主人公を「ミス・フランク」と書いていましたが「ミス・クロージャー」へのキャラクター名の変更です。
「ハイツマン先生、
冷たい北極圏の海に潜った帰りに、嬉々とした様子の彼に声をかける。
つい先ほどまでは、この遠征とやらに何ら興味はなかった。
しかしながら、実際その根拠を見つけたのだ。強い興味が湧いた。
この何ともどうしようもない欲求というのは、きっと血のせいだろう。
随分前の代、丁度この遠征の時くらいから冒険家的な稼業が続いている。
といっても、古の文明の痕跡を調べるとかの、歴史学者的側面が強い。
もしや、この遠征に感化され、私の先祖はこれを始めたのかもしれない。
「何が聞きたい?」
ハイツマン先生は、日記帳らしきものからこちらに視線を向けた。
彼の様子と言えば、何か聞いてほしそうな様子だった。
「確か二隻ですよね? この遠征隊って」
「ああ、だからまだ一隻残ってる」
「遠征隊って何人だったのですか?」
「135人だ。そのうち、5人はここに来る前に死んでる」
「なるほど……。死因は?」
「原因不明の病死だ」
「原因不明?」と、オウム返しをする。
「好事家は呪いだなんていうが、単に風邪が悪化したとかだろう」
「じゃあ、実質的には130人ですか?」
「いや、何故かは分からないが、名簿からあと1人消されている」
「誰ですか?」
「さあ?」
彼は疑問を返しながら、隊員名簿らしきものを出してくる。
そこには不自然に黒塗りされた欄がある。
「これは全部でやられてるんですか?」と、先生の顔を見れば、彼は黙ってうなずいた。
意味が分からない、と頭を抱える。
そもそもどうして黒塗りされているのかもわからないが、それよりも分からないのは、黒塗りされた人物が士官であろうことである。
彼の上下の名簿が士官なのであるから、単なる隊員だったらおかしな話だろう。
「誰かアタリはついてるんですか?」
「もちろんだ。この遠征の後、チャールズ・クロムウェルだったかな? 確かそんな名前の政治家が、コイツだと思われる奴で扇動をしてる」
「なんて名前の人ですか?」
「アトウッドっていう男だ」
「なるほど……」と情報を整理していると、「ただ」と先生はそれを遮り言葉を続ける。
「この政治家が言うアトウッドは、この遠征のだいぶ前に死んでる」
「はあ? どういうことです」
「詳しくはクロムウェルが死んだあと、全てが焚書されたからよく分からないんだ」
「じゃあ、適当な人物を使ったとかそういう話じゃないんですか? そもそも、私クロムウェルっていう人知らないんですけど、どんな人です?」
「確か共和主義者の貴族だ。政治改革をやろうとしたらしいが実際の所は分からん。いろいろと黒いうわさが絶えない奴だったらしい。だからか知らんが、暗殺されて死んでる」
わお、と心中で呟きながらも問いかける。
「その黒いうわさというのは?」
「国に隠して私兵を作ってたらしい。死後3年くらいに言われ始めたことだがな」
ただの政治家というよりも、テロリストの方が近いのかな?
……いや、でも共和主義者でテロリストって聞かないし。
「それで、そのアトウッドは?」
「コイツは分からん。ただ、コイツが住んでた村の子孫が当時の村民の日記を残してた。それによると、木こりの男らしく、嫁さんと子供が二人。ただ、全員強盗に襲われて死んだことになってる」
「何です? その含みのある言い方」
「実は娘が一人生き残ってた可能性があるんだ」
それじゃあ、その人が件のアトウッドか?
アタリをつけながらも問いかける。「名前は?」
「シア・アトウッド。その後の足取りが断片的にしか分からない女だ」
「というと?」
「この遠征の前後に、コイツを示したらしい手紙が残ってる。遠くに行ってしまうのが寂しい、とかいう内容の手紙さ」
「ああ、もうなんか意味が分かりません! あと、疲れました。お茶ありますか?」
必死に考えたわけだが、結局はどうしても分かりそうにはなかった。
情報の確度が低すぎるのだ。全く結論を出せる根拠がない。
謎が過ぎて、もう疲れてしまった。私は頭がよくないのだ。
「あったかい紅茶の方がいいか?」
「……はい」
「分かった、少し待ってなさい」
机に突っ伏して、考え事をする。
果たしてシア・アトウッドは何者か……。
あの時代だし、筆まめな性格だったりしないものだろうか……。
いや、あり得ないか。彼女はたぶん平民だ。
……待てよ。平民なのに士官になるのがあり得るのか? そもそも男じゃないし──。
私の思考は、お茶を持ってきた先生が帰ってくるまで続いた。
だが、結局は何ら解は出てこなかった。
「はあ」と、溜息を吐き、揺れる水面を眺めた。
それから、先生の顔を見て問いかける。
「そういえば、この調査ってあと何日でしたっけ?」
「あと4日だ」
「げっ、そんな短いんです?」
「これでも頑張ったが、民族によってはここは聖地なのさ」
「なるほど……」とつぶやきながら、机の心地よい冷たさに目を閉じた。
本編再開はまだまだ先です。
ブログとバンドを始めて時間があまりありません。
あと一話閑話を書きます。日記形式です。