雪のちらついた高い空に昇っている太陽を仰ぎつつ、大きな欠伸をします。
つい先ほど起きたばかりでこの空でありますから、何とも言えない違和感があります。
もう既に数十日もこの空の下で過ごしているのですが、どうにも慣れません。
こう文句ばかりを考えてはいけない、と思いながらも溜息をついていると、何やら暇そうにしている人を見つけます。
この時間帯でいつも暇そうにしている彼は、ヒューさんです。
「暇ですか?」
そっと近づいて声をかけると、彼は少し驚いた様子を見せてから怪訝な表情を見せます。
「それで暇ですか?」
「ええ、まあ時間はありますね」
「それじゃあ、少し話しましょう」
話し始めはしたものの、特に会話の種を用意していなかったため少し悩みました。
それを察したのかヒューさんは口を開きました。
「アトウッド伍長がいつも一緒にいる彼女はどこに?」
「ああ、サヴィクさんはまだ寝ていますよ。きっと慣れない環境で疲れているのでしょう」
同室の少女のことを考えていると、ふと面白い疑問が頭を通過していきました。
「そういえば、サヴィクさんみたいに太陽が半年沈まないとか、出てこないとかの場所ではどうやって昼夜を分けているのでしょうか」
「さあ? 起きた時を朝としてるんじゃないですか?」
「それじゃあ、感覚的すぎますよ」
「僕に聞かれてもですし、本人に聞いてくださいよ」
何だか冷たいと思いながらも、気になったことを問いかけます。
ふと思い出したことについてです。
「そういえば、だいぶ前になります。この遠征が始まる前、博物館に行きませんでしたか?」
「博物館ですか? はて、僕には行った記憶がありませんね」
「へー、私は博物館であなたを見た記憶がありますよ」
ヒューさんは少し顔を強張らせたように見えました。
ああ、これはきっと黒だなとわずかに呆れます。
「貴方が船に乗る時、ふと既視感を覚えたのですよ。どこかで見た顔だと」
「へえ、それが博物館ですか?」
ヒューさんの問いに、ハッキリと頷くと彼は笑った調子で言います。
「そんなわけないでしょう。というか、アトウッド伍長は犯罪者がそれを自白すると思うんですか?」
その顔にどんな色があったかと言えば、軽薄な安堵の色です。
これは少々触れるべき話題ではなかったな、と何となく察します。
「何でしょう。たぶん勘違いをしていたようです。私が北の人を、そう見たことがなかったから似たような人を勘違いしていたのかもしれません」
何とか話を終わらせよう、と考えていれば彼は口を開きました。
「それにしても、アトウッド伍長が強請を掛けてくるなんて、どういった風の吹き回しですか?」
「……強請ですか?」
「強請じゃないんですか?」
「いや、ただ思い出したから口にしただけですよ」
「仮に、僕が認めたらどうしたつもりだったんです?」
そもそもが否定の解以外を考えていなかったため、少し困ってしまいました。
認めることなど全く考え付きませんでしたし。
「そうですね……。罪を犯したのなら、それは当然償う必要があります。罪はきっと許されません。ですから何かしたかもしれませんね」
「断罪とかですか?」
「いえ、そんな乱暴なこと、断罪なんて私には出来かねます。そもそも私が下せるとしたら、それは酷く偽善的な私刑であり、何らそれに正当性を持ちえない困った行為です」
少し悩んで、再び口を開きました。
「きっと、見逃したと思いますよ。私に罪を追求する資格はありませんが、何か警句でも口にしたかもしれません。いつか天罰が下ってしまいますよ、と」
「何か宗教家らしいですね」
「違いますよ。ただ、こっちの方が幾分も道徳的でしょう」
さて、天罰だなんていいましたが、私はきっと神様を信じてはいないでしょう。
けれども、この口で天罰を語り、さも知ったような口をきいています。
他者が罰せられる前に、もしかしたら罰せられるのは私なのかもしれません。
……以前、心中でこの世の幸福は全てが最悪の為にあると愚痴を吐いたことがあります。
ええ、勿論これはその通りでしょう。
この人生はきっと演劇です。神様が見る演劇に違いがありません。
これが果たして喜劇であったか、それとも悲劇であったのか……。
これを判断する視座はどうにも私にはありません。
神を詐称するような、他人を試す私に喜劇などありえないでしょうから、悲劇なのかもしれません。
しかし、悪役が滑稽に踊る話はもしかしたら、喜劇なのかもしれません。