シンギュラ・リークに、息をひそめる者がいた。
筋肉質な灰色の肉体に、鈍く緑色に発光するエーテル器官、そして生気も表情も存在しないマネキン・フェイス……マネモブである。
『マサイの
シンギュラ・リークの中であの巨大エーテリアス“バシュム”と
気配を消しながら、マネモブが迫る。
そこでは、巨大な繭と化したギルタブルルが、近くのエーテルを根こそぎ吸収しているところだった。
『えっ』『なにっ』『な…なんだあっ』
元々、そこらのエーテリアスとは違うとは思っていたが、思ったよりヤバいものが出てきた。
しかし、マネモブはその繭と繋がるエーテル増殖体が、エーテルを繭に供給し続けていることを見抜いた。
人類とは違う、エーテリアスとしての身体機能がそれを可能としたのだ。
これは四の五の言っていられないと思ったマネモブは、一旦恨みを忘れてリンとレミエールに接触することにした。
「2Pも来てくれたし、このまま2倍速で――いや、3P目も来たね」
『だからオレたちがいるんだろっ』
「マネモブ! 来てくれたんだね! ……どっから来たの?」
『とおくて……さむいところ…』
どこからと聞かれればシンギュラ・リーク。
この特異点が思ったより楽しい場所だと気づいたマネモブは、シンギュラ・リークを通じてロスカリファを観光していたのだ。
それはさておき、詳しい事態は分からないものの、マネモブはこの件に体を張って全面協力することを決定した。
さしものマネモブも、私怨で優先順位を見失うことはない……と思われる。
「マネモブも手伝ってくれるの?」
『いいですよ!』
何一つ状況は分かっていないが、友達の頼みなので安請け合いするマネモブ。
「それじゃあ予定を変更して、二手に分かれて増殖体を潰そう!」
『畜生! 殺ってやるぜ』『キー坊をぶち殺してやるぜ!』
「出た出た。キー坊への殺る気がハンパない」
リンもキー坊が誰だか分かっていないが、これだけ恨まれている? ということは悪人なんじゃないかと疑っている。
何はともあれ、戦力は多いに越したことはない。
マネモブはリン達とは別方向へ向かう。
しかし、増殖体へ向かう道中、繭の抵抗……つまり爆発が発生する。
心臓の鼓動にも似たそれをやり過ごし、マネモブは増殖体へと向かう。
『ここがリカルドの家か…?』『ぶち殺してやるぜっ』
青白く発光する球体へ躊躇いなく貫手を突っ込んで破壊する。
同じタイミングで、ピュロイス(マネモブはまだピュロイスの名前しか知らない)が増殖体を破壊した。
「マネモブ! あの繭を壊すよ!」
『おおおおこのバケモノッ絞め殺してやるわっ!』
明らかに男性なピュロイスからリンの声がするのは奇妙だなと思いつつ、マネモブはリンの指示に合わせて繭へ接近する。
レミエールは空を飛び、ピュロイスはレールを駆ける。マネモブは、浮かぶ瓦礫を足場に跳躍した。
「はぁぁぁぁっ!」
「ふぅんっ!」
レミエールとピュロイス、二人の剣が繭を斬り裂く。
正直なところ、繭を破壊するにはそれでも十分だった。しかし、マネモブはダメ押しとばかりにキックを放つ。しかし……
『う あ あ あ あ』
マネモブは繭の爆発に巻き込まれ、エーテルの煙幕の中へ消え去った。
「ちょっと! マネモブーッ!」
「気を付けて!」
ピュロイスが煙を斬り裂いた。
いまだ生きているだろうギルタブルルへ向かい、落下攻撃をしかけたのだ。
だが、その剣は受け止められた。
『手遅れだ……』
巨大なハルバードとも言える異形の武器。
その柄が、ピュロイスの剛剣を受け止めていたのだ。
『進化は成った!』
己の進化を誇るギルタブルル。
凶悪な顔はもはや面影が残っておらず、腕はハルバードを振るうに相応しい筋骨隆々に。サソリの胴体に人間の上半身が融合したような特徴的なシルエットが、その存在をギルタブルルだったと示すのみだ。
