【完結】跡に残るは雪ばかり。   作:朝日橋立

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お久しぶりです! この章のおわりまで書き切れました!


第四十三話 遠いところに住む人々です。

 お手紙を出した翌日、上から響いてくる足音の騒々しさに、欠伸を耐え切れずに零します。

 今朝からは食料の搬入が始まりました。

 あの美味しくもなければ、体調不良の原因の可能性もありうる缶詰です。

 色々と不満はありますが、既に進言は無視されているのです。どうしようもありません。

 

 ところで、私が何をしていたかと言えば、特に何事もしておりませんでした。

 他の船員さんに比べて、二回りも過言なほどに身長差があります。

 そもそも、私自身が同年代でも少し低い方なのですから、手伝うだけ邪魔だそうです。

 

 それに、今は体調不良の方もいません。

 ですから、一人寂しく医務室でウトウトしていました。

 

 さて、その折です。

 落ち着いた声が背後から聞こえてきます。

 

「時間はあるか?」

「あっ、はい。丁度」

 

 急いで立ち上がって、フランツさんに返事をします。

 彼は小さく頷くと、口を開きました。

 

「今から原住民の所へ行くが、付いてきてほしい。頼めるか?」

「えっと、一体どうして私なのでしょうか……」

「すまないが、それは私もよく分かっていない」

 

 更に私を混乱させる言葉に、少し返事を詰まらせていると彼は続けます。

「フランク隊長、彼の指示だ。私には一切理由を知らされてない」

 

 フランツさんの言葉に、一抹の不安を覚えます。

 しかしそれも仕方のないことで、私はフランクさんのことが心底嫌いでした。

 彼が私の両親の死について、何やら知っているということもそうです。ですがそれにもまして今は、何やら色々なことを企んでいるのにもかかわらず、何事も中途半端ところが嫌悪に値します。

 

 先述の通り僅かな不安はありました。けれども、私はフランツさんについていくことを決めます。

 そもそもとして今は時間があり余っています。それに、頼られたのですから断るというのも忍びないものです。

 

 

 

 

 

 

 寒空の下、フランツさんの後を追って歩きます。

 どうやら犬ぞりを使わない程度の近い場所にあるようです。

 

「原住民ってどのような方々なのですか?」

 ふと気になったことを口にします。

 

「よく未開の蛮人だと言われるが、彼らは気の良い隣人達だ」

「へえ、どうしてそのように言われるのです?」

「生肉を食べる必要性もない連中のざれことだよ」

 

 フランツさんの言葉に耳を傾けていると、引っ掛かりを覚えてその単語を反駁します。

「生肉?」

 

「ああ、そうだ。彼ら、スノー族の文化だ」

「へえ、美味しいんですか?」

「私は好きだな。多少血生臭さもあるが、それも一つのアジだろう」

「食べたことあるんですね。どういった経緯で食べることになったのです?」

 

 フランツさんは一度考えるような素振りを見せます。

 この時、なんとなくではありますが無粋な質問をしたことに気付きました。

 

「何度か前の遠征、私が士官候補だった時のことだ。あの時、私の乗っていた船が沈んでしまった。不幸なことだった。無事な船に乗り込んだのだがね、どうにも食料が足りなかった」

 

 一体どうして生肉を食べることになったのかが、此処までで大体わかったような気がしました。

 しかし、そのような空腹というのは中々つらいことでしょう。何とも味わいたくないことです。

 

 さて、再びフランツさんが口を開こうとしたところで、石が滑る音が前方から聞こえてきます。

 少し驚いて、視線を音源へ移すと、そこには一人の少女がいました。

 分厚い防寒着のフードの中から、短く黒い髪が見えます。

 彼女のことは最初、格好良い子に見えました。

 

「失礼、君はスノー族の子かい?」

 フランツさんが彼女に声をかけると、彼女はゆっくりと顔を縦に振りました。

 こちらの言葉が分かるということは、きっとお話が出来そうです。

 

「私はフランク遠征隊副官、フランツ・クロージャー中尉だ。君たちの本拠地へ案内をしてほしい」

 フランツさんの呼びかけに、彼女は付いてこいと言うような素振りを見せ、歩き出します。

 その速度は私よりも少し大きいとはいえ、速かったなと思います。

 

 足を滑らせないように、必死彼女の背中を追うと、動物の皮で建てられたらしき家が幾つか並んでいます。

 その数は大体十個ほどです。

 集落にしては少し小さいです。

 

 どうやって作っているのだろうと、疑問を抱きつつも集落の方から歩いてくる人に気付きます。

 目前の少女と同じ防寒着を着た男性です。

 

「君たちは誰だね?」

 近くに至ったところで、男性は口を開きます。

 その男性に、少女は耳打ちをします。

 

「嗚呼、嗚呼、フランク隊の方でしたか。お待ちをしていました。立ち話も何でしょう。どうぞどうぞこちらへ」

 

 男性の背中を追っていると、彼の細い目が私を見ます。

 その眼には疑問があるように思えましたが、飲み込んだのかすぐに前を向いてしまいます。

 

 連れていかれた家の中で、どのような話をしていたのかは知りません。

 私自身、話をしっかりと聞いておこうというつもりがあったのですが、最初に出会った少女とでも遊んでおきなさい、とフランツさんに言われた形になります。

 

 しかし、その少女と話が出来たかと言えば難しいものがありました。

 そもそもとして、私がそう対話が得意な人間ではないということもあります。ですが、それ以上に彼女と対話をするのが困難だったというのがあります。

 

 彼女が何を考えているのかが、まったく私には不明でした。

 気まずいとばかり感じつつも、必死に声をかけたのですが、反応は芳しくない。

 これでは何ともつまらない、と少しばかり悩み始めたところで、丁度フランツさんが帰ってきます。

 その時のフランツさんの何とも困った顔。これを忘れることは出来ません。

 

 そして彼は私を手招きして言います。

「あの子が北方の案内役、その一人らしい。彼女の世話を任せても構わないか?」

 

「えっと……」

 意味の分からない言葉に、当惑をします。

 すると、彼は頭を下げて言いました。

「すまない、私自身もよく理解できていないんだ」

 

 それに、と彼は続けました。

「私にはどうも年ごろの娘との関わり方が分からないんだ」

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