【完結】跡に残るは雪ばかり。   作:朝日橋立

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第十七話 悩んだことの解決は存外なものです。

 その日、私は部屋でどうにかして魔法を使えない物かと悩んでいました。

 部屋の隅の埃を見つめ、うんうんと唸ります。

 

「思いつかない」

 どうしてもそれが消えるイメージが湧かず、また唸ります。

 そもそもとして魔素というものが全く分からないのですから、イメージを固めるというのも早計なのかも知れないと思います。

 

 しかし、どうもそこに何かあると思っても、それがよく分からないのです。

 なので、先に具体的なイメージを持てるようにと考えたのでした。

 ですが、先程も言ったように思いつけませんでした。

 

「はあ」

 溜息を漏らし、埃を指先で拭ってみます。

 指の先の埃を眼前に近づけ、観察します。

 

 ……こう見れば、埃は細かい粒です。

 指先を擦りあわせれば、殆どが墜ちていきました。

 

 ……なるほど……何か分かった気がします。

 ある程度の凹凸のあるもの、それで擦るイメージでしょうか?

 

 けれど、それでは一部は残ってしまいます。

 ……いえ、これが駄目なんでしょう。

 

 現実的に考えれば、完全に埃を消し去ることは不可能でしょう。

 しかし、例えばです。何かしらをとことんまで物質に近づけ、それで擦って、何処かの穴に落とすイメージでどうでしょう。

 

 何だかいけるような気がしたのを覚えています。

 目を瞑って、必死にその動きを考えました。

 

 空気中にあるナニカが板状にあって、それが床を擦り、小さな穴に落ちていきます。そうして、跡には何も残りません。

 ……その情景を幻視しました。

 

 恐れとともに、ゆっくりを目を開きます。

 これで失敗しているのなら、またやり直しです。

 体が震えました。

 

「やった!」

 小さく零しながら、何もない床を見つめます。

 そう、何もない床を見つめたのです!

 

 この時、私は初めて魔法に成功しました。

 これで一応は魔法使いとなれたのです。

 

 微かに、この成功を誰かに知らせたいと思いました。

 悩んだ末の結果、努力を他者に知ってもらいたかったのです。

 けれども、その欲求は直ぐに萎れてしまいました。

 

 私の魔法、浄化の魔法は出来て当然のことなのです。

 そもそもとして出来る前提があるのです。

 だのに、これを誇ったらきっと呆れられてしまいます。

 

「……もう一度しよう」

 出来なければいけないことなのに、先程の一回で満足は出来ません。

 もしかしたら、次は出来ないかも知れません。仮に、出来てもまたその次は分かりません。

 なのだから、完璧にしないといけないのです。

 何時如何なる場合にも、同じ行為が出来るようにならないといけません。

 

 適当な汚れを探し、それにまた魔法を掛けます。

 それを幾度か繰り返しました。確実に行えるように、幾つかの改善点を見つけ、それを解決しながら。

 

 さて、そうして数時間の後ほどです。

 妙な頭痛に気付きました。

 額に手をやれば、そこが熱を帯びていることが分かります。

 

「知恵熱かな……」

 少し休もうかと思い始めたところで、扉がコンコンコンと叩かれます。

 

「あっ、はい。どうぞ」

 反射的に声を返せば、扉が開かれます。

 そこから訪れたチャールズ男爵は言います。

「シア君、君に手紙が届いてる」

 

 はて、私に手紙を出すような人が居るのだろうか、と疑念を抱きます。

 それに、紙は羊皮紙よりかは安価ですが、それでも高級品です。

 

「ありがとうございます……」

 戸惑いながらも、それを受取ります。

 宛名には私の名前があり、送主には教会の名前がありました。

 

「何でしょうか……」

 教会には、殆ど接点を持たず、かといって何か異教を信仰しているわけでもありません。

 ですから、何かを言われる筋合いはないはずで、その手紙の謎が深まります。

 

 考えていたところで、どうしようもないので封筒を開けます。

 内容をさらっと読んでみたところ、決して面白い話ではありませんでした。

 

「……それで、どうしたい?」

 私が読み終わったことが分かったのでしょう。チャールズ男爵が問いかけてきます。

 手紙の内容を要約すれば、私の両親を殺した賊を公開処刑するから、見に来ないかという提案でした。

 

 少し悩みます。

 彼らに恨みがあります。

 殺してやりたいと思いました。

 けれども、処刑を寄って集って見るのは野蛮です。

 

 思い悩み、答えを出します。

「……面会を出来ないでしょうか?」

 

 私自身、彼らが死ぬ様を見たいわけではありません。

 勝手に死んでしまえばいい。

 しかし、しかしです。聞かねばならないことがあります。

 

 あの賊の内の一人が、私を誰かが売ったようなことを言いました。

 その誰かの正体を知らなければいけません。

 でなければ、私はきっと後悔をしてしまいます。

 私自身の手で賊を殺さなかったこと、そして両親とともに死ななかったこと。

 

 ですからこその提案は、結果として許されました。

 本日から二ヶ月の後、私が丁度十一才になる日でした。

 きっとこれは恩情です。

 私に不幸ばかりを強いた何かが、その恩寵を私に少しだけくれたのだと思います。

 何とも忌々しい話ではありますが……。




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