【完結】跡に残るは雪ばかり。   作:朝日橋立

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第二十話 しっかりと話してみれば、存外に新しいことが分かります。

 死刑囚と会うまで、大体一週間を残すその日、私は珍しくフランツ・クロージャーさんと話をしていました。

 単に授業に関する会話であるのならば、よくするのですが、久方ぶりに大人の方と雑談をしていたと思います。

 

「君は今の所、この学園で学んだことが有意義だと考えるかね?」と、クロージャーさんは問いかけます。

「そうですね……」少し悩みました。

 

 現状習っていることと言えば、魔法の使い方か、人体に関することだったりです。

 魔法の使い方を習う理由は、何となく承知しています。

 しかし、人体だったり、そういった所謂医学と呼ばれるのでしょう。それらを習うことの意義が私には分かりませんでした。

 

「目的と言いましょうか。習うことの意味がよく分かっていません」と、少し怖いですが答えます。

 彼はこちらを一瞥すると、溜息をついて言います。

「そうか……。そうだろう。よくよく考えなくとも、馬鹿らしい話だ」

 

 一通りの恨み言を吐いた後、彼は言いました。

「しかし、私には君の将来について、一切のことを言うことは出来ない」

 言えないだけで知っているのか、と暗に彼は言っていました。

 

「それでは、何か示唆をしていただけませんか?」

 無理を承知で言えば、彼はなるほどというように手を叩きます。

「そうだな……。君は氷と雪しかない景色を見たことはあるか?」

 

 雪と氷……北方のことでしょうか?

 以前散歩をしていたときに、老人から話を聞いた記憶があります。

「たぶんないです」

 

 彼は頷くと、話を続けます。

「そういった所はだね、人は可笑しくなってしまうし、よく病に伏す。夏頃は日が沈まないし、冬には太陽が昇りやしない。どんな逞しい人だろうと、病んでしまう。だからこそ、衛生と医療によるバックアップが必要だ」

 

 ……なるほど、大体分かったような気がします。

 私は北方に送られることになるのでしょうか?

 

 ……そうなのでしょうね。そちらの方が都合が良い。

 私の魔法は浄化です。であるのならば、それである程度衛生の壁はクリアできます。

 それに、私にある程度の医療知識を身につけさせれば、軍医の補佐にはなり得ます。……些か無理のある話ではありますが。

 

「仮に、衛生要員と医療要員の補佐を兼任することは出来るのですか?」

「私は難しいと思っているが、それが可能だと思う人も居る」

 

 ……どうやら私の予想は当っていたようです。

 そうであるのならば、このままではいけません。

 強制的にであろうとも、人の命を背負わせられるのです。

 なのだから、手を抜くことは許されません。

 それで誰かが死んでしまったのなら、私が殺したようなものです。

 いえ、きっと私が殺す事になるのです。

 

「……分かりました。先生、授業を進めて下さいませんか?」

 私の提案を、彼は快諾してくださりました。

 

 彼と話をしている内に、私はふと思いました。

 酷く善人なのだろう、と。

 彼は会話の中で、私を憐れんでいたように思えました。

 そもそもとして、彼からしたら私に対して、ここまでの説明をする必要はありません。

 だのに、彼は示唆してくれたのですから、そこに何らかの打算や計画があっても善人には変わりがないと私は思います。

 

 話さなければ、分らない事があるのだろうと思います。

 そう思えば、後悔ばかりが思い出されます。

 もっと人と話しておけば良かった、もっとお母様やお父様と話しておけば良かった。

 しかし、後悔は所詮は後悔です。

 もうどうしようもないのですから、気にしても仕方がないことなのかも知れません。

 

 ですが、その当時にはまだどうにか出来ることがありました。

 まだ話し合うことが出来る人が居ました。

 ですからこそ、私は授業を受けながらも思いました。

 チャールズ男爵と話し合わなければいけない、と。

 

 私は彼を疑っています。

 彼が酷く恐ろしいです。

 きっと、彼か彼の関係者がお父様やお母様の死に関係していると思います。

 そのために、私は彼と話をしようと思ったのです。




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