【完結】跡に残るは雪ばかり。   作:朝日橋立

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第五十三話 何だか引き寄せられる不運です。

 久しぶりに太陽が沈むのを見た時、私は果たして何を思ったのでしょうか。

 感動でしょうか、それとも驚きでしょうか。

 ……現実に思ったのは、名前も知らない情動でした。

 

 恐怖とは少し違う、ただそれと全く似ていないかと言えばその限りではありません。私の感情の一端に、確かな恐怖がありました。

 何というのでしょうか、最も近い感情はきっと絶望でしょう。

 

 何もかもが想定よりも進んでいませんでした。

 フランツさん含め首脳陣が考えていた計画に、大幅な遅れが出ているのです。

 それなのにもう夏が終わったのです。

 

「この航海ってどうなるのですかね」

 医務室で呟くように、ヘンリーさんに問いかけます。

 

「どうだろうね。ただ、まだ進むと思うよ」

「進めるんですか」

「まあ、進むしかないだろうね。僕らはあと一年と少しの分の食量しか持っていないからね」

 

 だからといって、新しい危険に足を入れているだけではないか、と思えてしまいました。

 ただこの時の言葉は、何もせずに死ぬことを拒む言葉だったのだろうと考えています。

 何事もせずにただ死を受け入れるというのは、きっと楽なのだと思います。でも、納得は出来ないものです。

 

「そうです、確かにその通りです」

 返事をしながらも、多少の不安が萌芽しました。

 きっと皆さんこの不安に苛まれていたのだと思います。

 

 それに、夜というのもきっとよくありませんでした。

 段々と不安に飲まれて行ってしまいます。

 そして不安も絶望も、良くないものは良くないことを引き込みます。

 

 朝に何とか航海を続けた私たちの船団は、旗艦のノクス号が完全に氷に嵌ったことを起因に、完全停止を余儀なくされました。

 どうにかできないものかと出張った私達タナトス号組は、ノクス号の様子を見て諦めざる負えませんでした。白く固まった氷は、食い込んだノクス号を殆ど取り囲んでいます。

 

 それによって私たちの二度目の越冬が始まりました。

 想定外の末に出来上がった冬です。

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか? サヴィクさん」

 医務室のベッドで寝ている少女に声を掛けます。

 この夏、原因不明の病魔は少しずつ手を広げていきました。現実に目前にいるサヴィクさんもその一人です。

 

「うん」と、答える声は少し弱弱しく感じました。

 

「何かあったらすぐ言ってくださいね。私は病気と怪我の専門家です」

 全くもって嘘のことを言います。

 私は断じて病気も怪我も専門家ではありません。

 たった二年、たった二年学校で勉強しただけです。それも二年間全てではありません。

 私は全く専門家ではないのです。

 ただ、私を含めた人を騙す言葉を口にしていたにすぎないのです。

 

 思えば、私は罪を犯し過ぎたのかもしれません。

 以前、誰かに罪を犯すのは人なのだから、人が罪でないことはあり得ないと言いました。

 私は、いえ私が罪だったからこそ、罰があるのです。

 

「うん、シアかっこいい」

 サヴィクさんは笑顔で言います。

 私よりも大きな筈の少女が何だか小さく見えて、元気いっぱいのはずの彼女がこうも疲れていて、苦しそうで……。腹の底に何だか違和感がありました。

 腹の奥に鉛が注がれたような重い、そして鮮烈な違和感です。

 

「そうでしょう、ですからすぐに頼ってください。頑張りますから」

 そう言って笑顔が出来たはずです。

 ええ、きっとそのはずです。

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