フランク大佐、私たちの遠征隊の隊長が死にました。
彼の死はとても運の悪い出来事でした。私にとっても他の方々にとっても。
そもそもジョッシュ・フランク、彼には絶対的に口を割らせなければいけない事実がありました。
私がこの船に乗ることになったすべての原因、彼が握っている家族を殺した人物についての情報です。
しかし、今ではきっとそれを知っている人は居なくなってしまいました。
足元が完全に崩れ去ったような思いでした。
私がここにいる理由の根本がなくなってしまったのです。仕方なかったと思いたいです。
そうして、よく分からない中、今まで通りの生活を続けました。
私自身皆さんの為に頑張らないと、ということもありました。それに、新しく受け入れることになった病人の方のためという責任感もありました。
ただこうなって思ったことが一つあります。
私は大変に卑しい人間でした。復讐の為に生きることがなんて虚しく、無様で、そして愚かしいことでしょうか。
極夜の日々が終わり、朝日が出始めたころ、フランク大佐の葬儀が行われました。久方ぶりに身を包んだ礼服は、とても頼りなくって、指の先から震えが止まりません。
突貫の棺に納められた彼は水葬されることになりました。
少しずつ氷が解け始める季節であったことも要因でしょう。皆さん頑張って結果として氷を貫くことが出来ました。
ところで、通例では死んだ指揮官というのは、できる限りその死体を持ち帰られると言います。
今回は海に流されていることから、少々フランク大佐が哀れに思われました。
北方航路の開拓だけを願った人がその道半ばで倒れ、すぐに水葬されるのですから、私の感想も妥当だとは思います。
さて、空に何度か銃が打たれます。
乾いた音が響く中、私は小声でヒューさんに声を掛けます。
「これから誰が隊長になるんでしょうね」
「クロージャー中尉じゃないですかね」
「そうですかね、ノクス号の艦長のジェイムズ大尉でしたっけ? 彼じゃないのですか」
「どうでしょうね。噂ですけど、これが初の北方らしいですし」
「なるほど」
そう返す私の声に、不安があったことは間違いありません。
件のジェイムズ大尉ではありますが、私は彼とはあまり関りがありません。
船が違ったということに加えて、ただ一つ言えることがあるとすると、彼は絶望的に運が悪かったのです。
いつの間にやら終わってしまった葬式に、少しほっとして船へと帰っていきます。
隊長が死んだということは、まるっきり方針が変わると考えてもおかしくないわけですから、心の準備をしなくてはなりません。
大きな不安と、これからについての少しの希望をもって医務室へ帰ると、横たわる少女に声を掛けます。
「ただいまです、サヴィクさん。調子は大丈夫ですか?」
彼女は寝てしまったのでしょう、あまり反応をしてくれませんでした。
少し鎮痛剤を準備して、受け入れた病人の人たちも見回ります。
今日は珍しいことに、それほど痛みを訴える方がいません。
運が良い日なのかもしれません。
ほっとした記憶があります。
ただ少しばかりの安堵です。
さて、色々とお仕事をおえたあと、暖を取りながらちょっとした悪いことを考えます。
そもそもとして、一体どうしてフランク大佐は死んだのでしょうか、と。
あの極夜の日です。彼が外を出歩くとは、どうにも考え難いです。
それに、総指揮官がわざわざ寒い外に出るとも思えません。
ですから、一体どうして偶然海に落ちて凍死するなんて事態が起きるでしょうか?
加えて、それを偶然に引き上げられるというのも可笑しな話です。
どうにも裏がある気がします。怪しい、狂った、信じがたい計略です。
私は色々と悪い考えを浮かべでは消していました。
実際のところ、多々怪しいこともあるのでしょうが、考えすぎだったのでしょう。
ただ、私はそのときその考え達を消すことは出来ませんでした。
恐ろしかったのです。
自分が殺されることが、もしかしたら後ろから刺される可能性があるという事実が。
私は以前、死ぬまでに後悔することが怖いと言いました。きっとこれは嘘です。私は死ぬことが怖いです。ただそれだけが怖かったのです。
船の軋む音が妙に響いて、寒さと違うよく分からない感情の、よく知った震えが体を揺らしました。