【完結】跡に残るは雪ばかり。   作:朝日橋立

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第五十九話 雪に埋もれるでしょう。

 南下を始めるその日です。

 準備を終えてから一度仮眠をとり、タナトス号の右舷側の氷上に集合していたところです。

 船が燃えました。

 

「アトウッド伍長、あれって燃えてませんか?」

 ヒューさんがノクス号を差して言います。

 甲板から黒煙が立ち上っているのが見えます。

 

「えっ」

 そんな素っ頓狂な声が出ました。

 それから幾つかの銃声があって、私は押し倒されます。

 

 どうにも現実がよく分からなくて、私の目前にある顔を見ます。

 確かノクス号の船員の方です。

 はて、私はどうして彼に押し倒されているのでしょうか?

 

 意味が分かりません。

 一体どうしてでしょうか。

 仮に、これに何らかの意味があっても、非合理的です。

 

「ごめんよ、でもアンタが悪いんだ。アンタが魔女だから」

 

 彼はゆっくりと私の首を絞めます。

 殺されるのでしょうか?

 ああ、運が悪いです。

 

 薄れてゆく意識の中で、適当なことを考えていました。

 最後に思っていたのはたった一つです。どうやって呪ってやりましょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ましたのは、寒かったからでしょうか?

 それとも、騒々しさのためでしょうか。

 暗い場所に居ました。最下部の死体置き場です。

 

 ……待ってください。

 此処はどこです?

 死体が明らかに少ないです。

 

 何だか見慣れない景色に、動悸がして辺りを見渡します。

 やはり死体の数が少ない。数えなくても分かります。

 

 そもそもとして、一体どうして私はここに入れられているのでしょうか。

 先程、死んだと思われたのでしょうか。

 すると、ヒューさんとか他の人たちはどこにいるのでしょう。

 

 階段の方へとゆっくりと歩いていきます。

 その中で持ち物を少し確認します。

 持っているのは、防寒着のポケットに潜めていたペーパーナイフのみです。

 

 息を殺して、上の様子を伺います。

 騒々しく何かを食べています。

 豪勢に何らかを焼いているようです。鳥とかを見つけたのでしょうか?

 ……ところで、どうして強い鉄の臭いがするのでしょうか。

 

 足元がグラグラします。

 でも、今倒れたらいつ凍死するかもわかりません。

 

 何か行動を起こさないといけません。

 そう行動を起こすのです。

 まずヒューさんとか、ヘンリーさんとか、信用できる人と合流しましょう。

 

 ひとまずの目標を定め、此処から脱出する方法を考え始めます。

 何か役立つ道具はないものかと思って、下の所に戻って考えていると、階段から人が滑り落ちてきます。

 

 驚いて、死体の山に隠れてから、その人物を見ると、目があいます。

 火夫のフリッツさんです。

 

「大丈夫ですか?」

 フリッツさんに手招きして、小さく問いかけます。

 彼は何やら驚いた様子です。

 

「俺は大丈夫だけど、嬢ちゃんこそ大丈夫か?」

「私は、はい。大丈夫です。他のヒューさんとか、ヘンリーさんはどうですか?」

「ヒューは見てないから分からんが、その他は殆ど問題ない。ただ、ノクス号の艦長が撃たれて死んだ」

「……あの時ですか?」

 

 フリッツさんは小さく頷くと、恨めしそうに上の方を睨みます。

 

「ところで、どうして此処に落とされたんですか?」

 

 彼は何だか言葉に詰まっていました。

 それから、一度考える素振りを見せて遂に口を開きます。

 

「アイツらは悪魔に落ちちまった。下郎さ。それに不満を言ったらこれさ」

 

「悪魔、ですか」

 行為を考えたくはありませんが、なんとなくは察しが付いています。

 ただ、それを言葉にはしません。

 

「これからどうしますか?」

 本来、私が考えるべきことをフリッツさんに問いかけます。

 一応の下士官ですから、職務放棄と言っても過言ではありません。

 

「クロージャー隊長と合流してから脱出するしかないだろう」

「まず此処から出ることも難しい気がします」

「……いっそのこと、この船も燃やすか?」

「正気ですか? 病人ごと焼き殺すことになりますよ」

 

 サヴィクさんのことを思い浮かべます。

 他にも逃げ切れない人も居るでしょう。

 

「焼死するか、餓死するかの違いだろ」

「その通りかもしれません。ただ、それをやるともうこちらも悪魔です」

 

 うんうんと話し合って、結局は何も決まりませんでした。

 そして話は初めに戻って、燃やすか否かになります。

 

 ただどうしてもその話をしたくなくて、逸らすことにしました。無理やりではありましたが。

 

「ところで、上の敵は何割くらいなのですか」

「ノクス号の殆どと、タナトス号の少し。ただ、上で騒いでるのは8割強だろうよ」

「残りの人たちはどこですか?」

「死んだか、食堂の方に詰め込まれてる」

「どっちの人の方が多いですか?」

「食堂組さ」

 

 その問答の末、もしや勝てるのではないか、と思います。

 この狭い船内ですから、最悪何人か死んでも、道連れには出来ます。

 けれど、連絡を取り合えないのが難点でしょうか。

 

「嬢ちゃん、戦おうなんて考えはなしだぜ。やつら銃を持ってる、こっちは丸腰だ」

 

 それからも話し合いを続けました。

 その末です。

 私たちの行為は決まりました。

 もしかしたら、私たちは悪魔かも知れません。

 ただ、こんな北の果てに神様の目はないでしょう。

 

 どうせ、私たちの行為も雪に埋もれます。

 私たちは船を燃やすことにしました。

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