【完結】跡に残るは雪ばかり。   作:朝日橋立

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第五十一話 再び船は進みます。

 一つ溜息をついて青白い空を見上げます。

 数か月も前になりますが、長い夜も既に終わってしまって、この北極の世界は永遠の朝を迎えてしまいました。

 最初の頃は何とも感動的な夜明けでしたが、今ではまた嫌気が差してしまいました。

 

 さて! 空を見上げているということは、私が珍しく甲板へと出ているということです。

 やっと私たちの元に訪れた夏はどうにも暖かく、湿度の高い医務室ばかりにいることが耐えられなかったのです。

 

 右舷に駆け寄り、遠くを眺めます。

 視界は大変に広がっていて、すぐ右には旗艦のノクス号が、目前には一面の銀世界。積もった雪は長く寒い冬のために硬くなっているでしょうに、どうにも柔らかく見えます。

 

 そこで少しの間地平線の彼方を眺めていると、視界の端で何かが動いたように思われて、ノクス号の方へと目を向けます。

「あっ」と小さく零して、彼がこちらへ来るまでしばしここで待つことにしました。

 

 それから登ってきた彼に敬礼とともに声を掛けます。

「おはようございます。クロージャ中尉」

 船に帰ってきたその人は、フランツ・クロージャーさんでした。

 

「ああ、シアか。久しぶりだな、体調に変わりはないか」

「はい、お久しぶりです。私も含めて新しく体調不良な方はいません」

「確か腹痛だったか、彼らも変わりはないか」

「そうですね、……変化はないです」

「……そうか」

 

 会話からも分かる通り、これは随分と久しぶりの再会でした。

 大体二ヶ月ほど前のことですが、海を覆う氷が少しずつ解け始めたころに、フランツさんはノクス号の方へと出向いていました。

 

「ノクス号の方にも体調がすぐれない人はいましたか?」

「ああ、こっちと同じ症状で何人かいた」

「なるほど……」

 

 こちらタナトス号と同じことがノクス号の方でも起きている、これはきっと何かしら共通の原因があるからにほかなりません。

 すぐに原因を究明しないと、もっと広がってしまうかもしれません。

 

 少しノクス号の方へと出向きたい気持ちがありました。

 しかし、今ここにフランツさんが帰ってきたということは、同時に私が出向くことが不可能になったということでもあります。

 

「それで、もう出航ですか?」

 彼は静かにうなずいて、それを肯定しました。

 

 もう一年目が終わったのです。

 思うに、この一年目は良い年でした。最良の年でした。

 

 感慨深くとも違うよく分からない感情でいると、フランツさんの持ち物に気付きます。

 

「あっ、荷物持ちます」

「助かるよ」

 

 少しばかり重い荷物を受け取り、私は彼について行きます。

 

 その日は特別暖かな日だった記憶があります。

 外から船内へ入った時に、確かに手の感覚が残っていました。

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