【完結】跡に残るは雪ばかり。   作:朝日橋立

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第四十四話 楽しい宴会だったと思います。

 出航がすぐ目前に迫ったところで、私は船内を駆けずり回っていました。

 中々重いものを手に持ち、船内を往復するのはどうも疲れました。

 それに、体力が落ちていたのだと思います。息も絶え絶えに、数度目の往復を終えたところで、休憩の許可を頂けました。

 

 甲板へと這い出て、息を整えます。

 その中で、忙しなく動く方々を観察します。

 出航が明後日に迫った今日、遠征の成功を祈るお祭り騒ぎをするのです。

 

 祭りを楽しみにしつつ、少しだけ憂鬱な気持ちが湧きあがります。

 もうすぐ私たちは危険な場所に足を踏み入れるのです。

 勿論、フランツさん含め経験者も多いのですから、安全性はあるのでしょう。

 

 しかしながら、絶対的に安全とは言えなくなるのです。

 目前に迫った何か大きな生物の口、それに私たちは進もうとしているように思えます。

 

「黄昏れ出してどうしたんですか? アトウッド伍長」

 

 悩んでいると、なんとも生意気な言葉が聞こえてきました。

 

「ただ休憩しているだけですよ。ヒューさん」

 声の主の方を向くと、彼は何とも重そうな荷物を持っています。

 あれは大変そうだな、と他人事のように思いました。

 

「ここで休憩していたらどやされますよ」

「もう慣れましたよ。話していたらヒューさんこそ怒られちゃうのでは?」

「僕はそんなに怒られませんよ。目をつけられてるのは、アトウッド伍長くらいでしょ」

 

 この時話していたのは、いわゆる陰口というものです。

 人の悪口を言うな、と言われたのは出航の時だったか、もうまともに守っている人はいなかったと記憶しています。勿論、この禁止令を出したフランツさんの前で言う愚者はいませんが。一人を除いて。

 

 その愚か者というのは、今私が陰口をたたいている人。ヒッキー・ウォーカーです。

 いつもいつも所かまわず私の風説を流し、それで何度も私に害をなす人。端的に言えば、嫌いで仕方のない人でした。

 

 このまま彼の悪口を言っているだけだと、なんとも気分が悪くなります。

 せっかくの休憩が嫌な話です。

 

「あっ、ここで少し待ってもらえます? 私も仕事を手伝うことにします」

「分かりましたが、早くしてくださいよ」

「もちろんですよ」

 

 軽口を交わした後、甲板の下への走って戻っていきました。

 これから退屈な仕事を冗談を言いながら頑張った記憶があります。

 

 

 

 

 

 

 さて、準備が終わって幾許か、偉い人達の挨拶も終わってお祭りが始まりました。

 久しぶりに新鮮なお肉を食べてたはずです。

 この時、本国から持ってきた牛を何匹か締めています。私はその牛を見たことはありませんが、お肉は美味しかった記憶があります。

 

 並ぶ二つの船を眺めていると、楽し気な楽器の音が聞こえてきます。

 フィドルとフルートの音色に惹かれ、音のなる方向へと歩いていきました。

 すると、火を囲って楽しそうにしている方々が目に入ります。

 

「いやあ、上手ですね」

 楽しそうに弾いている隊員を見ながら呟きます。

 フルートの人は見たことがありますが、フィドルの人は見たことがありません。きっとノクス号の人でしょう。

 

「そうだろ、あいつらこの為だけに此処に来たような奴らさ」

 私の独り言に、フリッツさんが声をかけてきます。

 少しだけ、その冗談に笑います。

 

「嬢ちゃんも何かやるかい?」

「いえ、特技も何もない人間でして。フリッツさんは何かやります?」

「俺も似たようなもんさ、特に何もしない」

「へえ、何かするものだと思っていました。力自慢でしょうし、腕相撲大会とか」

 

 確かにその手があったか、というような表情を見せた後、フリッツさんはニヤリと笑いながら言います。

「やるかい?」

 

「分かりました。手加減してください」

「おお、乗るとは思わんかった」

「気まぐれですよ。勝てたら貴方の分のお肉でも少しくださいな」

「おうよ」

 

 それから始まった腕相撲でありますが、勿論敗北しました。

 流石に無理があったのです。そもそも身長差がすごいですし、彼は火夫です。絶対に勝ちようがありませんでした。

 少しだけお肉を献上した後、楽器の演奏を眺めました。

 そもそも結構お腹がいっぱいだったので、丁度良かったのかなと思っていたはずです。

 

「何かリクエスト、リクエストありますか?」

 フィドルを持った方が、こちらに問いかけてきます。

 

「えっと、私歌謡に聡くなくて」

「じゃあ、民謡なんてどうです? 歌えますか?」

「えっ、歌うんですか」

 

 私の返事を待たず、彼は演奏を始めます。

 賑やかな伴奏に少しずつ緊張を高めながら、頑張って歌った記憶が残っています。多少下品な歌ではありましすが、きっと場にあっていたのだと思います。

 海に出ていく男の人を待つ、そんな女性の歌は少し恥ずかしかったです。

 

 さてそれから、色々な曲を歌ったのを覚えています。

 人類はみんな兄弟だなんて歌から、国歌。

 太陽は燦々と空に煌めいていて、何とも雰囲気には合わないものでした。しかし、またこれをこの人たちと出来たら、と思っていたに違いがありません。

 

 皆さんきっと良い人達です。

 分かり合える良い隣人だった筈なのです。

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