冷たい北極海に潜ってから半年ほどが経ち、私はグランドラウンドへと訪れていた。
アダム・ハイツマン先生に連れられたのが始まりだったが、私はどうやら遠征隊の跡を追うのが趣味になってしまった。
死人の墓を暴いているような気分だが、それに勝る好奇心である。冒険家の血は争えないのだ。
久方ぶりに、ハイツマン先生を呼び出し、調査に来たのが今回であった。
本来はもっと力を入れたいのだが、私や先生の本業は別にあり、どうにもならないのだ。
「それにしても、綺麗な場所ですね」
寒すぎる気温に体を震わせながら、ハイツマン先生に声をかける。
彼も同様に少しばかり体を震わせて言う。
「中々開発のしようもないからだろう」
確かに言われてみれば、此処は高い建物がない
ちょっとした建物ばかりがあって、近代化から遅れているようにも思える。
ただ、人口と立地を考えてもこの地方都市程度が妥当なような気もする。
「そんなものですかね」
「北の方なんてどこもこんなもんさ。それに大陸から離れた場所だしな」
そう適当な雑談をしていると、遠方から一つの車が走ってくる。
大きな車体が止まると、そこからは男性が出てきて言った。
「ランダイン大学の方ですか?」
「はい。えっと貴方は?」
「私はフィリップと申します。今回、現地までの案内兼運転手です」
そんなものが用意されていることを知らず、ハイツマン先生に小さく問いかける。
「先生が運転するって話じゃなかったのですか」
「氷結した道を運転したくはないだろ」
彼はそういうと、フィリップさんと話しながら車に乗ってしまった。
確かにその通りなのだろうが、お金を無駄に掛けてしまって怒られないのか。疑問が湧くばかりだった。
車に揺られて一時間、私たちは目的地の麓に辿り着いた。
目前には丘が立っている。
「此処からは道が狭くて車が通れないので、歩きになります」
フィリップさんの言葉に、少しだけ嫌気が差した。
丘は意外と坂が急で、登るだけで疲れる未来が見えたのだ。
しかし、歩くしか手段がないこともまた事実で、おとなしく車を降りた。
一時間前より風が強く、だいぶ寒かった。目の前の丘から降りてくる風のせいだろう。
それからは黙々と丘を登った。
やはり坂は急で、頂上に至ったころには息も絶え絶えだった。
やっと息を整え、顔を上げると、一本の棒が不気味に立っていた。
朽ちかけというのがもっともらしいただの棒。
「えっと、これはなんでしょうかね」
「それは礼拝所跡ですよ。何年か前までは、古いリボンとかがあったらしいんですが、たぶん全部壊れちゃったんでしょう」
「どういった意図があったのでしょうね」
どこか遠くを見ているハイツマン先生に声をかけると、彼は意外にぶっきらぼうな声を発した。
「祈祷をしたかったとか、それだけじゃないかな」
何だか適当だ、と思いながらも、彼が向いている方向を見る。そこでは、名前も知らない岬で波が砕け、その白波がまた新しい波にのまれていく。そんな光景が見えた。