【完結】跡に残るは雪ばかり。   作:朝日橋立

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閑話十二 二百年も前に思いを馳せる

 冷たい北極海に潜ってから半年ほどが経ち、私はグランドラウンドへと訪れていた。

 アダム・ハイツマン先生に連れられたのが始まりだったが、私はどうやら遠征隊の跡を追うのが趣味になってしまった。

 死人の墓を暴いているような気分だが、それに勝る好奇心である。冒険家の血は争えないのだ。

 

 久方ぶりに、ハイツマン先生を呼び出し、調査に来たのが今回であった。

 本来はもっと力を入れたいのだが、私や先生の本業は別にあり、どうにもならないのだ。

 

「それにしても、綺麗な場所ですね」

 寒すぎる気温に体を震わせながら、ハイツマン先生に声をかける。

 彼も同様に少しばかり体を震わせて言う。

「中々開発のしようもないからだろう」

 

 確かに言われてみれば、此処は高い建物がない

 ちょっとした建物ばかりがあって、近代化から遅れているようにも思える。

 ただ、人口と立地を考えてもこの地方都市程度が妥当なような気もする。

 

「そんなものですかね」

「北の方なんてどこもこんなもんさ。それに大陸から離れた場所だしな」

 

 そう適当な雑談をしていると、遠方から一つの車が走ってくる。

 大きな車体が止まると、そこからは男性が出てきて言った。

 

「ランダイン大学の方ですか?」

「はい。えっと貴方は?」

「私はフィリップと申します。今回、現地までの案内兼運転手です」

 

 そんなものが用意されていることを知らず、ハイツマン先生に小さく問いかける。

「先生が運転するって話じゃなかったのですか」

 

「氷結した道を運転したくはないだろ」

 彼はそういうと、フィリップさんと話しながら車に乗ってしまった。

 確かにその通りなのだろうが、お金を無駄に掛けてしまって怒られないのか。疑問が湧くばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 車に揺られて一時間、私たちは目的地の麓に辿り着いた。

 目前には丘が立っている。

 

「此処からは道が狭くて車が通れないので、歩きになります」

 フィリップさんの言葉に、少しだけ嫌気が差した。

 丘は意外と坂が急で、登るだけで疲れる未来が見えたのだ。

 

 しかし、歩くしか手段がないこともまた事実で、おとなしく車を降りた。

 一時間前より風が強く、だいぶ寒かった。目の前の丘から降りてくる風のせいだろう。

 

 それからは黙々と丘を登った。

 やはり坂は急で、頂上に至ったころには息も絶え絶えだった。

 

 やっと息を整え、顔を上げると、一本の棒が不気味に立っていた。

 朽ちかけというのがもっともらしいただの棒。

 

「えっと、これはなんでしょうかね」

「それは礼拝所跡ですよ。何年か前までは、古いリボンとかがあったらしいんですが、たぶん全部壊れちゃったんでしょう」

 

「どういった意図があったのでしょうね」

 どこか遠くを見ているハイツマン先生に声をかけると、彼は意外にぶっきらぼうな声を発した。

「祈祷をしたかったとか、それだけじゃないかな」

 

 何だか適当だ、と思いながらも、彼が向いている方向を見る。そこでは、名前も知らない岬で波が砕け、その白波がまた新しい波にのまれていく。そんな光景が見えた。

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