一つ溜息をついて青白い空を見上げます。
数か月も前になりますが、長い夜も既に終わってしまって、この北極の世界は永遠の朝を迎えてしまいました。
最初の頃は何とも感動的な夜明けでしたが、今ではまた嫌気が差してしまいました。
さて! 空を見上げているということは、私が珍しく甲板へと出ているということです。
やっと私たちの元に訪れた夏はどうにも暖かく、湿度の高い医務室ばかりにいることが耐えられなかったのです。
右舷に駆け寄り、遠くを眺めます。
視界は大変に広がっていて、すぐ右には旗艦のノクス号が、目前には一面の銀世界。積もった雪は長く寒い冬のために硬くなっているでしょうに、どうにも柔らかく見えます。
そこで少しの間地平線の彼方を眺めていると、視界の端で何かが動いたように思われて、ノクス号の方へと目を向けます。
「あっ」と小さく零して、彼がこちらへ来るまでしばしここで待つことにしました。
それから登ってきた彼に敬礼とともに声を掛けます。
「おはようございます。クロージャ中尉」
船に帰ってきたその人は、フランツ・クロージャーさんでした。
「ああ、シアか。久しぶりだな、体調に変わりはないか」
「はい、お久しぶりです。私も含めて新しく体調不良な方はいません」
「確か腹痛だったか、彼らも変わりはないか」
「そうですね、……変化はないです」
「……そうか」
会話からも分かる通り、これは随分と久しぶりの再会でした。
大体二ヶ月ほど前のことですが、海を覆う氷が少しずつ解け始めたころに、フランツさんはノクス号の方へと出向いていました。
「ノクス号の方にも体調がすぐれない人はいましたか?」
「ああ、こっちと同じ症状で何人かいた」
「なるほど……」
こちらタナトス号と同じことがノクス号の方でも起きている、これはきっと何かしら共通の原因があるからにほかなりません。
すぐに原因を究明しないと、もっと広がってしまうかもしれません。
少しノクス号の方へと出向きたい気持ちがありました。
しかし、今ここにフランツさんが帰ってきたということは、同時に私が出向くことが不可能になったということでもあります。
「それで、もう出航ですか?」
彼は静かにうなずいて、それを肯定しました。
もう一年目が終わったのです。
思うに、この一年目は良い年でした。最良の年でした。
感慨深くとも違うよく分からない感情でいると、フランツさんの持ち物に気付きます。
「あっ、荷物持ちます」
「助かるよ」
少しばかり重い荷物を受け取り、私は彼について行きます。
その日は特別暖かな日だった記憶があります。
外から船内へ入った時に、確かに手の感覚が残っていました。