マネモブは燃え尽きていた。
理由は、怒りを失ったからである。
『君は病気だね?』
レミエールの人となりが何となく分かったことで、彼女への怒りを維持できなくなり、行き場を無くした怒りが急速に萎えていく。
ツイッギーやボンプ達にまで巻き込んでロスカリファまできて、自分のやっていることは自己満足でしかなく、ロスカリファの人々の迷惑だったのではないかと思い始めていたのだ。
『君は病気だ』
人一人いない、エーテリアスの残骸だけが残るシンギュラ・リークの中で自問自答するマネモブ。
彫刻のような肉体がピクリとも動かないその姿はまるで考える人。事実、マネモブは思考の海を泳いでいた。
しかし、懐の携帯が鳴り響くことで、意識が浮上する。
『も…もしもし』
マネモブは着信に出た。
この携帯は優れモノで、ホロウと外との誤差を10分以内に収めることができる。
『ハァーイ、マネモブ。今はヴィルリウムの
電話の主はツイッギーだった。
彼女は現在の状況をマネモブに伝えるため、定期的に連絡を入れていた。
『ここって広いわね。しかも道場より綺麗だし。やっぱりむさくるしい連中と変なロボットとエーテリアスと妹達がいないのが大きいんじゃない?』
『ククク…ひどい言われようだな』『まあ事実だからしょうがないけど』
灘・真・神影流道場は綺麗に保たれているが、ホロウ内な上に激しく使用することが多いのでやや劣化が否めない。
修理はしているものの、新品で美しいとは言い難い様相だった。ただ、それゆえに奥ゆかしさはあるのだが。
『……あら?』
『んっ』『な…なんかあやしい雲行きだな』
返事が返ってくることのない電話に、わずかな予感めいたものを感じるマネモブ。
『隊長と……ニコさん達じゃない!? どうしてこんなところに!?』
『つ、ツイッギー!?』
『な…なんだあっ』
会話からして、邪兎屋の面子がいるようだ。
そのほとんどはゴチャゴチャして聞き取ることができなかったが、しかしマネモブの聴力はその言葉を正確に捉えきった。
『隊長が誘拐!? 人体実験されたですってぇ!?』
ツイッギーがアンビーを隊長と呼んでいるのは知っている。
だが――看過ならない言葉がマネモブを貫いた。
『ハイドショア……研究所で――』
辛うじて聞き取れたのは、ハイドショア、そして研究所。
『ふうん』『そういうことか』
マネモブは怒りのあまり携帯を握り潰す。
ホロウでの蛮用に耐えうる特注品を、である。
そして一言呟いた。
『殺す…』
しかし、再燃した上、一度決壊した怒りはとめどなく溢れるものだった。
『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』『ぶっ殺す!』
瞬間、マネモブの姿は霞と消え、ただ疾風のみがホロウの塵を巻き上げた。
放出された邪悪な気が、絶え間なく残気を残し続ける。ホロウを駆ける死神の列が、研究所の愚か者達に迫る。
Now Loading......
『ジャマだクソゴミ』
「う あ あ あ あ」
研究所は酷い有様だった。
偶然……否、必然的にシンギュラ・リークを発生させたせいで、マネモブが乗り込める状況を作ってしまったのが運の尽きだった。
違法な研究がバレた研究所の職員が逃げる直前、マネモブが音も立てず、姿も見せず静かにやってきた。地獄に送るためにやってきた。
『ゴミは掃いて捨てるものだ』
「あ あ あ あ」
研究員と警備員では、マネモブを止めることは不可能だった。
幻魔突き。マネモブはあまり好まない技だったのだが、今回ばかりは怒りが全てを上回った。
マネモブは静かなる虎にはなれない。今だけは鬼となる。
「あへ、あへ、あへ……」
体が爆散する幻魔を植え付けられ、一生苦しむことが確定した哀れな者達。
激痛と精神的苦痛で、もはや精神崩壊寸前であるが、マネモブはそれらを捨て置く。
普段なら、敵であろうと必要以上に苦しませはしない。しかし、許せなかった。
『許せなかった…』『死人のように生きてるクズ共』
人を誘拐し、仲間を人質に取って人体実験をするなど許されるべきではない。もしこれが友人である邪兎屋ではなく、見も知らぬ人であろうと同じ怒りを抱いただろう。
ここで天誅……いや、ホロウ誅を下し、哀しみの連鎖を終わらせるしかなかったのだ。
『…(愛)』
マネモブは、地下にある強大な気配を追う。
しかし、頑丈なセキュリティの数々に阻まれる。
『ふざけんなよボケが』
マネモブが地団駄を踏む。
強大すぎる脚力が地面を揺らし……一部を破壊した。
だが、マネモブは気づいた。その下が空洞になっていることを。
『ふうん』『そういうことか』
どういうことか分かっているわけではないが、取りあえず気配に近づくために床を何とか掘り進める。
その辺にあったロボット兵器の武器を使ったりしたので、そこそこ簡単に掘ることができた。
『なにっ』『う あ あ あ あ』
露天掘りせずに直下堀りしたのでマグマダイブ……とはならず、比較的広い空間に出たマネモブ。
しかし、そこにいたのは、恐るべき者だったのだ。
『……』
『な…なんだあっ』
まるで鎧のような甲殻、巨大な剣とフレイル型のモーニングスター。
そしてエーテルの薄い気配……間違いなく結使の幼体である。マネモブにもそれが理解できた。
『ま…また刃物系か…』
またと言うほど刃物系に当たっているわけではないが、新エリー都では確かに刃物系は多い。
マネモブが構えると、甲冑のエーテリアス……クサリクもあまりにも巨大な武器を振りかざした。
空間すら引き裂く怪力の巨獣は、果たして猿空間よりの使者を打ち破ることができるのだろうか。
クサリクにとっては、結使としてのプライドを賭けた戦いが始まった。
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