【完結】跡に残るは雪ばかり。   作:朝日橋立

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第二十七話 お話をすることです。

 その日は、珍しくソフィア・フランクさんと二人っきりでお茶をしていました。

 形としては、レイラさんとルナさんと同様に招かれたのですが、彼女らが少し忙しかったそうです。しかし、後ほど合流する約束をしています。

 

 さて、件のソフィアさんとは、そこまで特別仲が良いというわけではありませんでした。

 レイラさんやルナさんとは交友がありましたが、ソフィアさんはその友達というような関係性だったのです。

 

 それに、彼女が貴族だったという影響もあるでしょう。

 レイラさんはヒベルニア島の豪商の娘で、ルナさんは本島の豪族の娘です。

 しかし、ソフィアさんは紛うことなき貴族です。

 

 ですから、私は彼女を敬遠していました。

 彼女を怒らせてしまうのが恐ろしかったのです。

 

 何とも気まずい空気の中でどうしようかと悩みます。

 チラと彼女を見れば、上品にお茶を飲んでいます。

 

「口に合わなかったかしら?」と、ソフィアさんは声を挙げました。

「いっ、いえ、とても美味しいです」

 

 慌てた私を、ソフィアさんは一瞥します。

 彼女はカップを机に戻し、そのまま彼女は言いました。

「貴方は、外から来たと聞いたけれど、どんなところだったのかしら?」

 

「そうですね……。良く言えば、自然豊かで穏やかな場所でした」

 

 古い思い出引っ張り出しながら答えます。

 私の故郷は確かに、良い田舎だったと思います。

 何か大きな動乱、所謂発展という物もなく、緩やかな衰弱があったように思えます。

 

 ……ふと、気付いたことがあります。

 昔、チャールズ男爵にどうして魔法使いを集めるのかと聞いたことがありましたが、その時に彼はこの国、グラテン帝国が落伍するのを防ぐためだと言いました。

 

 それがきっと正しかったのでしょう。

 末端が腐敗していたら、中枢も同様に腐ってしまいます。

 下部構造が上部構造を決定する、というと大きな言葉ですが、強ち間違ってはいないでしょう。

 ですから、その不安定を彼は取り除くため、魔法を使える人に頼ろうとしたのでしょう。

 

 まあ、私の愚考はどうでも良いことです。

 質問に答えるだけでは、会話を終わらせてしまうことになる、とこちらからも話を振ります。

「ソフィアさんの故郷は、ここランダインですか?」

 

「一応そうね」

「一応、ですか?」

「生まれて直ぐに南方に行ったから、故郷だけどという感じなのよ」

 

 そういう事もあるのか、と納得しつつも気になった事を問いかけます。

「どうして南方へ行くことになったのですか?」

 

「お父様が南方で副総督の役目を任命されたからよ」

「副総督というのは何でしょうか?」

「現地に行って、皇帝の猿真似をする役目のことよ」

 

 ソフィアさんの乱暴な言葉に少し恐ろしくなりました。

 偉い、敬うべきな役職を貶しているように思えましたから。

 

 何か嫌な思い出でもあるのでしょうか、と疑問に思っているとソフィアさんが苦々しく口にします。

「本来はそれだけの仕事なのよ。仕事は誰かに任せれば良い筈だった。だのに、見栄ばかりの為に馬鹿らしいことを改革だ何だとやり出して、その挙げ句権威を失う何てねぇ。馬鹿らしいと思わない?」

 

 同意を求められても……と心の底から思いました。

 そもそも何をしたのかも分からないですし、馬鹿らしいと口にするのも禍根が残りそうで怖いですし。

 

「まあまあ。……ソフィアさんのお父様にも何か考えがあったはずですし」

 軽く諫めるように言えば、彼女は溜息交じりに言います。

「そうなのかしらね……」

 

「そうです。お父様とお話をしたらどうでしょうか?」と、彼女に提案をします。

 何時、話すべき人と別れてしまうのかが分からない現代なのですから、話せる内に言葉を交わすべきであると私は考えます。

 勿論、それが後悔になることもあるでしょうが。

 

 ソフィアさんは、悩ましそうに顎に手を付けます。

 しばらくそうしてから、私をチラと見ます。

 

「お父様と仲違いでもしたのですか?」と、失礼を承知で問いかけます。

 ソフィアさんは少し悩んで答えました。

「いいえ、何もなかったわ。何もね」

 

「でしたら、話し合うことが出来ると思いますよ」

「そうかもね」

 

 ソフィアさんは、何処か遠くを見ていました。

 このまま深掘りしてはいけないだろう、と何となく思えました。

 

「あっ、そういえば、ソフィアさんの南の方の故郷はどのような所なのですか?」と、露骨に話を変えます。

 

「この国とは違った感じだけれど、綺麗なところよ」

「そうなのですか? それじゃあ、行ってみたいものですね」

 

 私の言葉に、ソフィアさんは少し笑ったように思えました。

 何か可笑しな事を言ったのか、と戸惑ったのを覚えています。

 

 私の戸惑いに気付いたのでしょう。

 ソフィアさんは言いました。

「南方は犯罪者ばかりが送られるところよ。だから、少し可笑しくってね。ごめんなさいね」

 

 さて、それから幾許か話をしました。

 とりとめのない、どうでも良いことばかりを話題にした筈です。

 何処何処のお菓子は美味しいだとか、学校でこう言う事を習っているとか。

 

 ただただ楽しかったことを覚えています。

 彼女が同年代という訳ではありませんが、友達と話しているような気がしました。

 

 私はたぶんこの生活を悪くないと思っていたのかも知れません。

 始めの大きな不幸から始まったこの生活。

 しかし、結局の所は何事も永続はしないものです。特に幸福なんてものは。




小話
ソフィアの父の元ネタは、流刑植民地の改革をしようとした人です。
しかし、失敗して失脚したそうです。
ちなみにwiki情報なので正しいとは限りません。あと、改革の内容も論文を調べても出てきませんでした。
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