つい先日私たちの航海は再開することになりました。
薄くなった氷の隙間を抜けて、船は先へ先へと進んでいきます。
ただ氷まみれの場所を行きますから、どうしても停泊する機会も多くって、今日もいつも通りに停泊することになりました。
私の役割と言えば、医務室で怪我した人を待つばかりです。
大変に退屈でありますが、忙しい日々を望むのは不謹慎ですから当然望んではいません。
けれども、どうしても退屈なのは変わらず、甲板の方へと顔を出していました。
怪我した人が出た時、いち早く対応もできるだろうと自分に言い訳をして、氷の上へと降り立った人達を見ます。
船体はへこみが目立って、とてもおんぼろに見えます。
それに応急処置をしている人たちの努力も虚しく、これはどうしようもならないだろうという予感がしました。
「よっ、嬢ちゃん」
火夫のフリッツさんが声をかけてきます。
彼は少し疲れているように見えました。
「こんにちは。修理はどんな感じですか」
「いやあ、中々中々って感じよ」
「へえ、じゃあ今日はもう進めないのかもしれませんね」
「ああ、たぶんな」
フリッツさんは、それに、と言葉を付け足します。
「ラダーもいっちまったみたいだしな」
……ラダーというと舵のことでしょうか。
それは果たして壊れてしまって大丈夫なのでしょうか。
「不安そうだな」
私の不安を見抜いたのでしょう。フリッツさんは強かに笑います。
「不安ですよ。実質的に足がなくなったようなものでしょう」
「ハッハ、面白いことを言う。まあ、安心しな。あと百回壊れようと、必ず直して見せるさ」
「フリッツさんは火夫さんでしょう。関係ないじゃないですか」
「仲間を信頼することも、一つの仕事だろう」
その通りだとは思いますが、なんとなく納得は出来ませんでした。
そんな私の心を表すように、ただ船の軋む音がよく響きます。
「……大丈夫ですかね。何だか圧壊しそうです」
「さあな、ただ壊れた時はそん時に考えればいい。最悪俺たちは、南に向かって歩くだけさ」
楽観主義的なことに、更に不満を募らせていると、大きな声が響き渡ります。
「フリッツさん、ボイラーが死にました。修理手伝ってください」
「……大丈夫ですか」
「大丈夫さ、俺が一番この船に詳しいんだ。博士さ、博士」
フリッツさんが所謂博士らしい恰好をしている姿を想像して、何だか笑えてきました。
どうにも似合いません。
「頑張ってください。応援してます。すぐ直してくださいよ。今でさえ寒いのに、ボイラーが死んだままだと更に寒くて死んじゃうかもしれません」
「ハハハ、面白いことをいう。きっとお前は死なないよ」
私に似合わない冗談でしたから、少しどきどきとしました。
ただいつも通りの返答で安心をしたのも事実です。
「それじゃあ、何かあったら呼んでくださいよ。私が専門家として必ずや仕事をします」
言葉を選ぶ中で、私にはどうしても必ず直してみせるとは言えませんでした。
物事をよく虚しいだなんていう詩人さんがいますが、きっとその通りです。
自分の言葉が過言だと気づいたとき、虚しさの正体に気付くのです。