんだよなー。
「ふふふ⋯⋯それなら良かったです。」
久遠寺はクスッと微笑んだ。
その笑みに見惚れていると、突如背筋がゾワッとする感覚がした。
驚いて周りを見渡すと前のドアらへんに瑠衣がいた。瞬き一つせず、俺のことを感情が抜け落ちたような怖い顔でじっっと見つめていた。
瑠衣のいる所だけ時空が歪んでいるように見える。
多分見てはいけない類のやつだと思うので、スッと視線を逸らして1限の準備をする。
筆箱を机に置き終えた瞬間、ガシッと肩を掴まれた。
「1限、教室に早く行かないとね?」
光のない瞳でそう告げると力を込め、俺をヒョイっと軽々しく持ち上げた。
「!?!?!?」
痛い痛い痛い!!お前どっからその力出てんだよ!演劇部が出して良い力じゃねぇぞ!!しかも片腕で体重70kgぐらいの俺を持ち上げるってどんな鍛え方したらそんなことできるんだよ!!
そのまま米俵担ぎで1限の教室まで運ばれて行った。
前のやつから大幅に変わりました。1話に1柱の神格は私の文章量に対して詰め込みすぎと判断したので2、3話ぐらいで1柱紹介するみたいな感じでやっていこうかと思います。投稿頻度は⋯⋯恋愛とかラブコメは書くのが苦手なので期待しないで下さい。