【完結】跡に残るは雪ばかり。   作:朝日橋立

69 / 75
第五十七話 少しだけ可笑しい気がします。

 寒すぎる空気に、身体を震わせ、冷たい缶詰を食べていました。

 大部分が凍っているような気もします。

 ただ解けるまで待つのも途方もなく、そのまま口にします。

 

 医務室の気温は、水の凍らない程度になっています。

 居住区も似たようなところです。

 

 これで三度目の越冬ですが、私の仕事はだいぶ楽になったことと思います。

 ノクス号からの病人が来なくなったという影響もあれば、何人か病人の人が死んだということもあります。

 

 人が死んで楽になった、と喜ぶのも些かどうかと思われますが、実際これが事実なのです。

 私は楽になって、多少なりとも嬉しさがありました。

 

 そもそも私はノクス号の隊員など、微塵も知りはしませんし、信用もできない。

 思えば、彼らに信用のできる要素などなかったのです。言ってしまえば、私たちの敵が減ったのです。

 

「サヴィクさん、生きてますか?」

 缶詰を半分ほど食べたところで、どうにも食べる気が失せて背後の少女に小さく声を掛けます。

 此処には他にも人が詰め込まれているため、何やら文句を言われるのが面倒だったためです。

 

 どうやら本日は、彼女の意識がしっかりしていったようです。

 頷きながら、久方ぶりに声を発しました。

 

「うん」

「それは良かったです」

「シア、大丈夫?」

「ええ、私は結構元気です」

 

 サヴィクさんは、何だか悩まし気に目を閉じます。

 その様子を見ていると、やはり不思議な感情が巻き起こってしまいます。

 何だか彼女が小さく見えてしまいます。強いて言うならば、庇護欲とかでしょうか?

 そう考えると、やはり私には余裕がまだまだあるようです。

 

 申し訳なさに似た感情もありましたが、きっと私は運がいいのでしょう。

 うんうん、と自分の幸運に感慨深く思っていると、そういえばと忘れていた仕事を思い出します。

 

「あっ、ごめんなさい。仕事ありました」

 断りを入れて、一度医務室の人たちを見渡してから、居住区角の方へと出ていきます。

 医務室には、ぱっと見たところでは死んだ人は居ませんでした。

 ただ居住区の方は少しばかり寒いので、何人か死んでるかもしれませんね。

 

 実際、見たところでは何人か死んでそうな人がいるので、溜息が出てしまいます。

 もしかしたら生きている可能性を信じて、確認をしたところ、死んでいました。

 不幸な人達ではありますが、どうも仕方のないことです。

 

 運ばないといけない、と思いながらも、どうにもやる気が起きずに、死顔を見ていました。苦しそうな顔です。

 ……何だか見たことがあるような気がします。

 確か停泊地で、一緒に祭壇を飾った人だった気がします。

 

 可哀そうにな、と思ってしまいます。

 でも、実際死んでしまったのですから仕方ありません、ここで腐らせるわけにもいきませんし。

 

「ちょっと手伝ってください」

 適当な隊員に声をかけ、幾つかの死体を最下部の方へと運びました。

 何だか最初はなれませんでしたが、幾度も繰り返すと慣れるものです。

 

 この頃からでしょうか。密かに、魔女なんて言葉が聞こえるようになったのは。

 これは確かに古風な表現です。ただ、人は恐ろしいものですね

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。