その日は、レイラさんに連れられ、博物館にお邪魔をしていました。
そこは国内でも有数の博物館で、海外から集められたものがたくさんありました。
そういった物は、何かすごいのだろうとは思いました。
けれど、なんとも言葉にし難いものです。
展示物を興味深そうに見つめるレイラさんの横顔を一瞥します。
本当に楽しそうな様子です。
「こういったところに来るのが好きなのですか?」
ふと、思いつきで声を掛けます。
レイラさんの髪が揺れ、視線がこちらに向きました。
「ええ、好きよ。面白いでしょう」
面白い? と不思議に思っていれば、それに、と彼女は続けます。
「異国情緒というのかしらね……。海外に行くというのも、近くならできないことはないけど、本当に遠くの国は難しいでしょう。例えば、この星の反対側の国とか。でも、ここならある程度はその遠くの国を感じれると思うのよ」
なるほど、彼女の言う通りだと思えました。
そういった視点で見ると、面白いものかもしれません。
そう思って展示物に視線を移してみます。
目前には、いろいろなコインが並んでいます。
女性の横顔が書かれたコインや、おじさんの顔が書かれたコイン……。
「これって、グラテンの硬貨ですよね?」
目前にある祖国の硬貨を指さして言います。
「ええ、そうね」と、レイラさんは答え、続けました。
「こういうものの場合はそうね……。今とはどう違うか、とかそういうのを見たりするのが楽しいと思うわ」
「なるほど」と、返事をしながらもどうにも違いが分かりません。
形状の違いがあるのは明確ですし、書かれた人の顔も若干違いますけど、面白さを感じるほどの相違を見つけることができませんでした。
「少し難しいかも知れません」
「そう?」
「はい、申し訳ありません」
「いや、こちらこそごめんなさいね。……じゃあ、何か別のものを見ましょうか」
「ありがとうございます」
先を行くレイラさんの背を追いました。
彼女の金色の髪が、楽し気に揺れています。
綺麗なものだと思い、自身の髪の毛に少し触れます。
同じロングヘアだというのに、何か大きな違いがあるように思われます。
髪色はもちろんそうですが……。身長でしょうか?
ふと気付きましたが、この頃、身長が伸びていない気がします。
もしかしたら、ずっとチビのままかもしれません。
適当なことを考えていたら、視界の端に一人の青年が映ります。
茶髪を乱雑に切りそろえた人が、堂々と歩いています。
ただそれだけだというのに、なぜだかその青年が目立つように思われました。
彼が印象に残るような美丈夫だったというわけではありません。
どちらかといえば、すぐに忘れるような平凡な顔立ちでした。
ですが、当時の私は彼を目で追いました。
そして、彼が人ごみに紛れ、見えなくなる辺りで彼の手が他人の鞄に伸びたように思われました。
「どうしたの? シア」
立ち止まっている私に、レイラさんが声をかけてきます。
「あっすいません。大丈夫です」
先ほどの青年のスリを頭から追い出そう、と勤めながらレイラさんのほうへと駆け寄ります。
それからも、博物館で色々なものを見ました。
古い国の石碑だったり、武具だったりを見ているうちに、レイラさんの言う異国情緒というものが分かるような気がしました。
例えば、遠い東の国の刀剣は、サーベルのような形をしていて、叩き切ることを目的にしない独特な武器だそうです。
これを考えると、こちらとだいぶ違う争いの様相なのだろうと予想が付きます。
このような想像をすることの楽しさが、なんとなくではありますが分かりました。
当たっているかどうかは分かりませんが、それでも妄想の中の世界は面白いものです。
遠国の石碑をよく眺めていたところです。
全く何を書いているのかがわからない、と思いながらも内容を考えていると、視線を感じます。
辺りを見渡せば、レイラさんと目があいました。
「どうかしましたか?」
視線の意味が理解できず、問いかけます。
レイラさんは、笑った調子で答えました。
「いや、何でもないわ」
回答とは言えない返事に、たぶん顔を顰めたと思います。
どうしても理解できそうになかったので。
「何なのですか?」と、レイラさんに近づき、見上げながら問いかけます。
彼女はより笑ったような調子でした。
「楽しそうだな、と思ったのよ」
「そうですか?」
自分では、よく分からずに少し考えてみましたが、やっぱり分かりませんでした。
しかし、当時の私が楽しんでいたというのは、確実といっても良いでしょう。
展示物を見るのも面白かったです。
それに、レイラさんという友達と遊べているのもうれしかった。
何かもが良いもので、素晴らしい日でした。
私はこの幸福を自覚できていなかったのです。
考えることもなく、幸せな日常を……。
しかし、何事も後の祭りというものであります。
この幸福も今では、幸せだと純粋には思えない。
先の不幸の周到な共謀者、悪魔の手先だと思えて仕方がありませんでした。