第四十九話 耐えがたい寒さです。
大きな欠伸をして、荷物を船から下ろしていきます。
つい先日、私たちは無事に野営地へと到着しました。
既に夏も終わり際へと差し掛かり、このままの航海は不可能なために私たちはここで越冬をするのです。
今いるのは、それはもう小さな島です。
しかし、周辺の探索のお仕事があるそうで、資材を島へと下ろす作業に私までもが動員されることになりました。
「シア、これどこ」
再び船内へと戻ったころ、サヴィクさんが大きな荷物を持って問いかけてきます。
「取り敢えず、外に持って行ってください。そこで隊長さんの指示に従ってください」
彼女の荷物がどこに持っていくのものかは分かりませんでしたが、適当なことを言います。大抵の場合、外にはその荷物の管理者がいますから、どうにかなるだろうという考えでした。
そのように仕事を続けて三十分にも満たない程度で、大体が終わり、医務室に戻るようにと言われました。
思ったよりも時間が掛からなくて嬉しいばかりです。
医務室も勿論寒いのですが、外よりかは幾分もマシです。
そもそもとして、こんな北方は人が住むのにとても適しているようには思えません。
探検隊に付いていったサヴィクさんを待ちつつ、日記を書いていると、小さな足音が聞こえます。
「どうでした、サヴィクさん」
何て発しながら入口を見ると、そこには火夫のフリッツさんが立っていました。
「あれ、珍しいですね。どうかしましたか?」
「いや、まあ俺がどうしたって訳じゃないんだがな。痛み止めを貰いに来たんだ」
「怪我人ですか。流石に理由も聞かずに渡せるものじゃありませんよ。劇薬ですから」
「一応グッドマン少尉には許可を貰っているんだが」
ヘンリーさんが既に診ているのか、と思いながらも返答をします。
「面倒ですが規則もありますから、許してください」
「数人の奴がひどい腹痛がずっと続いてる」
「いつ頃からですか」
「昨日からだ」
事務的な会話をしつつ、阿片チンキを用意します。
ここで問答を繰り返していても、大きな意味はありませんから、現場に行く必要があると思われたためです。
フリッツさんに案内をお願いして、急いで向かうと、五人ほどが横たわっています。
同時に五人というのですから、食中毒でしょうか。
「シアちゃん、鎮痛剤は持ってきたかい」
「あっ、はい、どうぞ」
持ってきた阿片チンキと水の混合物を手渡しながら、問いかけます。
「これってまた食中毒ですかね」
「どうだろうね。君の魔法は全てにかけているだろう。なのに、起きたということはまた別の所にあるのかもしれない」
患者さんに、鎮痛剤を飲ませながら考えます。
果たして原因は何なのでしょうか。それに、この腹痛騒動は二度目ですから、何か共通の理由があると見るのが妥当でしょう。
もしかしたら、誰かが毒を入れた可能性なんてあるのでしょうか。
……酷い妄想が頭を過りました。仲間を疑うなんてとんでもないことですし、そもそも薬品の管理をしているのは私なのですから、実際毒を入れるなんて無理がある話です。
「食器とか飲み水とかを含め一通りやるしかないかな」
「果てしない作業量ですね」
「でも、これ以上出るようだと仕方がない。阿片も有限だろうし、僕らが管理できる人数にも限界がある」
頷きながらも、色々と考えを巡らせ続けます。
この病の原因は必ず見つけなければいません。でなければ、いつ誰が病魔に侵されるかわからない不安を皆さんが罹患することになります。
確かに現実に病は恐ろしいものですが、同様に不安というのも恐ろしいものでありますから。
さて、それから実際に浄化の魔法を掛け続ける作業が始まりました。
気の遠くなる作業だったと記憶しています。
具体的に、これでどういった結果が分からずに続ける作業程、気の滅入るものはありません。
その作業というのは、大変に長く続き、既に夏が終わってしまい、長くてつらい冬が始まりました。
寒さはさらに増して、船内であろうとも寒さに震え続けることになりました。
しかし、これも今年で終わりだなんて思いながら、必死に耐えつつ浄化の作業を進めました。
結局のところ、既に腹痛を訴える方以外に、新たな罹患者は出ることがなかったので、これはある程度の成功を収めたと言えるでしょう。
それからは長くて辛い冬との対決が始まりました。
この寒さはただでさえ辛いのですから、病人にとっては耐えがたいものがあったでしょう。
今回はいつものモノローグをなしにしました。
最終章ですし、もういらないかな、と。
また、最終話までノンストップで行きます。