【完結】跡に残るは雪ばかり。   作:朝日橋立

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第三十一話 頼りない人です。

 ジョッシュさんと対面してから、一週間ほど経った頃合いの話です。

 その日、部屋に訪れると、そこには知らない人物がいました。

 

「あの、申し訳ありませんが、貴方はどちら様でしょうか?」

 

 彼はこちらを急いだ様子で向きます。

 第一印象は、頼りにならなさそうな大人でした。

 

「あっ、えっとだね。僕はヘンリー・グッドマン」

 

 ヘンリーさんは、名乗るとこちらに手を差し出してきます。

 その手を取りながら、やはり理解ができないことがあり、口を開きます。

 

「何かご用ですか?」

 

 ヘンリーさんは、さあ、というように肩をすくめます。

「僕は上司から、ここに来いと指示されただけさ」

 

「はあ」

 彼の上司さんは一体何を考えているのだろうか? ここが空き教室だと思っていたのかな、と疑問を抑えきれませんでした。

 

「それで、君はどうしてここに来たんだい?」

 ヘンリーさんは、思い出したように問いかけてきます。

 

「えっと、私はいつもここで授業を受けていまして……」

「授業? もしかして、君は生徒さんかい?」

「はい、一応は……」

 

 ヘンリーさんは、目を見開いて言います。

「それは凄い!」

 

 私の能力によるものではありませんが、褒められると少しうれしかったです。

「そうですかね……」

 

「僕はこういった所に、三十近くになるまで入れなかったから。君は本当に凄まじいよ」

「そうなのですか?」

「実家にあまりお金がなくてね……。それに、熱心な宗教論者だったからね」

 

 嗚呼、なるほどと心中で納得します。

 ここランダイン学校は、珍しく無神論的な学校です。

 ですから、彼の両親は看過が出来なかったのでしょう。

 

「でも、学校には行けたのですよね?」と、問いかけます。

 親が許さず、そしてお金もないということは貴族でもないのでしょう。その状態で、どのようにして学校に通えたのか、と気になりました。

 

「十八かな、そのくらいでこっちに出てきて、医者の下で働かせてもらったんだ。そこで十二年ちょっと頑張ってお金をためて、大陸の大学に行ったんだよ」

「それは、凄い大変な道筋ですね」

「いや、そこまでだよ。働いてた時も楽しかったし、大学も楽しかったからね」

 

 さて、そのように駄弁ってると教室の扉が開かれます。

「あっ、おはようございます」と入ってきたフランツさんに頭を下げます。

 

 フランツさんは、私とヘンリーさんを順に見ます。

 それから口を開きました。

 

「待たせた。シア、そしてグッドマン少尉」

 

 少尉と呼称されたヘンリーさんを一瞥します。

 やはり軍人らしくはない印象を受けます。

 

「さて、グッドマン少尉、話は聞いているかね?」

 

 フランツさんの問いかけに、ヘンリーさんは頷きます。

 そして間を開けて、驚いたような表情を見せます。

 

「えっと、クロージャー中尉、この子なのですか?」

 

 フランツさんは頷き、困ったような表情で私に言いました。

「これから君の授業は、彼に委任された。軍医のグッドマン少尉だ。よく彼から学び給え」

 

 急にこのように言われても、困ってしまいます。

 私はきっと目を見開いていたに違いありません。

 この驚きをよくよく覚えています。

 

 さて、その様子にフランツさんは渋い表情をしてから、私と視線を合わせるように膝をつきます。

 これにも驚いたのを覚えています。

 

「こうなってしまったのは、正直言って私にも分からない。けれど、結局は教える人間が違うだけで、事柄は大体同じだ。だから、これからも頑張りなさい」

 

 そう言い切ると、フランツさんはすぐに立ち上がって口を開きます。

「私はこれから他の仕事がある。頼んだ、グッドマン少尉」

 

 フランツさんが去ったあと、直ぐにヘンリーさんが声を発します。

「えっと、まあ僕の自己紹介はしたから……。あっ、まだ君の名前を聞いてなかった」

 

 言われてみれば確かに、と気づきます。

「あっ、すいません。忘れていました。私はシア・アトウッドです。浄化の魔法が使えます」

 

 軽く自己紹介をすると、ヘンリーさんは小さく頷いてこちらを一瞥します。

「一つ君の魔法を見せて貰えないかな? 僕は魔法を使えないけど、それがどれくらいの能力なのかを知っておきたい。報告書を貰ってはいるけど、信用はできないからね」

 

「大丈夫ですけど、何か汚れたものはありませんか?」

「そうだな……。医学の畑の人たちから借りれないかな?」

「分かりました。それで、その方たちはどちらにいますかね?」

 

 医学を学んでいる人たちの所へ行こう、と考えているとヘンリーさんは焦った様子で言います。

 

「いや、君はここで待っていて」

「えっ、どうしてですか?」

「何というのかな、僕が持ってくるから」

「わざわざここでやる必要性もありませんし……」

 

 ヘンリーさんは悩ましそうに唸ります。

 そして、意を決した様子で言いました。

 

「魔法が認められてきているけど、やっぱり受け付けないっていう人が何処にでもいるんだ。だから、見せないことに越したことはない」

 

「そうなのですか?」と、理解できずに呈します。

 確かに宗教の熱心な信者だったらあり得るかもしれませんが、ここはそこまで宗教の色が強くはありません。だから、大丈夫なように思えました。

 

「まあ、絶対とは言えないけど、できる対策はなんでもするべきだろう? それじゃあ、待っててね」と、言い残すとヘンリーさんは部屋から飛び出していきました。

 

 何だか釈然としたないものが残っていた気がしました。

 ヘンリーさんを疑う気持ちがありつつ、けれど否定もできません。

 何事も絶対というのはありませんから。

 

 さて、室内では遠ざかっていく足音ばかりが聞こえました。

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