レミエールとピュロイスの同時攻撃をものともせず、自らをさも誇り高き存在であるかのように両者へ反撃する。
態度が、言動が、エーテルが。
我こそ結使、始まりの主の御使い也と誇示する。
だが、しかし――
『人間的にはかなり劣化しとるわ』
『なにっ』
愚弄と共に、強烈な蹴りが巨体を揺らす。
たたらを踏んだギルタブルルは、その下手人を睨みつけた。
『……貴様!』
『人間的にはかなり劣化しとるわ』
『何を――』
『人間的にはかなり劣化しとるわ』
『だから――』
『人間的にはかなり劣化しとるわ』
『聞け――』
『人間的にはかなり劣化しとるわ』
『待――』
『人間的にはかなり劣化しとるわ』
進化は成ったと言ってしまったばかりにマネモブの言葉狩りに遭い、まともに喋らせてもらえないギルタブルルに、リンは蚊の涙ほどの哀れみを抱いた。
『貴様ーっ! 結使たる我を愚弄するかぁーっ!』
『そうですけど何か?』
怒ったギルタブルルはハルバードの石突を叩きつけて足場を破壊した。
レミエールは逃れたが、衝撃でピュロイスとマネモブが落下する。
「リン!」
ピュロイスを掴むレミエール。
マネモブは放置だが……これは、マネモブが助けを必要としておらず、また落下へも対処していたことからの判断である。
事実、マネモブは途中でギルタブルルに乗り、事なきを得ていた。すぐに振り落とされていたが。
ギルタブルルは一行を睨みつけた。
ハルバードを掲げる姿は、始まりの主への讃頌か、あるいは進化への喜びか。
『新生の贄となれ!』
『ほいだらおどれはあの世へ送ったろかあ――ん?』
人間+エーテリアスVS結使
もはや何度目かも知れない、新エリー都史に刻まれる世紀の戦いが幕を開けた。
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『これぞ業核の力! これぞ我が進化!』
『いい
『我を矮小なる人間と同列に扱ったことを後悔するがいい!』
『おーっ怖ィイ』『弱いくせに強気なバカって』『もしかしてアナタは無敵の人?』
『貴様ぁーっ!!』
「ねぇ、マネモブってなんであんな悪口のレパートリー豊富なの?」
「さあね。ただマネモブに口で勝つのは至難の業だよ。ちょっと喋れるくらいのエーテリアスじゃ文字通り愚弄されるしかないと思った方がいい」
あまりにも神経を逆なでするおちょくりに対し、怒りのままにビームを放つギルタブルル。
しかし、マネモブを追っているせいで二人への対処がおざなりになっている上、そもそもマネモブに当たっていない。
『この力、早くに味わえていれば、人間如きに化けずに済んだものを……死人の如き屑に愚弄されずに済んだものを!』
「死人のように生きてるクズって……じゃあそのまるで生気の無いマネモブに負けてるのは誰だよ、えーっ」
「それにお喋りなエーテリアスはもう彼で間に合ってるかな。無口系キャラで売り出した方が良かったね。マーケティング派手に失敗してるよ」
『矮小な人間共が好き勝手なことをほざくな! 我が力にひれ伏すがいい!』
ギルタブルルが、侵蝕障壁を展開しながらハルバードを振り回す。
常人にとっては一振りが脅威の一撃となるが、一行にとっては避けることはさほど難しくはない。
ピュロイスがハルバードを弾く。
その隙を狙い、レミエールとマネモブが情け容赦なく追撃する。
レミエールが光線で装甲を破壊し、マネモブが急所となる場所へ的確に打撃を叩き込んだ。
それを煩わしいと思って身をよじれば、ピュロイスが介入し身体を斬り刻む。
敵対していた者同士とは思えない連携に、ギルタブルルは徐々に追い込まれていた。
『業核よ……我に力を!』
だからこそギルタブルルは切り札を使うことにした。
『業核よ……我は始まりの主の裔、我が声に応えよ!』
ギルタブルルの身体から、エーテルエネルギーが立ち上る。
三人はこれ幸いと攻撃を仕かけたが、しかし堪えた様子がない。
