椅子に深く腰掛け、溜息をつきます。
目前にある火の穂が、それに合わせて小さく踊っています。
先程、病人の皆さんは犬ぞりで街の方へと運ばれました。
少し肩が軽くなった気もしますが、同時に酷くお腹に鉛が流し込まれたように重いです。
彼らが果たして無事に辿り着けるのか……。心配は絶えません。
その心配もありますが、他にも私の悩み事はあります。
今、目前には紙が何枚か置かれています。
つい先ほど、この紙をヘンリーさんに手渡されました。
此処が本国へ出せる最後の手紙らしく、よくよく考えて書きなさい、と言われたのです。
本国の友人に伝えたいこと、これを考えるときっと沢山あります。
しかし、いざ言葉にしようと思うとどうも思い浮かびません。
一つ溜息を吐いて、甲板へと出ます。
こう悩んでいては名案は浮かばないものです。それに、時間はまだあるのです。
冷たい空気に体を震わせながら、遠くを見ます。
流氷が緩やかに流れています。
「アトウッド伍長、何かありました?」
声の方を向くと、重そうなものをもったヒューさんがいました。
はて、あの荷物は何でしょうか?
「少し手紙の内容が思いつかなくて……。それで、その荷物は何ですか?」
「これですか? これは陸の方に簡易的な礼拝所を作ろうって話になったんですよ。どうやらノクスの方に、それはもう強い信心を持った奴がいるらしく」
「へえ、私も設営について行って構いませんか?」
「えっ、ああそういえば貴方も案外信心のある人でしたね」
「違いますよ」と、訂正をしつつも彼のあとを追って船を降ります。
少し歩く速度の速いヒューさんに、小走りでついてくこと数分が経って、やっと目的地に到着します。
後についていくことに必死で、気づいていませんでしたが、どうやら私は少し小高い所に登っていたようです。
酷く遠い先、名前も知らない岬で波が砕け、その白く濁った穂先がまた次の波に飲み込まれていきます。
それに時も忘れて、綺麗だと思いました。
沈まない憎らしい太陽でさえ、この時は美しかったです。
視界の端に映る白い息が、緩やかな風に吹かれ、散り散りになります。
私の息の音だけが妙に響いて聞こえてきました。
「アトウッド伍長、そこから見てこれって傾いてます?」
声に振り向くと、そこではヒューさんを含めて何人かが木の棒を地面に突き立てています。
「大丈夫です。傾いませんよ」
少し遠くにいるので、大きな声で返事をして、彼らの様子を観察します。
彼らは棒を立てると、そこに釘を打ち付けて、円状に加工された木を掛けています。
それからは各々色々と飾り立てています。……果たしてあれは許されるのでしょうか? 敬虔な人に見られたら、なんとも怒られそうです。
「アトウッド伍長も何か飾りますか?」
遠くで見ていると、ヒューさんが私に声をかけてきます。
少し迷いました。信心は深くありませんが、冒涜だと怒られる予感がしました。
しかしながら、私の眼にはこれが非常に魅力的に映りました。
私は彼らに駆け寄りつつ、ポケットの中に何かないかを探ります。
すると、何らかの布があることが指先から伝わってきます。
「どこに飾ればよいですかね?」
近づいてみると、存外に高い棒に少し驚きつつも、助言を求めます。
彼らは少し悩んだ様子を見せてから、円が吊るされた釘を指さします。
御礼を言いつつ、そこに布を結びます。
そう綺麗な布ではありませんでしたが、違和感のあるものではありませんでした。
それからも色々と創意工夫をして、様々な飾りつけをしていると、登ってくる人が幾人かいました。
この棒を見られると、少しまずい、と緊張に体をこわばらせていると、誰かが声を張り上げます。
「おおーい、こっちだ」
「彼らは?」と、ヒューさんに質問を投げかけます。
「ああ、あいつらが敬虔な煩い人たちですよ」
「えっと、怒られません?」
「さあ?」
少し怒られる覚悟をしていると、駆け寄ってきた方の一人は言いました。
「いやあ、いいですね。面白いです」
許されたことの驚きもありつつ、それから皆さんと一緒に沢山飾りをしました。
確かにある一面から見れば、冒涜的なのかもしれません。
しかし、神様だって時にはおしゃれをしたいものでしょう。
ふと、私はこのことこそを手紙に書こうと決めました。
きっと、皆さん驚きます。