【完結】跡に残るは雪ばかり。   作:朝日橋立

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前回の閑話七の表現を変更しました。
主人公を「ミス・フランク」と書いていましたが「ミス・クロージャー」へのキャラクター名の変更です。


閑話八 二百年前の足跡を辿って

「ハイツマン先生、(くだん)の遠征について聞いても大丈夫ですか?」

 

 冷たい北極圏の海に潜った帰りに、嬉々とした様子の彼に声をかける。

 つい先ほどまでは、この遠征とやらに何ら興味はなかった。

 しかしながら、実際その根拠を見つけたのだ。強い興味が湧いた。

 

 この何ともどうしようもない欲求というのは、きっと血のせいだろう。

 随分前の代、丁度この遠征の時くらいから冒険家的な稼業が続いている。

 といっても、古の文明の痕跡を調べるとかの、歴史学者的側面が強い。

 もしや、この遠征に感化され、私の先祖はこれを始めたのかもしれない。

 

「何が聞きたい?」

 ハイツマン先生は、日記帳らしきものからこちらに視線を向けた。

 彼の様子と言えば、何か聞いてほしそうな様子だった。

 

「確か二隻ですよね? この遠征隊って」

「ああ、だからまだ一隻残ってる」

「遠征隊って何人だったのですか?」

「135人だ。そのうち、5人はここに来る前に死んでる」

「なるほど……。死因は?」

「原因不明の病死だ」

 

「原因不明?」と、オウム返しをする。

 

「好事家は呪いだなんていうが、単に風邪が悪化したとかだろう」

「じゃあ、実質的には130人ですか?」

「いや、何故かは分からないが、名簿からあと1人消されている」

「誰ですか?」

「さあ?」

 

 彼は疑問を返しながら、隊員名簿らしきものを出してくる。

 そこには不自然に黒塗りされた欄がある。

 

「これは全部でやられてるんですか?」と、先生の顔を見れば、彼は黙ってうなずいた。

 意味が分からない、と頭を抱える。

 そもそもどうして黒塗りされているのかもわからないが、それよりも分からないのは、黒塗りされた人物が士官であろうことである。

 彼の上下の名簿が士官なのであるから、単なる隊員だったらおかしな話だろう。

 

「誰かアタリはついてるんですか?」

「もちろんだ。この遠征の後、チャールズ・クロムウェルだったかな? 確かそんな名前の政治家が、コイツだと思われる奴で扇動をしてる」

「なんて名前の人ですか?」

「アトウッドっていう男だ」

 

「なるほど……」と情報を整理していると、「ただ」と先生はそれを遮り言葉を続ける。

「この政治家が言うアトウッドは、この遠征のだいぶ前に死んでる」

 

「はあ? どういうことです」

「詳しくはクロムウェルが死んだあと、全てが焚書されたからよく分からないんだ」

「じゃあ、適当な人物を使ったとかそういう話じゃないんですか? そもそも、私クロムウェルっていう人知らないんですけど、どんな人です?」

「確か共和主義者の貴族だ。政治改革をやろうとしたらしいが実際の所は分からん。いろいろと黒いうわさが絶えない奴だったらしい。だからか知らんが、暗殺されて死んでる」

 

 わお、と心中で呟きながらも問いかける。

「その黒いうわさというのは?」

「国に隠して私兵を作ってたらしい。死後3年くらいに言われ始めたことだがな」

 

 ただの政治家というよりも、テロリストの方が近いのかな?

 ……いや、でも共和主義者でテロリストって聞かないし。

 

「それで、そのアトウッドは?」

「コイツは分からん。ただ、コイツが住んでた村の子孫が当時の村民の日記を残してた。それによると、木こりの男らしく、嫁さんと子供が二人。ただ、全員強盗に襲われて死んだことになってる」

「何です? その含みのある言い方」

「実は娘が一人生き残ってた可能性があるんだ」

 

 それじゃあ、その人が件のアトウッドか?

 アタリをつけながらも問いかける。「名前は?」

「シア・アトウッド。その後の足取りが断片的にしか分からない女だ」

 

「というと?」

「この遠征の前後に、コイツを示したらしい手紙が残ってる。遠くに行ってしまうのが寂しい、とかいう内容の手紙さ」

 

「ああ、もうなんか意味が分かりません! あと、疲れました。お茶ありますか?」

 必死に考えたわけだが、結局はどうしても分かりそうにはなかった。

 情報の確度が低すぎるのだ。全く結論を出せる根拠がない。

 謎が過ぎて、もう疲れてしまった。私は頭がよくないのだ。

 

「あったかい紅茶の方がいいか?」

「……はい」

「分かった、少し待ってなさい」

 

 机に突っ伏して、考え事をする。

 果たしてシア・アトウッドは何者か……。

 あの時代だし、筆まめな性格だったりしないものだろうか……。

 いや、あり得ないか。彼女はたぶん平民だ。

 ……待てよ。平民なのに士官になるのがあり得るのか? そもそも男じゃないし──。

 

 

 私の思考は、お茶を持ってきた先生が帰ってくるまで続いた。

 だが、結局は何ら解は出てこなかった。

 

「はあ」と、溜息を吐き、揺れる水面を眺めた。

 それから、先生の顔を見て問いかける。

「そういえば、この調査ってあと何日でしたっけ?」

「あと4日だ」

「げっ、そんな短いんです?」

「これでも頑張ったが、民族によってはここは聖地なのさ」

 

「なるほど……」とつぶやきながら、机の心地よい冷たさに目を閉じた。




本編再開はまだまだ先です。
ブログとバンドを始めて時間があまりありません。
あと一話閑話を書きます。日記形式です。
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