『我が血肉を、我がエーテルを捧げん……我らが……一つとなるまで――!』
ギルタブルルの肉体が変化した。
ハルバードを捨て去り、太い腕はより攻撃的なフォルムと化す。そして、肉体は常に宙に浮いている。
だがその代償として――下半身をほぼ失い、貧相な姿に。
「これマジ? 上半身に対して下半身が貧弱すぎるでしょ……」
『いい
「お世辞はやめたら?」
『ぶ…無様…』
往年のブリンガー長官みたいだと思ったリンとマネモブ。
だが攻撃の手が止まることは無い。だが、明らかにギルタブルル側の攻撃の勢いは落ちており、踏ん張りも効いていないので簡単に怯んでしまうようだ。
「かわいそ……」
『無様すぎて哀れだろ…殺してやれ』
速いと言えば速いものの、先ほどと比べればあまりのスロウリィさと、体幹の貧弱さに哀れみの情さえ抱く。
始まりの主の眷属とは、得てして下半身を失うものなのか……始まりの主は下半身にコンプレックスでも抱いているのではないかと思えてくるほどだった。
『…(愛)』
「でもだんだんコアが見えてきたね!」
マネモブは知らなかったが、二人の目的はドラキナ・サンブリンガーの救出。
そのため、この哀れな結使を完膚なきまでに叩きのめし、その上で拘束する必要がある。
『おおおおっ』
『へっ』『しょぼい相手にしょっぱい判定勝ちして喜んでるよあの馬鹿……』
いつの間にやら追い込まれていたギルタブルルが、巨大な爪を振るう。
しかしマネモブは難なく避け続け、いたずらに体力(結使にそれがあればの話だが)を消耗しただけに終わる。
その上、マネモブが
そこへ、レミエールの連続攻撃が決まる。
恐るべき連携技に、ギルタブルルは消耗もあってまるで対応できていない。
「引き継いで!」
『おうっ』
マネモブがギルタブルルに飛びつき、頭部を殴りつける。
よろめいたところを、ピュロイスが飛び蹴りで蹴とばした。
ダメ押しにレミエールが追撃すると、ギルタブルルは逃げ出した。
「逃げてく! 追わなきゃ!」
『逃げるんかいっこの人殺し!』
リンとマネモブはすぐに追いかけようとする。
しかし、そこへレミエールが待ったをかけた。
「リン、マネモブ、少し休んでて」
レミエールが自身の翼と、虚ろ狩る
彼女は他の虚狩りとは一線を画す能力があった。それこそが、空中戦に特化していることである。
「少し、本気を出すよ」
生身と戎具、二対の翼を広げ、レミエールは空へ飛び立った。
『あいつすげぇな…』
「マネモブもレミエールのこと素直に褒めるんだね」
『まあな』
空を見ると、レミエールがギルタブルルを光弾でチマチマ撃っている。
ギルタブルルも光弾での反撃、建物内からの奇襲、直接攻撃……あの手この手で抵抗するが、全てレミエールに対応されている。
まさに独壇場、レミーエルが一枚も二枚も上手だった。
「死の舞踏、お気に召すといいな」
レミエールが舞うように剣を振るう。
ギルタブルルの、かつて脚部だった場所がさらに破壊され、貧弱な下半身が虚無と化した。
それと同時に、コアが露出する。
『見事やな…』『君に勲章を与えたいよ』
マネモブの、掛け値なしの賞賛だった。
例え敵対していても、それほどまでに見事な完封だったのだ。
「はぁぁぁぁ!!」
無様に逃げ回った末、元の場所へ戻ってきてしまったギルタブルルを、ピュロイスが刺し貫いた。
そして、レミエールの羽が、ギルタブルルの拘束をより強固なものとする。こうして、結使は磔刑に処されたのだ。
一行の目の前には、エーテルコア。これこそ、リンとレミエールの目的である。
「ドラキナ様がまだ中に!」
「任せて」
『えっ』
事情を何一つ知らないマネモブ。
マネモブは事の成り行きを見守っていた。
レミエールがコアに手をかざし集中する。その直後、コアから何かが飛び出した。
エーテルでできた大きな球体に眠るのは、紛れもなくドラキナ・サンブリンガー。
彼女が球体から滑り落ち……地面に叩きつけられる直前でピュロイスが抱き留めた。
「息はあるけど……虫の息だよ!」
「安定させてみる」
「マネモブも」
『おうっ』
ピュロイス……リンの言わんとすることは分かっている。
マネモブは活法の専門家でもある。レミエールがその力を行使するのと並行し、灘の施術で治療を施す。
その直後だった。奴が現れたのは。
『ん? な…なんかあやしい雲行きだな』『えっ』
「なにっ」
何かの気配を察知する。
それは、巨体の割にステルス性能が高すぎる巨大エーテリアス、バシュムである。
バシュムはギルタブルルを口でくわえ、一行を無視して去って行った。
「ギルタブルルをくわえて、行っちゃった?」
「う……!」
「レミエール!」
『お…おいトダー』『お前なんか変な関西弁になってるぞ』
それに疑問を呈する間もなく、レミエールの顔色がみるみる内に悪くなる。
顔色が悪いというのは語弊があるかもしれない。マネモブは確かに、彼女が戎具のエネルギーに浸食されているのを見た。
『むつみ』『こんなナンパな男とつきあうのはやめろ』
「ハハ……心配してくれてるんだ?」
「大丈夫なの!?」
「平気……今は、ドラキナを優先しなきゃ……」
『しかし…』
なおもドラキナの治療を優先するレミエール。
その姿は、かつてマネモブの友人を停止した女とも、サンブリンガー暗殺未遂の指名手配犯とも、まるで似ても似つかなかった。
マネモブはテキパキと治療を進め、彼女の負担を減らそうとする。その姿に、レミエールは微笑んだ。
「急だけど、一芝居つきあってね?」
『犬…?』『えっ』
レミエールの力に加え、マネモブの協力もあって容体が安定したドラキナ。
そんな彼女の小さな体を、レミエールはマネモブに押し付けた。マネモブは困惑している内に、レミエールが少し距離を取った。
直後、一行がいる場所に無数の足音が響く。
「容疑者がいたわ! 総員、戦闘態勢!」
それは、栄えある空巡局の精鋭兵士達。
彼らに加え、総務次官のシグリッド。そして、局長たるリンドヴェルヌ・サンブリンガーまでもがやってきた。
『な…なんやこの動きは…』
本当に何一つとして状況が分からないマネモブは、ドラキナを守るように抱きかかえた。
リンドヴェルヌは、ドラキナを心配そうに一瞥すると、レミエールに向かった。
「S級指名手配犯、レミエール・ダン……抵抗しても無駄よ」
マネモブが事情を説明してくれそうなピュロイス(中身はリン)に目を向けると、彼女も困惑していた。
ピュロイスが動こうとした時、意外にも口を開いたのはシグリッドだった。
「そこの“見知らぬ御仁”! くれぐれも軽挙妄動の類は慎まれよ!」
「えっ」
マネモブは、マネキン・フェイス内のエーテルコアだけを器用に動かし天を仰いだ。
リンも状況を分かっていなかったのだ。
「某らの目的はドラキナ様の確保ならびにそのお命を脅かした者の拘束である」
『えっ』『お…俺は放火殺人犯になっちゃうよ』
「己の立場を弁えているなら……本当に弁えているのか? ……まあいい。よいか、そなたらは何もするな」
マネモブは口では焦りつつも、冷静に戦力分析をした。それに気づいたシグリッドは警戒している。
だがその分析の結果、シグリッドが武器から冷気を発したなら、幽玄の技で容易に逃げられることが分かった。
ただ、それはこの場において何のアドバンテージにもならない。マネモブが欲しいのは、この状況に対する説明だったからだ。
リンに対して妙に釘を刺すようなわざとらしい言動のシグリッド。
その次に、リンドヴェルヌが口を開いた。
「レミエール、妙な真似はしないで……そして、そこのあなた。ドラキナを渡しなさい」
『なにっ』
多分仲間だと思われている中で、マネモブは思った。
“もしかしてここまで追いかけてきた連中は、ドラキナの身柄を狙う悪の組織なんじゃないスか?”
アホみたいな陰謀論だが、讃頌会の例もあるので油断ができなかった。
そう思っていると、レミエールが動く。
「ふんっ」
『なにっ』『36番』『何をするかあっ』
マネモブは飛ばされたもの……レミエールの羽を咄嗟に掴み取り、そのまま握り潰した。
やはりレミエールは悪人だったのか? そう思うマネモブだが、レミエールはわざとらしく言った。
「返すも何も……大事な人質は彼に奪われちゃったからなぁ。ごほっ……流石は、エーテリアス界きっての武人、だっけ? ドラキナの生殺与奪の権は彼にあるんだよ。人を襲わない、お人好しなエーテリアスの手にね」
『な…なんだあっ』
まるで悪人の演技をするように、露悪的に振舞うレミエール。
流石のマネモブも、彼女はこんな人間ではなかったと分かる。彼女は悪人を装っているのだ。
「あーあ、もうちょっと派手で大きな騒ぎになるかと思ったのに。こんなすぐ終わっちゃったらつまんないや。彼の介入もあったし……このゲームは終わりだね。あー、どうしてイレギュラーは発生するんだろう?」
社会を混乱させ、人々を襲うことをゲームだと認識するサイコ野郎を演じるレミエール。
あまりにも痛々しい……明らかに無理をしている。自身を犠牲にしようとしている。その姿に、マネモブは感銘を受けた。
途中、会話が耳に入らなくなるほどに、全員の動きに集中した。
「答えなさい、レミエール――ドラキナを拉致したのは間違いなくお前ね?」
「当然」
「では、高志グループ研究員代表、トリヴィアを襲ったのも?」
「うん、私だよ」
どんどん罪状が追加されていくので、一瞬大丈夫かと思ったマネモブだが、もうここはレミエールに任せることにした。
「あっさり認めてくれちゃって。ことの深刻さを分かってくれてるといいけど」
「もちろ……ッ!? ……!」
急にレミエールの動きが止まった。
もしかしてこれは演技ではないのでは? と思うマネモブ。
「レミエール、抵抗するなら――」
「何も、しないよ……」
シグリッドが彼女の体調を心配しつつ、それを感じさせない毅然とした態度で近づく。
打合せにはないが、打ち合わせの中ではある。シグリッドは
「私はただ、皆の前から……消えて……」
消え入りそうなか細い声が、彼女が万全ではないことを示す。
兵士達も、今ならレミエールを拘束できるのではないかと浮足立つが、しかしその前に動く者がいた。
「全くもう……見てらんないよ」
崩れ落ちそうになるレミエールを、ピュロイスが抱き留めた。
「アドリブ上等なんだしさぁ、もうすでに一人巻き込んでるし。一人くらい役者が増えてもいいよね」
それは、レミエールと共犯となり指名手配を受けるという宣言に他ならない。
「いいの……? 私、こんなんだよ……?」
「うん」
レミエールの言葉には、様々な想いが込められていた。
露悪的な振舞い、戎具に浸食された姿、最後まで演じきれなかった役者……リンは、彼女の全てを肯定した。
「一緒に、最後まで演じきろ」
マントによって作られた闇が晴れると、ピュロイスはレミエールを抱え、堂々とした足取りで裂け目へと向かった。
「この子は貰っていくよ」
彼女達は、裂け目へと消えていった。
「追えーっ」
「捕まえろーっ……あれ?」
兵士たちが追いかけた時にはすでに遅く、裂け目はきれいさっぱり閉じていた。
S級指名手配犯とその共犯者は逃亡したわけだが……この場にはまだ問題が残っている。
「……」
『…』
沈黙するリンドヴェルヌとマネモブ。
先に口を開いたのは、リンドヴェルヌだった。
「ドラキナを、こちらへ渡す意思はあるかしら?」
『ほらよ』『しっかり受け止めろよっ』
そっとドラキナを、シグリッドへ渡すマネモブ。
まるでエーテリアスとは思えない、重傷者に対する丁寧な扱いだった。
「ご協力に感謝を……それで、あなたは彼女達の仲間じゃないのね?」
『そうですけど何か?』
むしろ敵対してさえいた……つい先ほどまでは。
マネモブに、それを伝える気力は無かったが。
「もう行くのか?」
「もしよろしければ、ドラキナの保護に協力してくれたことに関して、こちらから謝礼を――」
リンドヴェルヌが続けようとしたところで思い至った。
マネモブはエーテリアスだ。虚狩りともあろう人物がエーテリアスと馴れ合っていたら不味い。
それが一瞬、言葉を詰まらせた。それを知ってか知らずしてか、マネモブは背を向けて去って行った。
「敬礼!」
「は? ……は!」
シグリッドの突然の命に困惑した兵士だが、すぐに敬礼をした。
マネモブは一瞬だけ立ち止まり、ひらひらと手を振った。
『お前ならわかってくれると思ったよ』『じゃあな』
マネモブが裂け目へと消えていく。
行き先は誰にも分からない。マネモブ自身も分からない。
「……」
「……」
リンドヴェルヌとシグリッドは、無言で顔を見合わせた。
後に残ったのは戦いの激しさを物語る痕跡と、マネモブの残気……
今日も新エリー都は平和だ。
しかし、その裏には無数の犠牲があるのかもしれない。
マネモブはその犠牲を無くすため戦いへ身を投じ、戦禍を鎮める。
それこそが、戦いを治めることこそが武術の本懐であると信じて。
没ネタ
「待ちなさーい! あいつドラキナさんを吸収するつもりだよ!」
『殺すだけでは済まさない』
廃墟の階段を駆け上がるピュロイスとマネモブ。